規則改正が発表された6月からすでに3ヶ月が経過し、パブリックコメントを経て改正案も固まった。パチンコ・パチスロ業界は既に未来へ向かって走り始めているが、現時点でまだ決まってない事もある。

 それは、新規則下における内規(技術上の規格基準)とみなし機の経過措置についてだ。

 これらの件は、本来、警察庁と業界団体の中でのみ話し合われるものであり、基本的に一般ユーザーの知るところでも関わる話でもない。

 しかしながら、一連の規則改正の流れにおいて、今、業界団体が何を成そうと警察庁と関わっているのか。それは、今後のユーザー動向にも非常に大きな影響がある。

 風営法改正に伴い、大きな転機の真っただ中にあるパチンコ・パチスロ業界人が、何を感じ、何を考えてきたかを追った、シリーズ「人々の本音 」。

 第4回目のゲストは、長年コンサルタントとして業界団体にも深く関わり、現在は一線を退いているA氏だ。

 非常にクローズドな世界の内部を見てきた業界人が、写真撮影NG、氏名も伏せて、といった条件で特別に取材に応じてくれた。非常に貴重な内情、そしてA氏の今後の驚きの野望とは……!?是非、最後までご覧頂きたい。

 

 取材日/2017年9月29日

 聞き手/安田一彦 万回転

 

みなし機の行方はどうなる?

万回転 まず初めに「みなし機」についてお聞きします。「みなし機」は2018年2月の新規則施行後は、違法機となる、という認識で間違いないでしょうか?

A氏 まず大前提として、「みなし機」という言葉は法律用語じゃないんだ。それは分かった上でないと話が進まない。

A氏 だから、「検定機」「認定機」と違い、「みなし機」には明確な立ち位置という物は無い。数自体は少ないとは言え、アレンジボールなんかのように、認定制度が出来る前からある物だってある。それもいわゆる「みなし機」にはあたるが、その点は全く違法と指摘する人はいない。

A氏 ただ、ご存知の通り、今回の規制の肝はパチンコ・パチスロの射幸性の抑制だ。風営法第20条1項にある
「著しく客の射幸心をそそるおそれがあるものとして同項の国家公安委員会規則で定める基準に該当する遊技機を設置してその営業を営んではならない。」
という文言に旧規則の台が抵触するという考えの下、業界人の一部は違法機かもしれないという認識で今後の対策を考えている。

万回転 では、やはり来年2月以降は設置できないと見るのが自然でしょうか?

A氏 設置できないというより、新規則化ではルールが違う中、何をどう「みなす」かの見解がないというのが正直なところだといえる。行政はさっきも言った通り「みなし機」という言葉自体が法律に無いから、そのような表現はしない。業界に行政からの声が伝わることはないんじゃないかな。

万回転 業界としては出来る限り撤去を遅らせたいのは分かります。しかし、みなし機を違法機とするならば、前回の平成16年の規則改正時のような経過措置は本来超法規的で、違法という点を持って警察庁や業界団体を批判する人もいます。

A氏 そもそも風営法のこれまでの変遷だったり風土をきちんと知らない人にどう言われようがなぁ……。

A氏 さっきも言った通りアレンジボールはどうするんだ?という話もある。これは認定制度前の遊技機だからいわゆる「みなし機」と言ってもいいんだが、それを一概に外せと言うのも実は法的に問題がある。

A氏 何より、今もホールに残っている「みなし機」やそれが近づいている「高射幸性機」、バジリスク絆とかだな、それをファンが喜んで遊んでいる現状もある。それを何故外さなきゃならない、という考えを持っている人も当然いるわけだ。

A氏 「みなし機」問題に限らずだが、業界人というか団体は「業界・行政・社会が最大価値を持つにはどうすればいいか」というのが基本的な考え方だし、それは当然だと思っている。

A氏 ただ、業界だって社会的な流れは分かっているから、新基準に該当しないパチンコ遊技機については、昨年70万台以上を自ら撤去したり、同パチスロ機の設置比率を減らす努力をしている。最終的にはゼロにしていくという方向だね。実際、パチンコ遊技機は0台だし、パチスロ遊技機は目標値の30%未満にかなり近づいている。後は個々の店舗ごとの達成なんだ。

万回転 9月15日に、「みなし機」や「高射幸性遊技機」の設置比率を今後は発表しない、と全日遊連の阿部理事長が述べていました。業界の姿勢を見せるという意味ではこの辺りも公表された方が透明化されて良いように思いますが。

A氏 そもそも公表したところで、知る事にどれだけの理由があるか分からないし、それは一概に賛成はできない。件の批評のように、風営法を良く知らない人に「1台たりとも残すな!」と言われかねないし、それは業界としては辛いところなんだよ。

A氏 勿論、やましい物を隠すようではいけないと思うが、「みなし機」の経過措置に関する裁量は、原則各都道府県公安委員会にあるわけだし、そこと各県遊協とで意思疎通が取れていればそれでいいんじゃないかな。

 

新規則下の新台はどうなる?内規は?

万回転 まず基本的な事をお聞きしますが、新規則下の台を作る際の基準となる内規はそもそも誰が策定するのでしょうか?

A氏 それは日工組(パチンコ)と日電協(パチスロ)が行政と調整の上で作るものだね。

万回転 なるほど、行政も絡むのですね。POKKA吉田さんの話に出てきた、技術上の解釈基準という物と内規は別のものなのでしょうか?

A氏 解釈運用基準は規則の下にある法令。POKKAさんの言うように生活安全局が決めるもので、風営法の意味(解釈の仕方)をより具体的に通達している物。

A氏 内規というのは、法令じゃない。日工組と日電協が決めているパチンコ・パチスロを作る時のルールだね。

万回転 では、これからの新台に関わる内規についてはいつ頃決まってくるのでしょうか?またその話し合いはどれくらい進んでいるのでしょうか?

A氏 これに関してはまだ分からない。すでに話し合いは始まっていると思うけど、基本的には日工組と日電協の内部の人じゃないと分からない話だから。

A氏 ただ、前回のパチンコの確変65%規制の時のように決まったらどこからか漏れ伝わってくるだろうし、まだその状況にないという点で決まっていないって事だろうね。

A氏 だから、現時点ではまだどんな台になるか、というのは分からないとしか言いようがないね。ただ、パチンコについては面白いものが作れるのではないかという声も聞くし、パチスロも5号機当初は「もうパチスロは終わった」と言われていたのに、またここまで復活させた。ファンが喜ぶようなものは作ってくると思うよ。

 

ホール側の今

安田一彦 業界コンサルタントという事で、ホールの内情にも詳しいかと思いますが、現在の動向は如何でしょう?

A氏 ホールが出来る事は限られていて、必要と思う遊技機をいかに認定し、あと3年使うか。今はここに最も力を入れている。

A氏 その他では今後の遊技機に合わせた集客戦略を練っているところだね。

安田一彦 今回の規制を機に廃業するホールも多いと思いますが軒数の見通しはどの程度と見ていますか?

A氏 ここ数年は毎年3%減というペースだったけど、これが上がる。おそらく来年明けから3年後までにマイナス5%程度にはなるだろうし、合計で1,500店舗くらいは減るんじゃないかな。

A氏 遊技機の問題だけじゃなくて社会的な逆風も続いていくだろうからね。

安田一彦 ファン減少を防ぐために粗利を落としたり、なんて事もホールは出来なくなりそうですね。

A氏 これまで高単価高稼働で利益を上げてきた地域一番店は特にダメージがあるだろうね。単純に売り上げが上がらない遊技機になるから。これを機にファンを増やそうと思う店舗もあるにはあるとは思うけど、大きく売り上げが下がる店舗については、まずは業態を維持するための利益を落とすという決断は店長クラスではできないね。

A氏 あと、何より一番辛いのは低貸し専門店。ただでさえ4円パチンコ20円パチスロと比べて利益を上げるのが難しいビジネス形態だから、低貸しは専門店も、店舗内コーナーも減っていくと思ってる。

A氏 ただ、これは逆に言えば4円パチンコの復活に繋がる可能性はある。その辺りの戦略によって、今後ホールが生き残れるかどうかの岐路に立っていると言えるんじゃないかな。

 

今後の業界団体のあり方とA氏の野望

万回転 先ほど設置比率の個々の店舗のお話が出ましたが、広告規制や東京の交換率規制などに関して、何かと足並みが揃わない業界、というイメージがあります。

A氏 交換率と遊技客が言っているものや広告規制の件については、個々のホール企業の考え方だから。これは、例えば全日遊連を通じて末端まで同じ考えに、というのは凄く難しい話なんだ。

万回転 とは言え、そういった“抜け駆け”に対して業界団体として対応が必要かと思いますが、団体が多すぎて対応しきれてないなんて事はありませんか?

A氏 確かに一般の方からすれば多いように感じるだろうし、実際私もそう感じる。ただ、団体が多いというのは政治で言うところの政党が多いようなもので、考え方の違いからそうなっているわけだから、一概に悪いわけでも、簡単に統合できる話でもない。

A氏 中には業界の再編を考えている人もいるとは思うけどね。まぁ具体的に話が進むことはこれからもそう簡単にはいかないと思う。

A氏 ただ、今回の規則改正に関しては、業界も重々今の立場を分かっているから、間もなく発表があると思うけど、新基準に該当しないパチスロ遊技機の設置比率30%以下にするという誓約書を提出させる事を決めている(9月27日に通達)。

A氏 設置比率をちゃんと守らないと今ホールが最も気にしている認定申請を保留するってペナルティがあるから、さすがにこれを守らないホールは無いと思う。あるとしたら、もう新台を入れる気も今後の営業の展望も無い、極一部のホールだけだろうね。

万回転 業界再編というお話がありましたが、A氏はどのような形が理想とお考えですか?

A氏 少なくとも今ある団体をどうこうというのは難しいから……ただ、できたらいいなと思うのがプレイヤーの団体だね。

万回転 プレイヤー団体!?

A氏 そう。あくまで私個人の考えだけど、プレイヤー団体を作り、その中で様々な要望や意見を募って、各団体や行政に随時要望や意見交換をしていくというもの

万回転 それはいわゆる雑誌やTV系メディア団体とはまた違うものですか?

A氏 違うね。雑誌なんかが特にそうだけど、彼らはもう業界のステークホルダーだから運命共同体みたいなものじゃない。私が考えているのは本当に一般のファンの団体。

A氏 目的としては、パチンコ・パチスロファンによるパチンコ・パチスロファンの為の活動。あと、今の業界に対して物を言いたいファンは多いと思うけど、法律や業界ルールなど、専門的なところは分からない人も多い。そういうところを繋ぐようなものがあれば、行政にも業界にも物を言える団体になり、パチンコファンの意見が反映された業界になるのではないかと思ってる。

安田一彦 ファンと一口に言ってもユーザーのタイプはまちまちですけど、その辺りは?

A氏 勿論幅広い層の支持が必要。ただ、今回この取材に協力したのは、安田さんと面識があったからというのも勿論あるけど、悠遊道のスタッフや読者みたいなヘビープレイヤーで、ホールに長くいて遊技機をよく知る勝ち組を含む層の方が、業界に対して有益な意見を持っていると考えているんだ。

A氏 あと、さっき言った法律の事とかを分からないライトユーザーへ正しい情報を伝えるという意味でも、ヘビープレイヤーが業界とライト層との橋渡しになって欲しいし、その為には発信力も必要だから、プレイヤー団体というのがあればいいな、と思うんだよね。

A氏 勿論、運営にはお金も必要だけど、想いのある人から年間数千円程度もらえればweb中心の活動で十分成り立つし。私はすでに業界の複数の人とこういう話をしているんだけど、コンサルタントとしてはもう一線を引いているから次の目標はそれなんだ(笑)。

万回転 我々がその任の一翼を担うのはまだ難しいかと思いますが……

安田一彦 それでも、我々なりのパチンコ道をサイトを通じて伝える事は出来るしね。幅広い閲覧者獲得のためにももっと頑張らないと。ね?万回転(笑)。

万回転 は、はい、やれる限り……(笑)

 

――業界団体内部の話というのは、本当にトップシークレットなのだろう。政治的な絡みもある。大きな利害関係もある。残念ながら、大変デリケートな状況の今、書けない話も沢山あった。

 そんな中、一般的なホールを対象としたコンサルタントとはまた違うA氏が取材に応じてくれたのは本当に幸運だった。

 今後の流れに関してはまだかなり不透明なところが多い。実際問題、業界を取り巻く状況に良い兆しは見られないし、3年でホール軒数マイナス1,500軒という見込みは、頭では理解しつつもそうなった時にどう状況が変化していくかまでは想像が出来ない。

 一方、A氏は既に次の段階に目を向けている。A氏の口から語られたユーザー団体という構想は、全く持ってボクの頭には無かった話で、頭をカチ割られたような思いだった。

「もっと頑張れよ(笑)」

 という安田さんのプレッシャーにどこまで応えられるかは分からないが、もしも本当にそれが実現するならば……今まで蚊帳の外だったユーザーの想いが行政や業界内部に届く日が来るのかもしれない。

 ボクもその日を楽しみに頑張っていこう。そんな力をもらえた取材だった。

 

安田一彦’s eye

うん、業界の話というのは、なかなかに難しい。

まずもってインタビュー中にA氏から用語の訂正が何度かあったように、多少なりとも業界事情を知る我々でも解釈の講義をしてもらったくらいだから。

となると、一般ファンの方々はもっと誤解があるのではないか? その辺が今回の規制に関して大騒ぎした中での、憶測と不安を助長した部分はあると思う。

ファンには噂に流されず、信頼できる情報元からの確定事項だけを判断基準としていただきたいと思うのです。

それから、最後のユーザー団体の話は実現したら、統括する行政と業界に大きな変化をもたらす可能性はある。

ファンの層は様々で、考え方もそれぞれが大違い。大半のユーザーは負けているので勝ちを基本とする少数派が舵を取るのは難しいけれど、上手く協力できる日が来るなら、それは素晴らしいことになる。というか、自分も期待したい。

 

 

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