前回#3-B

彼らの夢は動き出した

彼らは皆で稼いだお金をもとに、アンジェラス前のアパートの一室を借りた

そこは店や機種の攻略&対策室であり、皆で稼いだパチンコ浮きを当時流行りだしたデイトレードなどで増やす人間の選定や勉強スペースであり、また、資金を増やせそうな何かを皆で考えだす会議室であった

つまりそこは彼らの夢と希望を詰め込んだ秘密基地だ

当時のパチンコ業界は今のような規制でがんじがらめではなく、機種も、店も、バラエティーにとみ、色んな攻め方が出来た

パチンコではスキップ機能なんてものがあり時間500を越すような回転数を稼げる台が存在したり、スロットでは子役の配列、リールの制御を計算し、最低設定でも日当が出てしまうような打ち方を誰もが研究していた時代

店側は朝一のモーニングサービスにはじまり、バカ甘台の限定開放、来店ポイントによる設定変更、なかには指定時間内最後に当たった方に1万発プレゼントなんて直球な物もあった

サイコロに、トランプに、商店街の福引き風ガラガラ抽選

じゃんけんにコイントスに、神籤棒(みくじぼう)を使った抽選

機種における穴や攻略法を探すのは当たり前として、僕とノッポさんはパチンコ店側が用意するすべてのイベントに攻略要素を見出そうとした

パチンコのノウハウを共有する、が、アンジェラスではパチンコに手を出さない、ただし他店においてはその限りではない、そしてスロットにおいては完全共闘、僕とノッポさんの間で出来ていた暗黙のルールだ

随分と僕に都合よく出来ているとも感じるが、こちらが享受するメリットは一人分、あちらが享受するメリットは複数人と考えており、自分の中では等価だった

もし、この条件を飲めないというのであれば、喜んで共闘を放棄した

実際、白田くんやヒデくんは不服そうにしていたが、ノッポさんは同価値と考え快く承諾してくれた

僕とノッポさんは店側の打ち出すあらゆるイベントに攻略的要素を見出そうとした

そして、効果の大小はあるにせよ、すべてのイベントに何かしらの対策を講じた

トランプや、みくじ棒にガンを付けるなんてものは当たり前として、どのようにして店側や他の人間にばれぬようにガンを付けるか

個別抽選に、ビンゴ形式、分母が減っていく抽選では、並び順を工夫したり、後に引くほうが有利になるものは、先に引いたものが気付いたことを後ろにいる人間に伝えるためのサインの取り決めなども行われた

イベントがサイコロ二つで抽選されるものであれば、そこで使用される盆とサイコロとまったく同一なものを必死に探しまわって入手し、狙った出目が出せるようになるまで何度も何度も練習した

ゲリラ的なイベントを行う店で、そのときそのときの責任者によって内容や時間が異なるため、社員のシフト表を独自で作成したりもした

いま言ったようなものをすべて共有していたわけではない

七割方の共有と、共闘を必要としない残り三割は、言いはしなかったがきっと同じことをしていた

ただ、もし情報の共有をしなくとも、ノッポさんならば上記の九割方の答えは導き出せていたろう

残念だが僕はせいぜい五、六割、その数字すら多いかもしれない

それでもノッポさんは答え合わせを、互いの出した答えが同一であることを喜んでくれ、そして僕の解けなかった残りの答えを余すことなく開示した

その傍らで、ほかのメンバーはそれをあまりいい顔をして見てはいなかった

#4-Bにつづく

 

余談:攻略?の一つを思い出したのはいいけれど、色々問題がありそうな気がして躊躇したのだが、やはり追記として書いてみようと思う

僕には越えられぬ一線であったので、情報のお裾分けも辞退したが、ノッポさんらは店内でのインカムを盗聴するために無線機かなんかを車に取り付けたりもしていた

その行動が是か非かはそれぞれの判断にまかせる

ただ、する、しない、と思いつくかどうかは別物だ

僕では間違いなく、そんな発想は出てこない

実際、この発想を聞いたときには、眼からウロコなんて可愛いものではなく、同じ土俵で闘う相手の、次元の違う実力に激しい戦慄を覚えた

どんな下らぬ賭けであろうと、こちらから見て、どれだけ勝算があろうと、この人とは勝負しない、言い方を変えれば勝負にならないと、この時の僕は強く認識させられた