壊し屋社長から2500万稼げる店にして欲しいと依頼され、その仕事を受ける事に…。

立て直し計画を一から大幅に変更し店の半分近くの台を北斗の拳に入れ替える事にした。

計画の途中変更で必要になった資金を客に求め続けて1ヶ月…、ようやく新台入れ替えを前日に控えた夜がやってくる。

翌日の設定をどうするか考えた…。

明後日から新台効果で客は呼べるが、今日までお店を支えてきてくれた常連さんに少しお返しがしたい!そう思い、回収状態だったLEVELの主力機種全てに高設定を入れて店を後にした。

●ジャグラー
5.5.6.5.5.6.5.5.6.5.5
6.6.5.6.6.5.6.6.5.6.6

●北斗の拳
6.6.6.6.6.6.6.6.6.6.6

連日回収を重ねても来店してくれるお客さん達に本当に助けられた、明日も変わらず来てくれる常連さんこそ、LEVELが本当に大切にしなければならないお客さん。

メールで『高設定投入!!』と唄えば簡単に客は集まるだろうけど、そんな連中に還元しても意味は無い!明日は常連さんに勝って欲しい…そう思い敢えて告知はしなかった。

普段は仕事を終えると行きつけの店で朝方まで酒を飲み、夕方辺りにLEVELに顔を出すのが日課となっていたが、北斗全台6がどんな挙動を見せるのか気になり、寄り道せずに自宅に戻り開店から見守る事にした。

新台入れ替えを前日に控えた朝、LEVELに到着したのは開店の少し前…。

その店の前では常連達が井戸端会議をしながら、首を長くして開店を待っていた。

常連さんはどんな会議をしているのか?少し気になったので立ち聞きしてみる事に…。

列に参加し話しを聞いていると、やはり最近ジャグラーを出していない!ボッタクリ始めた!など文句と愚痴が多く、昨日幾ら負けた~。などのネガティブな話題で賑わっていた(笑)

常連さん達は愚痴を漏らしながらでも店に通ってくれているのだから、LEVELもそこそこ信用を得る事が出来ているんだなぁ~と嬉しくなると同時に、この信用は裏切りたく無いものだ!!と、心の中で『今日は沢山出しても良いよ♪』と囁きその場を離れた。

事務所に戻り、文句を言っていた常連が高設定に座っているか?まさか設定1の猪木に座ったりしてないだろうな?と心配になってモニターを観察していたが、どうやら常連は無事高設定に座っているようだ…うん!うん!これで良い♪妙に納得して、北斗全台6の挙動を見守った。

そして昼を過ぎた辺りから北斗の島の様子が次第に変わってくる…。

今まで回収状態だった北斗とはまるで違う光景に、みな少し興奮気味…。さらに日曜日と言う事も手伝って、北斗は立ち見ができるほど賑わい始めていた。

これは良いタイミングで宣伝になったな♪

開店からモニターを見つめ今後北斗にどうやって客を付けていくか?そんな事を考えていたが、立ち見のお客を見て一知恵思い浮かんだ。

よし!この立ち見客にも新台入替の時、同じ設定6で打たしてあげよう♪

日曜日はプロ、勝ちに貪欲なお客が比較的少ない、今いる客の大半は平日に仕事を持つサラリーマンの人達、土曜日・日曜日は利益率が高いうえに平日夜からの来店だけでは良い思いが出来る事も少ない…このお客さんにも還元しよう♪

思ったら即行動!!夕方、来客のピークを迎える時間に新台入替の告知と初日の整理券を配布する様、赤井店長に指示を出した。

やがて夕方を迎え北斗の島はドル箱の山、立ち見客も大勢いる…。そのタイミングを見計らって場内アナウンスを入れ、北斗増台の告知と整理券配布を実施した。

本日出玉絶好調の北斗を目の前にし、カウンターに客が殺到…。アッ!と言う間にその整理券は無くなってしまった。そして午後8時30分LEVELは新台入替の為営業を早めに終了…。

北斗全6は大盛況のまま閉店を迎え、普段負けていた常連さんも久しぶりの笑顔でLEVELを後にしてくれた。

そして北斗の拳増台デビューの日、全台設定6でスタートさせる事にした。

開店は夕方の6時…。

設定6でも出ない事の多かった北斗、時間打ちで不発台が多くては見栄えが悪い…44台も抱えた初日からこける訳には行かないので、お得意の仕込みで保険をかける事にした。

打ち込み機を使い全台高確率モードへ、その内20台程にさくらんぼのオマケを付けて開店を迎えた。

なんとしても2500万の目標を達成しなければ!

今まで店の半分近い台を同一機種で営業した経験が無かったので、そのプレッシャーはかなり大きかった。

全台6の北斗は立ち上がりこそ悪かったものの高確率と仕込みが有ったお陰で、それなりのかっこは付き開店初日は100万程の赤字に終わった。

北斗を4倍にした事で昼間の平均稼動は若干落ちたが、開店からと夕方からの集客は絶好調…売上も順調に上がり心配していた程の稼動ダウンもなく、北斗はLEVELの主力機種になりつつ有った。

ジャグラー22台と北斗44台…。

この2機種がLEVELの柱になれば目標の2500万達成も大丈夫だろう♪ちょっとした達成感を感じていた。

北斗増台から1か月が経過し2500万の粗理もほぼ射程圏内になった頃、林田くんから信じられない一本の電話が入り事件が起こる。

林田くん『ゆきちさんこんにちわ~』

林田くん『次回の納品ですけど』

ゆきち『はっ???納品??』

ゆきち『な、なんの事???』

林田くん『北斗ですけど♪』

ゆきち『お前ボケたんか(笑)そんなもん頼んで無いで…』

林田くん『えっ!?社長から聞いてませんか?』

林田くん『追加で22台?』

ゆきち『はぁ?そんな話し全く聞いて無いで~!!(怒)』

ゆきち『どないなっとんねん!!(怒)』

林田くんからの電話を切った後、大方の粗筋は理解した、恐らく壊し屋社長が勝手に増台の注文を入れたのだろう。

ニヤニヤと北斗の売上データを見つめていた壊し屋社長の顔が蘇った。

そう言えば…!

もっと増台しないか?と一度聞かれ事が有った。

確かあの時は…

機種バランスが崩れるので、これ以上の導入はしないとキッパリ断ったはず。

あの時不満そうな顔をしていたのは、そう言う事か…。

恐らくその数日後に増台の注文を勝手に出したのだろう、事実を確認するべく社長に連絡を入れた。

ゆきち『しゃ、社長!!北斗増台するなんて聞いてませんよ!!』

壊し屋社長『あれ?赤井から聞いていませんか…。』

ゆきち『聞いてませんよ!!』

壊し屋社長『まぁ後22台くらい増やしても、大丈夫でしょ(笑)』

ゆきち『何を外すんですか!今外す機種無いですよ(怒)』

壊し屋社長『ジャグラーで良いじゃ無いですか♪』

壊し屋社長『あれは稼動しているけどそんなに儲からないでしょ(笑)』

ゆきち『ちょ、ちょっと待って下さい!!』

ゆきち『あれは常連さんに楽しく遊んで貰う為に…』

壊し屋社長『馬鹿じゃ無いですか(笑)こっちは商売でやっているんですよ…。

あなたが思っているほど楽しんでいる人なんかいませんよ!

パチンコなんかみんな金が欲しくて、博打で打っているんですよ、換金出来なかったら誰もパチンコなんか打たないでしょ(笑)。

ゆきちさんもタダじゃ設定師なんてやらないでしょ?

こっちも高い給料払っているんだから、変なこだわりなんか捨てちゃって下さいよ♪

お互い儲かってナンボでしょ…』

ゆきち『………』

言葉が出なかった。

俺は何の為の設定師になったのか?

何の為に今日までやって来たのか?

苦しかった状況をようやく乗り越えて、お客の信用を得始めた矢先の出来事だっただけに、その暴挙に怒りが込み上げた。

経営のトップなら何をしても構わないのか?

客はただ金が欲しくてパチンコやスロットを打っているのか?

俺は何の為に此処で設定師をやっているのか?

俺は金を貰っているから、奴の言いなりにならないと駄目なのか?

もう何がなんだか分からなくなり始めていた。

電話を切り暫く冷静に考えたが、何故増台の注文を出したのか?その真意を確かめたくなり社長の自宅に車を走らせた。

到着し社長に詰め寄る…。

ゆきち【社長!!何で増台するんですか!!】

壊し屋社長【儲かるからですよ♪】

壊し屋社長【ジャグラーなんて儲からない台置いていても仕方無いでしょ(笑)】

ゆきち【それじゃ機種のバランスが崩れるって言ってるじゃ無いですか!!】

壊し屋社長【それを崩れ無い様に客を付けるのが、あなたの仕事でしょ!】

ゆきち【ええ!確かにそれが僕の仕事ですよ!】

ゆきち【でも僕にも仕事の進め方が有ります!!勝手に増台されるのは困ります!】

壊し屋社長【はぁ?勝手…(笑)】

壊し屋社長【あのね…私は経営者ですよ(怒)あなたにそんな事言われる筋合い無いんです!】

壊し屋社長【設定師なんて黙って言われた金額入金してりゃあ良いんですよ!】

壊し屋社長【ほんと馬鹿じゃ無いですか?(笑)】

壊し屋社長【そんなにこだわり有るなら、自分で店やれば良いじゃ無いですか(笑)】

壊し屋社長【何度も良いますが!こっちは高い金払ってあなた雇っているんですよ!嫌なら他に頼みますから良いです!】

ゆきち【グッ…………】

久しぶりに人をぶん殴りたい気持ちになった。

カッとなると自分を押さえられなくなる悪い癖のゆきち…。

南部さんや中馬さんの言葉を思い出し冷静に話しをするが…。

ゆきち【ちょっと待って下さいよ!!】

ゆきち【ここに来た時、社長に立て直し計画を提出したはずです!】

ゆきち【ジャグラーを甘く使う事も、ちゃんと社長に報告して了解を頂きましたよね?】

ゆきち【いざ客が付いたら、儲からないから外すっておかしく無いですか?】

壊し屋社長【おかしく無いよ!計画には変更が付き物です(笑)】

壊し屋社長【とにかく、ジャグラー外して北斗に変更します!】

ゆきち【利益はどうするんですか!!また上げるんですか!】

壊し屋社長【あぁーめんどくさい人だなぁ~】

壊し屋社長【もう良いですよ!明日から来なくて(怒)】

ゆきち【ブチ…(怒)はぁ?】

ゆきち【言われ無くても来ませんよ!!】

ゆきち【どうも、お世話になりました!!】

これで良いと思った。

設定師や釘師はオーナーの手下じゃ無い!中馬さんや師匠に少し近付けた感じがした。

社長と別れアテも無く街をさ迷っていると、無性に中馬さんに逢いたくなったので行きつけの寿司屋に向かった。

ゆきち【中馬さん。こんばんは…】

中馬さん【おぉぉ!ゆきちやんけ~♪久しぶりやのぅ(笑)】

中馬さん【どないしてん?シケタ顔して(笑)】

ゆきち【いゃ、ちょっと中馬さんに逢いたくなって…】

中馬さん【ハッハッハッ(笑)どうせまた何か困っとるんやろ?】

ゆきち【はぁ~】

今日まで有った出来事と社長とのやり取りを話した。

中馬さん【そうか!ようやった!ようやった♪それでええんと違うか!】

中馬さん【だいたい銭に目が眩んでる奴に何言うても一緒や(笑)】

中馬さん【馬鹿に付ける薬は無いんや(笑)ハッハッハッ】

中馬さん【ワシはお前褒めたるで~♪ようやった、ようやった…お前は頑張った♪】

今まで人に褒められた事なんて殆ど無かった。

俺なんか何処に行っても嫌われ者、自暴自棄になった事も有った。

今まで有った辛かった事を思い出すと、涙を押さえる事が出来なかった…。

中馬さん【どないしてん!泣くな!アホ!】

ゆきち【はぃ…でも(号泣)】

ゆきち【俺、どうしても釘師になりたいです…】

中馬さん【そうか、そうか♪わかった、わかった…】

中馬さん【まぁ今日は呑め!!ワシの奢りや(笑)】

中馬さん【こんな日は思い切り呑んだらええんや!】

ゆきち【はぁ~…】

中馬さん【明日からまた職無しやの(笑)】

ゆきち【いや!このまま辞めるのも嫌なんで、明日社長に会ってもう一度話しと挨拶はして来ようと思っています。】

中馬さん【そやな受けた仕事は最後までやらんとな。】

中馬さん【まぁ、あんまり熱くならんと冷静に話して来い!】

中馬さん【それでアカンかったらワシん所の仕事手伝ったらええわ!(笑)】

ゆきち【ほ、ほんとですか♪】

中馬さん【おう!でも給料は安いで(笑)】

ゆきち【あ、ありがとうございます!!】

何時も陽気で頼りがいの有る中馬さんにお礼を言って、翌日壊し屋社長の自宅へ向かった。

前日は暴言こそ吐かなかったが、感情的になってしまった事を謝罪し、改めてジャグラーを撤去するなら、これ以上は仕事の依頼は受け無いと伝えた。

返って来た答は…

【あぁ、そうですか!分かりました。じゃあ他に頼みますよ…】

だった。

社長に今までお世話になりましたと伝え、Levelの設定師を辞める事を決断する。

挨拶を済ませた後、お世話になった赤井店長とLEVELにも最後の別れを告げるべく車を走らせた。

約三ヶ月通いなれた道も今日でお別れ…そう思うと今まで有った出来事が走馬灯の様に蘇って来た。

ゴト師とやり合った事。

赤井店長と徹夜で仕込みをした日の事。

設定師初日は緊張して寝れなかった事。

グランドオープンの思い出。

振り返れば既に沢山の思い出が出来ていた…。

辛い事は沢山有ったけど今日まで頑張って良かったと思えた。

LEVELに到着しお店に入ると、ジャグラーコーナーは年配のお客さんで賑わっていた。

そんな光景を見つめていると、ちょっとした昔のパチンコ屋の雰囲気に似ている感じがした。

なんだか楽しそうだな♪

お客さんの笑顔を見ていると何だかホッとした。

この場所もやがて無くなるのかと思うと悲しくなったが、また違う場所で同じ物を作ってやる!そう自分に言い聞かせ、常連さんに【今日までありがとうございました。】と、心の中で別れを告げた。

そして赤井店長との別れ…。

ゆきち【赤井店長♪お疲れ様です(笑)】

赤井店長【あっ!ゆきちさん!辞めるんですか~?困りますよ~】

赤井店長【昨日社長から聞きましたけど…。】

ゆきち【ほんとにごめんなさい。】

ゆきち【ジャグラー外すのはちょっと出来ないので…。】

ゆきち【まぁ、仕方ないですよ…僕は経営者じゃ無いから(笑)】

赤井店長【明日からどうするんですか?】

ゆきち【まだ決めてませんけど(笑)中馬さんの所で釘師の修業させて貰おうかと…】

赤井店長【釘ですか…】

ゆきち【ヤッパリ僕は釘師になりたいので…】

赤井店長【そうですか…残念ですけど仕方ないですよね。】

赤井店長【僕もここ辞めてついて行こうかな(笑)】

ゆきち【駄目ですよ♪この店は赤井店長に支えられているんですから♪】

ゆきち【僕は赤井店長のアットホームな接客が大好きなんで、ここの常連さんの為にも頑張って下さい♪】

赤井店長【アットホームですか?】

ゆきち【うん!何だか温かいんですよ♪人を大切にしてると言うですかね?】

ゆきち【あっ!でもゴト師には気をつけて下さいね(笑)】

赤井店長【分かりました!!ゆきちさんも頑張って下さいね♪】

ゆきち【はい!分かりました!】

赤井店長に別れを告げLEVELを後にした。

次回更新へ続く。