夜中の街を走っていると、普段通る道でさえ新鮮に感じた。

それは設定師として心構えが出来たからなのか?

店に到着し半開きのシャッターを潜ると、閉店作業は終わり昼間とは随分と違う雰囲気が店内に流れていた。

パチンコ店勤務時代に何度も見た光景のはずだが、今までとは何か違って見える?

そんな事を考えながら店内をぶらぶらしていると、帰り支度を済ませたアルバイト達が『お疲れ様でしたぁ~』と呟き帰っていった。

事務所に入り赤井店長に挨拶を済ませホールコンを触っていると、壊し屋社長が現れた…。数日前に、打ち合わせとこれからの計画書の提出は済んでいたが、これからどんな設定をするのか気になったのだろうか?

特に何をする訳でも無く隣に腰掛け一緒にホールコンを眺めていた。

赤井店長の仕事が一段落したので、機械調整をする前に改めて今後の展開を説明する事にした。

ゆきち『社長もおられますし今後の展開を説明しますね。』

ゆきち『先ず今週は全力回収で行きます!!』

ゆきち『全台ストック飛ばしの設定はオール1です!』

ゆきち『さらに!来週から低換金に変更して利益を上乗せします!』

赤井店長『そ、そんな事したら店が潰れるじゃないですか!』

ゆきち『このまま営業しても近いうちに潰れますから…』

赤井店長『……うーん。』

ゆきち『計画的に潰すんですよ』

赤井店長『け、計画的…?』

ゆきち『そう!計画的に店を潰して店名も変えて再出発します。』

既に信用を無くした店、このまま営業を続けても数ヶ月で潰れるのが関の山…ならば計画を立てて早めに潰した方が余計な経費がかからない。

一ヶ月で400万程度の粗利しか上がら無い店で、二週間で600万の粗利を確保する計画をスタートさせる事にした。

今までは一日の平均売上が40万程その内の25万程を客に返し、残りの15万が今までの利益…二週間は14日一日40万円の利益を出したとしても560万…まだ目標数値に足りない(笑)

しかし計画的に潰すとなれば話は変わってくる…。

スロットには基準が定められ一定の還元率を下回る調整は出来ない仕組みになっているが、当時の設置機種は正規の台でも裏物と肩を並べる程還元率を大きく調整出来る台が多かった…。

ちょっとした知識が有れば、その秘めたポテンシャルを最大限に発揮する事が出来た時代。

通常営業なら客の顔色を伺いながら細く長く抜くのが定石だが、そんな事をしていては店の体力が持たない…。

健全営業では絶対使う事の無い設定1より遥かに下回る驚愕スペック(笑)

悪魔の設定…と言う言葉がふさわしいだろうか?

スロットをただの貯金箱化する為の仕込みを始める事にした。

通常の利益の3倍となる2週間で600万円の粗利確保、達成出来なければ設定師稼業はアッと言う間に終わってしまう、意地でも目標を達成しなければならなかった。

先ずは全台設定1…。

と、言っても既にお店はぜんぶ設定1(笑)

これ以上に、利益を確保するにはストック飛ばしと言う手法が必要だった。

が、しかし…

ストック飛ばしは既に攻略誌などでプレイヤーに知れ渡り、下手にやりすぎてしまうと瞬く間に噂を立てられ、以後の集客やイベントがやりにくくなる。

簡単にバレてしまっては600万の粗利どころか、明後日の集客でさえ危なくなってくる…。

現状はスロットの知識の乏しいオジサン、オバサ達が来店しているだけで、数日ならストックを飛ばしてもさほど気づきはしないだろう…。

が、2週間もストック0設定1で営業すればどんな人でも超ボッタクリ店と言う事に気付く!!

元々ボッタクリ営業の店だが、さすがに2週間ストックを飛ばして抜き続ける事は不可能なので、打ち込み機を使って仕込みをする事にした。

この打ち込み機…もとはモーニングを仕込む為に作られたものだが、ストック機の打ち込みの代用としても使える便利でありがたい機械なのだ。

こいつを台に仕掛け数時間放置しておくと、少しだけストックが貯まる…

機種によって違いは有るが、ストック機が本来の性能を発揮するまで約7000プレー(約12時間)以上、回さなければ連荘性能は発揮されない…。

ストックが少ない設定1は連荘しない上にお客にバレにくい=貯金箱状態になってしまうのだ。

打ち手の気持ちを考えると、罪悪感が有ったが、2週間だけ!!この店の再出発の為に…この分は何時か必ずお客に返すと誓って作業に取り掛かった。

ゆきち『手順を教えますから言う通りにやって下さいね』

赤井店長『なんだかドキドキしますね~(笑)』

ゆきち『そうですかぁ~(笑)』

ゆきち『まず台の電源を落として主基盤のコネクターを外して下さい。』

ゆきち『次に1分経過したらコネクターを元に戻して台の電源を入れます』

ゆきち『ストックが0になっていれば、この部分にエラー表示が出ますので設定を1にして終わりです。』

赤井店長『結構簡単なんですね~…どこで知ったんですか?』

ゆきち『あぁ…メーカーの営業マンと仲良くなったら色々教えてくれますよ♪』

ゆきち『あっ!それと今からやる事は全部違法行為なんで、他に喋ったら駄目ですよ!』

赤井店長『えぇぇぇ~~~~違法なんですか(汗)』

ゆきち『そうですよ!違法行為になります(笑)』

壊しや社長は熱心にストック飛ばしの手法を聞きながら作業を見守っていた。

『まだ抜く方法は有るじゃ無いか!』

そんな事でも考えて居たのだろうか?ニヤニヤしながらホールから姿を消して行った。

ゆきち『次に打ち込み機を取り付けます!』

赤井店長『はい!はい!』

ゆきち『接続を間違うと基盤が飛んで面倒な事になるから注意して下さいね♪』

ゆきち『まず台の電源を落として、この線を外して…こうして、あーして電源をON!!』

【ぷぷぷ・・・ビコーン・ビコーン・ビコーン】

赤井店長『エッ!ドラムは回らないんですね~』

ゆきち『そうですよ!基盤に直接打ち込むからドラムは回らないんです♪』

ゆきち『昔はドラムも回ってたんですけどね…最近は全てコレです!』

赤井店長『この機械ゆきちさん何処から持ってきたんですか?』

ゆきち『ああ!これは前の店でモーニング入れるときに使ってた物なんですよ』

ゆきち『店にコレが有ると色々とマズイので、車のトランクに隠して持ち歩いてるんです(笑)』

赤井店長『へぇ~色々な機械が有るんですね~(笑)』

ゆきち『まぁまぁ、その話はまた後で…先に仕込みだけやってしまいましょう♪』

終ったのは明け方近く…

一旦自宅に戻るのも面倒だったので、赤井店長と近くのファミレスで朝食を済ませ開店まで時間潰しをする事にした。

次回更新へ続く