今から約20年前、私はとある町でパチンコ店の店長をしていました。

パチンコ店に勤めた動機は釘を触りたい!日々変わる釘調整をガラス越しにみていた私はパチプロを辞め『ガラスの向こう側の世界』を覗いてみたいと一念発起、釘師候補生募集と求人を出していたパチンコ店へと就職したのが始まりでした。

目標があると死ぬほど頑張れる性格も手伝って就職して3か月ほどで主任、その半年後には店長となります。が、店長と言っても名前だけ、釘調整はもちろん営業的な内容には一切関与させてもらえず、ただ私の仕事は不正客の監視や従業員の指導をする立場・・・。

これじゃパチンコ店の店員と何も変わらない。
募集時にあった釘師候補生はなんだったのだろうか?

釘師になれると信じ、それまで頑張ってきた心に迷いが生じ始めた頃に停電事件は起こったのでした。

この事件を境に私のパチンコ人生は大きく変わりはじめ今日に至ります。

本日より『ガラスの向こう側へ』と題し、今日に至るまでパチンコ業界で体験した内容をノンフィクションで書いて行きたいと思います。

※登場人物や店舗名は実名で書くと迷惑がかかる恐れがありますので、全て架空のものを使用します事をご了承ください。

~ガラスの向こう側へ~ 【第1話】

まさかの強制停電。

お客側のトラブルは出玉補償で解決できたが、次に問題となったのがホールコンピューターの異常、バックアップ機能の無い当時、通常状態に戻った台から玉を出すとデーター異常が出る。

停電時、幹部は店舗に不在だったのでトラブルを知られずに解決できたが、台データーの異常をごまかす事は出来ない。

そもそも重要な電源は必ず店長が管理するように指示されていたので、その指示を私の判断で変え起こった停電である以上、その責任を取る覚悟を決意をした。

その日の営業終了後、釘調整に来た幹部に停電の事実を話し謝罪すると意外にもお咎めはなく、それどころか緊急時のトラブル対応とアドリブでやった抽選が評価され、新たにイベント企画と運営を任される事になったのです。

退職まで覚悟した私は拍子抜けしボンヤリと島の片隅にたっていると、後に私の釘の師匠となる某チェーン店幹部(仮名:松成さん)が、まるで私の心を見透かしたように、『釘、叩いてみるか?』と発し私にハンマーを手渡して来た。

釘師が使うハンマーを持つのは初めての経験。

閉店後、誰もいないパチンコ店で、私は釘師のハンマーを握りガラスが開かれ釘調整を待つパチンコ台の前に立っている・・・。
その光景は、まさに自分が覗きたかったガラスの向こう側の世界。

憧れだったその光景の中、師匠が叩いても良いと言うパチンコ台の前へ座った・・・

その台は『たこ焼き 八ちゃん』と言う羽根物。

プロとして釘読みに自信のあった私は、師匠に釘を開け締めして見せると、師匠はニヤニヤしながらコチラを見つめ一言・・・

師匠 『お前は釘師になりたいのやろ?』

ゆきち 『はい!釘師になりたいです!』

師匠 『そんな釘にしたら開け締めバレバレやがな(笑)』

ゆきち 『・・・』

師匠 『ええか・・釘師言うのは客から金を取り上げなアカン』

師匠 『ただ取り上げるのは誰にでも出来ることや』

師匠 『客に勝てるかも?と思わせて負けさす』

師匠 『釘師に大切な事は客に満足して負けてもらう事や』

師匠 『今はもぅ昔と違って釘の重要性は少なくなった。』

師匠 『けどな・・・パチンコは絶対に釘や!!』

師匠 『釘が無くなったらもぅパチンコやないからな~』

師匠 『釘が有るからパチンコはおもしろいんや~♪』

そんな言葉を発しながら、釘調整する師匠の姿を見て、私はこの世界で生きていたいと強く思ったのでした。

その日の夜…
師匠が練習用にと作ってくれたハンマーを受け取り釘の修業が始まる。

自分の仕事全てが終わった後なら、倉庫に有る古い台を練習代わりに叩いても良いと許可が出た、それはもう嬉しくて一人倉庫に残って釘を叩く練習を始めたのでした。

最初に取り組んだのは、盤面に打たれた釘を手当たり次第にハンマーで叩く・・・

そうすると釘は盤面に対し右へ、左へ、グチャグチャの形になり、その曲がった釘をハンマーで垂直へと戻していくのです。

最初は釘の芯を捕らえる事が出来なくて、役物や釘の頭に傷をつけたりと素人丸出しでしたが、練習を重ねるにつれ次第に叩ける様になって行きました。

しかし練習してもどうしても出来ない事が・・・
それは釘師の腕を見極める判断材料になるハンマーの音。

釘の真芯を完全に捕らえた時にしか出ない鈍く重い低音の音。

素人が釘を叩くとコツコツと軽い音がしますが、師匠が叩くとゴツゴツと低く鈍い低音の音がするのです。

日々練習を重ね数回に1回程度は芯を捉える様になった頃、師匠から釘調整の手伝いをするように指示が出ました。

それは新台入替で大量導入する海物語の釘調整・・・。

新台は納品時にメーカーが釘調整をしてくれる時代でしたが、海物語の爆発的なヒットで納品が追い付かず自店で釘を叩く事となったのです。

しかし、この初調整が新装開店でトラブルを巻き起こすのです(笑)

次回更新に続く