誤差メダルの原因を追究し、辿り着いたのは内部犯行。信頼してきたパートナーに裏切られた赤井店長は高木を事務所に呼びつけた…。

赤井店長【高木!事務所まで上がって来い!】

高木【アッ!はい・・・】

事務所に来た高木は動揺を隠せずにいた。

赤井店長【どういう事や!】

高木【はっ?何がですか…】

次の瞬間!!赤井店長は事務所に有った灰皿を床に叩きつけ、高木の胸倉を掴み激高した。普段見せない温厚な人だけに、その行動に驚き動揺したが、手を出されてはマズイので止めに入る。

ゆきち【店長!殴ったらアカンで!!】

赤井店長【おんどれ~ぶっ殺したる!!】

高木【ど、どうしたんですか?】

赤井店長【何こら?まだとぼけるんか!!ポケットの中身だしてみぃ~】

普段温厚な人が怒ると怖いと言うが、本当に怖かった。荒れ狂う赤井店長を一旦座らせ高木と三者で話を始める。

ゆきち【さっきお前ジェットにメダル流したやろ…アレは何や?】

高木【いや!アレは…】

ゆきち【パクッタんやろ?】

高木【違います!!アレは…】

この期に及んで言い訳ばかりしてくる高木に赤井店長はさらにキレる。

赤井店長【お前留置所ブチこんだるからな!覚悟しとけ!】

ゆきち【もうな全部調べついてるんやで】

ゆきち【お前が勤務してる日に限って毎日誤差メダル出とるねん!】

赤井店長【ポケットに入ってるレシート見せてみぃ!】

赤井店長【今日もパクってんねやろ!!】

ゆきち【一部終始カメラで見てたんや…もう諦めや】

高木は涙を流しながら地面にひざまづき、ポケットからレシートを出し土下座した。そして罪を認め1万円程度を連日抜き続けた事を認めた。

その額100万越え…。

最初はちょっとした出来心で交換したのが事の始まり、回数を重ねて行く内に止められなくなったと言う良くあるパターンだった。

赤井店長【高木、今日でクビや!!もう帰れ】

赤井店長はそう言い残し、高木の代わりにホールへ降りて行った。

高木は事務所で泣き崩れたまま…。

仕方なく今日は自宅に帰るように指示を出し、後日連絡すると伝え高木を帰らせた。

本当にこれで良かったのか?疑問が残ったが設定師として誤差メダルを見逃すわけには行かなかった…。

元々この店のセキュリティー状況も良くない、人件費の削減は決して間違いではないが、削りすぎると結局はこう言う事になる。誰も見てないから…チョットした隙に人の心は揺らいでしまうのだから。

外はすっかり日も暮れ、店内は仕事帰りのサラリーマンで賑わい始めていた…。

高性能貯金箱と化したスロット達は仕事帰りのサラリーマンの財布からも、淡々と回収し続け、無事一日目の営業を終了する事が出来た。

そして閉店のアナウンスを終えた赤井店長が事務所に上がってきた。

赤井店長【どうでしたか?目標数値クリアーできましたか?】

ゆきち【はい!目標を大きくクリアーしすぎてチョット明日が心配ですが…】

ゆきち【今日一日で100万も利益だしちゃいました(汗)】

赤井店長【割り数はいくらだったんですか?】

ゆきち【3割営業です】

6枚交換の店の損益分岐店は12割。

通常営業なら10割~11割営業が適正だが、この日は驚愕の3割営業。

パチンコは見た目に解るので締めに限界は有るが、スロットの場合は(4,1号機・4,5号機)目に見えないので無限に締める事が出来てしまう。

どうやっても勝てる訳が無い…。

赤井店長【さ、さんわりですか…】

赤井店長【あ、あしたはちょっと開けた方が良いのじゃないですか?】

ゆきち【駄目です!!明日も全力回収です!】

パチンコに置き換えるとスーパー海物語1,000円で5回転を打たせているに等しい状態…。

酷過ぎる(笑)

悪魔の設定で一日目の営業を終えた。

その利益額は100万円。

客の殆どが負けた計算になる。

通常営業でそんな数字を叩いたなら即開け返しだが、その必要はまるで無かった。

何故なら、店を潰すのだから…。

赤井店長は現場でお客さんの苦しむ姿を目の当たりにし、『チョット開け返しては?』と、提案してきたが、今はただ『金・金・金』の守銭奴に徹するしか店を再出発させる方法は無かった。

赤井店長『さ、三割営業ですか・・・ちょっとやばく無いですか?』

ゆきち『なにがですか…?』

赤井店長『お客飛んじゃいますよ!!少し開けた方が良く無いですか?』

ゆきち『その必要は有りませんよ!明日以降もずーっとオール1!ベタピン!の煙突です!!』

赤井店長『でも可哀想じゃないですか?何も知らない常連さんなんだから…』

赤井店長『予定の利益の倍取ってる訳ですから、少し返しても良いと思うんですけど。』

ゆきち『最低600万必要な訳です!!それより下は論外ですが上にリミットは有りません!』

ゆきち『抜けるだけ抜き倒します!!今は甘い顔は出来ませんよ!』

赤井店長『う~ん…せめて少しくらい駄目ですかね?』

ゆきち『あの!はっきり言いますけど設定5・6とか入れれませんよ』

ゆきち『設定4を数台投入するか?もしくは半分設定2に上げるくらいが限界です!』

ゆきち『設定2に上げてお客が喜びますか?僕は違うと思います!そもそもストックが無いからあんまり関係無いですけど…』

ゆきち『だから明日も全台設定1!!今日稼動してる台は昨日同様全台ストック飛ばしです!』

赤井店長『…』

ゆきち『僕だってこんな設定したくないですよ。でも今はこれしか…』

ゆきち『お願いですから力を貸して下さい。絶対に再出発させますから…』

赤井店長【わかりました…】

ゆきち『今日はもう帰ってゆっくり休んで下さいよ。昨日から寝て無いでしょ。』

赤井店長の気持ちは痛いほど判っていた。自分だって数ヶ月前は一店の店長として現場を任されていたのだから…客の気持ちを考えればそうなるのも当然だろう。

一日の売上げの清算と店内の後片付けを終えると、赤井店長は疲れ果てた表情で事務所奥の仮眠室へと帰っていった。

そして、だれも居なくなったホールに降り、翌日の設定を仕込む事にする。

釘帖と呼ばれるデーターを確認し、本日稼動していない台は昨日のまま、稼動した台は片っ端からストックを飛ばして行った。

昼間にお客が金を使い空っぽの貯金箱にお金を貯めて行く…そして俺は深夜コッソリそれを抜き取る。

やっている事は泥棒と一緒だ、昼間モニターを見ていたせいか、客の顔が頭を過ぎり罪悪感に教われた。

【明日からモニター見るのやめとこ!!】そんな事を考えながら悪魔の設定を仕込んで行った。

そして翌日も利益は100万越え…。

負ければ取り返したくなる心理が働いたのだろう…。

暫くはお客が増える怪現象が起こったが、それも単なる一時的なもの。

金を突っ込んでも二度と引き出せない貯金箱に、呆れたお客は日を追うごとに減って行った。

そして悪魔の設定を貫き10日目を過ぎた辺りになると、お客は完全にいなくなってしまう。

夕方になってもほとんどの台が全く稼動していない状況…

営業終了日まで残り四日を残していたが、利益額は予定を大きく上回り既に900万を越えていた。

もうここまで来ると何でも有り、残り四日間は全台設定1のストック無し営業にシフト、8枚交換へ換金率の変更も行い最後の徹底回収を行った。

そして営業最終日。

閉店時間を迎えたスロット店は、静かに再出発を目指しそのシャッターを降ろした。

赤井店長【完全にお客さん飛びましたね…】

赤井店長【常連さん達は、またこの店に帰って来てくれますかね?】

ゆきち【絶対に帰って来て貰いますよ♪その為にブッコ抜いた訳ですから(笑)】

ゆきち【目標も達成したし、今日は飲みにでも行きますか♪】

赤井店長【ええ。行きましょう♪】

閉店を報せる案内状を店のシャッターに貼りだし、再出発を誓った二人は夜の歓楽街へ向かった。

次回更新へ続く