LEVELグランドオープンから一ヶ月が過ぎ去ろうとしていた。

主力機種を目指し高設定営業を貫いて来たジャグラーは、連日高稼動をキープ…。

オープン以来、一度も設定変更をしなかった甲斐有って、地元のオジサン・オバサンで賑わう様になっていた。

そろそろ収穫の時期…。

もう回収を始めても良いだろう。

そのタイミングを何時にするか?考えていた頃、北斗の拳を導入しないかと、営業マンの林田くんから連絡が入る。

検定切れが押し迫っていた機種も有り、新台導入は避けて通れ無い、遅かれ早かれ機械の入れ替えを行わなければならなかった。

新台導入で勢いをつけ、一気に客を付けたい所だが…。

機種選びを失敗し損失が出た場合、それを吸収出来るほどの予算は無く、その機械代金は客側に負担を求めるしか方法はなかった。

そんな事をすれば、確実に集客は落ちる…。

資金力の弱い店の宿命とも言えるが、それを回避するのも設定師の仕事。

当然、失敗は許されない。

市場に有る程度導入され客の反応を見てから、『これは使える!!』と、思った台だけ導入すれば良いのだが、人気が出た台は手に入れる事が難しくなる。

人気台はどこの店でも欲しくて当たり前…。

当然、注文が殺到する。

メーカーは受注生産なので注文が殺到すると生産が追い付かず、数カ月遅れで納品となってしまい、その結果美味しい時期を逃してしまう。

一台40万円近くもする機械を、中身も見ず契約しなければトップ週導入出来ない事もかなり多い。

博打とたいして変わら無いと思われるが…(笑)。

そこは林田くんの眼力を信頼し北斗の拳をトップ導入することを決定した。

この先、それくらいの運が無ければやって行け無い!!やれる事は全部やったんだし、駄目なら仕方ないだろう…。

その費用は500万円!!

契約を交わしトップ導入の確約を取り、その後の歩みを天に託した。

そして新台入れ替えの前夜…。

一通りの閉店作業が済んだLEVELにピカピカの北斗の拳が到着する。

赤井店長【何だか新台入れ替えってワクワクしますよね♪】

トラックで運ばれて来た新台を、みんなで荷台から降ろし店内へ運んで行く…。

スロットは非常に重く、運ぶだけでも大変な作業だが、何故か疲れを感じる事は少ない…。

明日から始まる、お祭の準備をしているような感覚が、そうさせるのだろうか?従業員の表情も何だか楽しそうだ。

汗まみれなりながら、役目を終えたスロットをトラックに積み込んだ所で入れ替え作業は無事終了した。

アルバイトを帰し、LEVELの店内に残ったのは赤井店長、営業マンと自分を含めた三人…。

明日からの予定を話し始めた。

翌日は検査終了後のオープン…。

トップ週導入なので集客は確実、一週目は北斗を辛めに使い回収し、その回収分は主力機種ジャグラーにばらまく事にした。

しかし回収と言えどもボッタクリ営業は出来ない、営業マンと相談した結果…。

今後の参考にするつもりで、全設定を使い暫く様子見をしてみる事にした。

LEVEL新台入れ替え《初日(12:00)》

▼北斗の拳(新台)設定
《1。2。3。4。5。6。5。4。3。2。1》

両方の角台に設定1、中央に向かって段階的に設定が上がって行く形…。

角台と言うのは人の目に止まり易く、空台になってもすぐに埋まり稼動にムラが出にくくなる。
この逆のパターン…

中央寄りに低設定を配分すると、空台が目立ちにくく、稼動にバラツキが生じデータにムラが出やすくなる。

全設定を使う事の多いトップ週導入では、このような形で調整される事が非常に多い。

そして翌日、警察の検査を終え開店を迎えた。

開店の合図と同時に皆一斉にプレーを開始する、島の片隅に立ち客の反応を見守る事にした。

『ほぅ~~~アチャ!アチャ!ワァチャ~…』北斗の拳購入を決意したきっかけでも有った、ボーナス消化中の楽しさ…。

どうやらお客も楽しんでいるようだ♪

林田くん『これ絶対行けますよ!!』

ボーナス消化中に訪れる熱いポイントは、初心者にも判りやすく夢中になれる要素を含んでいると思ったが、スペックを詳しく知らなかった当時は、まだそれほど売れるとは思っていなかった。

そして初日の営業を終えデータを確認した…。

赤井店長『か、辛いですね(笑)』

ゆきち『ひ、酷いな(笑)』

殆どの台が店側のプラス…。

林田くん『明日、設定少し上げますか?』

ゆきち『いゃ!更に下げよう♪』

ゆきち『客の反応は悪く無いし、立ち見も多かった…まだ大丈夫!。』

トップ週導入の特権は、なんと言っても強気の設定が出来るところ…。

需要が高いなら設定を低く使える!今、LEVELが目指しているのは主力機種のジャグラーを地域一番の高稼動店にする事。

この心臓部分を完成させる事が、何よりも最優先…もうあと少しの所までこぎつけた。

LEVEL新台入れ替え《二日目》設定

▼ジャグラー設定
《6。5。5。5。5。5。5。5。5。5。6》
通路
《6。5。5。5。5。5。5。5。5。5。6》

▼北斗の拳(新台)
《1。1。1。4。5。6。5。4。1。1。1》

北斗の拳は回収を予定していたが、予定より大幅に利益が上がったので、レベルの主力機種ジャグラーへ還元する事にした。

新台入れ替え初日、北斗の拳は立ち見が出来るほどの盛況ぶりだった事も有り、これなら翌日もまだ抜けると考え二日目の調整を済ませ店を後にした。

明日から平常営業に戻る。

LEVEL立て直し計画も中盤に差し掛かり始めている…。

そろそろ三ヶ月後の計画も考え始めなくては…。

自宅に帰る車中で、今後の展開をボンヤリと考えてみた…。

改装後の三ヶ月の粗利目標は3800万円…、この数字で壊し屋社長から了承を貰いここまで順調に来ているが、今後は幾ら要求して来るのだろうか?

このままの粗利で納得してくれるはずも無いだろう…。

まさかとは思うが、ミリオンゴッドやアラジンエース全盛時代と同じくらいの粗利を求めて来やしないだろうか?

うーん。

あの社長なら…。

あ、有り得るよな…。

四号機も規制がかかり始め全国的に客単価が落ち始めている中、薄利営業で高い粗利を抜くのは厳しくなって行く…。

ジャグラーは儲かる機械でも無いし、単価の高い主力機種も欲しいよなぁ~

猪木やドロンジョも陰りが見え始めているし、この先どうやって乗り切って行こうか…?

そもそも壊し屋社長の求めて来る金額が解らなければ、今後の計画も立てれ無いし…、そんな状態で考えても答は出ないので、直接会って話しをする事にした。

そして翌日の昼を過ぎた頃…。

壊し屋社長がLEVELの事務所に現れたので粗利額が幾ら必要なのか聞いて見る事にした。

ゆきち【再来月からの粗利ですが…社長はどの様に考えられてますか?】

ゆきち【具体的な金額で言って頂けると計画が建てやすいのですが…】

壊し屋社長【そうですね~♪月2500万上げて貰えれば!】

ゆきち【えっ!2500まん…で、す、か(汗)】

アホかこのオッサン!

さすが壊し屋!!

今の粗利の倍やんけ!

ミリオンゴッドか裏物でも使わな無理やろ!!

この守銭奴がぁぁぁ!!(怒)

と、心の中で囁き、

ゆきち【2000万が限界ですよ…】

壊し屋社長【ちょっと待って下さい!】

壊し屋社長【言われた利益を出すのが設定師の仕事でしょ?設定なんて数字を変えて割り合わせるだけなんだから…】

壊し屋社長【無理なら良いですよ!赤井か他の設定師に頼みますから】

壊し屋社長【出来るでしょ?2500万…お願いしますよ(笑)】

ゆきち【わ、解りました…ちょっと考えて見ます。】

雇われの宿命…。

強く出れない自分に苛立ちが募った。

次回更新へ続く