2001年4月28日。

今でも明確に覚えているこの日の前日22時、川崎市溝の口駅前にあるエスパス日拓本店の前で雑談をしている二人組がいた。

一人は万回転。一人はそのスロ友達I君。

ボクらは目の前にあるエスパスで出会い、エスパスで仲良くなった、どちらもプロと言うには少々甘ちゃんな、けれども一応それで日々の糧を得ていたハタチそこそこの二人だった。

「ガスト行く?」

というのが、打ち終わった後の定番。今はビルごと建て替えられて無くなったガストで、今日の稼働を語り合う。計5人の仲良しグループで、パチ・スロ談義に花を咲かせるのが毎日の楽しみだった。

だが、今日ばかりはそんな稼動終わりの会話ではない。すでに決まった明日のノリ打ちの詳細を詰めつつ

「あと11時間とか超ダルくね?w」

と我ながら笑うしかない状況で、まだ賑やかさの残るホール前に座り込んでいた。

 

ボクらの目当ては21世紀初頭のパチスロシーンに衝撃を与えたモンスターマシン『獣王』だった。設定6の実質スペックは機械割140%超。一日の差玉アベレージが1万枚超、40万円超が当たり前という破格のスペックに誰もが胸を躍らせていた時代、一部では当然となっていた徹夜並びの為に、二人はホール前に集まっていた。

ツイッターはおろか、携帯に届くお店からのメール配信すらメジャーでは無かったこの時代、それでも情報に敏感なプロ達は関東中を走り回って、機械割140%の設定6を求めて徹夜を繰り返していた。

だが、ボクらが並んでいるのはエスパスである。ボクらにとっては程よい環境の、十分な優良店だったが、決して凄腕プロが目をつけるようなお店ではなかった。

案の定、ボクらの他には誰も並びなんていやしない。それでも毎月『28日』が本店の日。他店よりやや遅れた獣王導入から最初の月1デーということで、設定6が入るなら明日しかない。狙う台は『28』番台。角台だ。

それを誰にも取られたくない。その一心が一致したからこそ、ならば二人でノリますか、と他の仲良し三人が『6なんか入れないだろw』と冷笑して帰っていく中、二人だけの徹夜が始まった。

 

獣王の設定6は実にシンプルに見抜く事ができる。約1/240で引ける純ハズレを引けば92%で、15枚役が連打するスーパーAT『サバンナチャンス』に突入する。カギとなる設定推測要素はそれしかない。一発外した時点でほぼノーチャンス。二発続けて外せば99.4%の確率で設定6が否定される。

17年前の深夜に交わした会話はもうあまり覚えていないが

「6だとしても一発目のハズレ外しそうw」

とか言って、くだらない皮算用を立てていたのはよく覚えている。二人ともまだ若く元気だったため、一睡もすることなく結構なハイテンションで朝を迎えた。

6時過ぎには続々と通勤・通学の人々がお店の前を通る。自分たちがしていることが如何にくだらないか。そんなことはお互い分かっていて、かつその背徳感に魅せられてしまったからこそ、こんな道に進んでしまった二人だ。二人の眼はとっくに¥マークになっていて、道行く人の視線など全く気にならなかった。

「ホントに徹夜したのかよw」

「ちょっと店長に設定1にするよう言ってくるw」

「6だったらちょっと打たせて!」

月一イベントということで8時前くらいから続々集まってきた顔馴染みたちとも談笑しつつ、

「エスパスで徹夜なんてこいつら正気かよw」

という和やかな空気が漂う中、ボクらは段々無口になっていった。徹夜にかけた時間の分だけ、外した時のショックもデカイ。まして相手はあの獣王。一発目のハズレでほぼ全てが決まるのだ。

二人だけがヒリつく緊張感がピークに達した午前9時、開店。無事、目的の『28番台』を確保した。そして、当時お馴染みの設定変更確認の時間がやってくる。(※獣王は設定2以上へ変更すると高確率状態からスタートし、高確率か否かを見抜くランプチェックが出来た)

すると・・・

 

光らない。低確率状態からのスタートだった。

 

ただ、勿論この事態は想定していた。当時のこのお店はそこそこ小細工をしてきたので、仮に6でも低確率状態に落ちるまで回すことは十分にあり得た。

知り合いから続々と

「ここも高確だぞ」

「それやべーんじゃねーのw」

という声が届く中、それでもとにかくまずはハズレを引くしかない、と最初の打ち手を担当したボクが黙々と打ち込む。

すると、早速投資2本目に逆押し象ハサミ目が止まる。

慎重に中リール上段に象をビタ押し、15枚役(BIG同時成立)を否定、象揃いも否定。設定6か否かが決まる純ハズレを引き、液晶でルーレットが始まるこの日一番のハイライトが早くも訪れた。

固唾を飲んで見守る・・・と思いきや、徹夜でやや頭がボーっとしていたボクはうっかりBETボタンを押してしまった。

この瞬間のことは、その後散々イジられた。

「なんて華の無い奴だw」

「皆注目してたんだからあそこは見せろよw」

朝の会話でボクらの狙いはほぼ全員にバレバレ。朝から獣王のシマで高確チェックをしている常連たちがみんな注目していたのだ。今ではお馴染みとなったあのBGMとともスタートしたサバチャン。目論見通り設定6をゲットした。

当時は今ほどホール内の人間関係も殺伐としていない。常連たちの中では最年少だったボクら二人に対して、周囲からは

「やったじゃんw」

という祝福の声が届いた。勿論、その言葉がどこまで本心であったか知る由も無いが、アラフォーになった今ボクが思うのは、『この状況で徹夜してまで取ったんだからよく頑張ったよw』という素直な祝福だったように思う。

他のお客に配慮して、二人で1台しか確保していなかったというのもあるが、交代しつつブン回すウザガキ二人、という状況にもみな寛容だった。

当時は地域で一番目押しが上手と言われていたボクとI君は、ここぞとばかりにサバチャン高速消化に邁進していたが、それに最大10人近いギャラリーが出来つつワイワイ観戦したり邪魔したり・・・そんな光景が日中幾度となくあった。

徹夜明けでヘロヘロだったボクらは、打ってる最中はそれに応じる余裕もない。実に可愛げのないガキだ。一番熱い瞬間をすっとばし、ただただメダルを吐き出す為だけのマシーンと化した二人だったが、それでもあの日の溝の口で一番ホットな場所の中心にいたことが嬉しかった。

 

その後、そのエスパスで設定6が使われたことは何度かあったが、結局朝から読み切ってツモったのはこの一回だけ。I君とノリ打ちをしたのもこの一度きりだった。

そして、パチンコ屋で知り合った仲らしく、その数年後にボクが引っ越したことを契機にI君との縁は切れている。17年もの月日がたち、彼は風の便りで父親の後を継いで社長をしている、なんて噂を聞いている。I君はもうパチスロとは全く関わりの無い人生を送っているかもしれない。ボクはその後も人生を失敗しまくって、未だに落ち着かない生活をしている。

きっともう交わる事の無い二人だが、それでも、二人の歴史に刻まれたあの日の出来事は、I君も今でも覚えているだろう。閉店後のガストのスープバーで軽い火傷をしたのは、きっとボクだけの思い出だろうが。

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