前回9/11

あれから二週間

いつもであれば、ここまで間を開けることなく連絡をとっていたのだが、もしかしたら、あの日のことを思い返して怒られるのではないかと、ぽちから連絡することができなかった

そうこうしているうちに、開店初日がおとずれる

夕方18時開店、所狭しと並べられたメーカーの名の入ったスタンド花の数々、二日前から撒かれた整理券、それを手に期待に満ちた表情を浮かべて、どこかソワソワしながら並ぶ大勢のパチンコファン

白谷さん以外の会の人間は少なからずいるだろうと、ポチも並びながら、つま先立ちになってまわりを見渡すも、何故か誰一人、ただの一人も、見知った顔がいない

狐につままれたような気持で呆然とするポチ

ただ、そんな違和感も、メガホン型の拡声器で怒鳴るように説明されている大当たり後の交換の仕方や、再遊戯するための並び方の決まり事などの案内に掻き消されてゆく

そして開店

ミサイルのコーナーに溢れかえる人たち、鳴り響く大当たりの音、煽り続けるマイクなどの熱気はあっという間に店内を包みこみ、さして抵抗もせずに、その熱気に身をゆだねたポチは、最初に感じた違和感など忘れ、自分の店に訪れたお祭りの瞬間を、Tさんや常連の人たちと一緒に笑いながら過ごした

 

 

モナミでの入替から2週間が過ぎようとしていた

最後に白谷さんに会って話した時からひと月近くの時間が経っている

モナミでのことを喋りたかったし、いつものように近況も聞いてほしかった

勇気を出して白谷さんに連絡を入れるが不在のようで、留守番電話のアナウンスが流れてくる

とりあえず、そこにポチであることを吹き込んで電話を切るが、待てど暮らせど、折り返しの連絡が来ない

やはり思い返して怒っているのかもしれない、内心びくびくしながら、少し間をおいて再度連絡を入れるが、また不在

そんなことを繰り返しているうちに三ヶ月が過ぎてしまった

 

そんな折、個人経営の小さな店の開店で羽島さんを見つける

「おおー、ポチー、元気にしてたか。最近何やってたんだよ、全然開店にも顔出さねーじゃんか」

厚顔無恥のポチも、さすがに、ミサイルのことがあってからは、開店にあまり顔を出さなくなっていた

「あ、いや、最近ネグラにしている店が悪くなかったもんで…」

「なーに言ってんだよ、ポチはもう開店屋みたいなもんだろ、平常営業のしょっぱい台なんか打ってたら干からびちまうぞ」

「あー、いや、ははは…」

返す言葉がない、自分以外の人間からしたら、ミサイル云々以前に、もうすでに開店屋となっていた

自分一人が、それになんだかんだと理由づけて、ジグマぶっていただけだ

でも、いまは自分を恥じている場合ではない

「あ、いや、…実は白谷さんを怒らせてしまったかもで、全然連絡取れないんです」

「マジかー。てか、ちょうど増島さん(ケツ持ちのヤ○ザ)からも、白谷のこと聞かれたんだけどよ、俺も最近、白谷に会ってねんだわ」

「え」

「しかし、おまえ白谷を怒らせたのか、あんなにお世話になっておいて悪いやつ奴だな~」

「あのな、お前は知らないだろうけど、おまえが○○の開店で権利物打ってたときや、○○の開店でミサイル打ってた時とか武闘派の奴らがブチ切れてたんだぜ」

「それを白谷の奴がかなり無理やり抑え込んでてよ。ポチなんかのためによーやるわと俺は見てたよ」

「白谷にあんま心配かけんなよ。以前も言ったが、いいかげん、白谷を困らせないためにも会に入っとけ」

「…」

釘をさすつもり半分、からかい半分、肘で腕を小突くように笑いながら話してくれている羽島さん

ポチは必死に笑顔を浮かべているが、その表情はひどく歪んでいたはずだ

 

モナミに通いつつも色んな開店に顔を出し、それについて誰も何も言ってこないのは、自分がうまく立ち回っていたからだと思っていた

皆が気に障らない程度の絶妙なバランスを自分が取っているからだとばかり思っていた

陰で白谷さんが懸命にポチのことを守っていてくれたことも知らずに

以前にも、羽島さんは「白谷のことを困らせるなよ」と優しく忠告してくれていた

そのときは、何のことを言っているのか理解できなかったが、いまになって、今頃になって、やっと理解できた

橋向こうの店に行きながら参加していた他の開店、さして深く考えずに大丈夫だろうと捉えていたその頃から、白谷さんはポチの事を守ってくれていたのだ

そんな相手に対して、ポチがあの夜、膿んだ傷口から蛆が溢れ出るように並べ立てた、保身のための卑しい言葉の数々

白谷さんは、それをどんな気持ちで聞いていたのだろうか

思い返せば返すほど、目を背けたくなるほどの自分の愚かさに眩暈すら覚える

あやまらなければいけない

許してもらえなくとも、たった一言だけでもいいから、あやまらなければならない

それから連日連夜、ポチは白谷さんの家の電話を鳴らすが、それ以前と変わることなく、家主の不在を示す電子音と、用件を録音するために回り始めるテープの音が無機質に響くばかりだった

11につづく