前回2-a

Tさんのそのような接し方は、なにも僕だけに限られたものではない

店員さんが新基準機の新しい仕組みに戸惑っていれば、自分の台を放置したまま、談笑でもするかのように説明し、常連さんが最近ぜんぜんダメだとぼやけば

「それ、まわってんの?あ?そんな回りじゃお金がいくらあっても足んないよ!だったら○○番台打ちな!そっちのほうがまわるから!!」

と、自分には何の得もないのに、数少ない良台をすすめていた

 

かと思えば、夕方、仕事を終えて打ちに来たガテン系のお兄さんが、

「どう、Tさん出てる??」

と親愛の情をなみなみとさせて挨拶にくると

「バカヤロー!!たかがパチンコといっても遊びに来るからには、仕事の汗をキッチリ落とし、いい服じゃなくてもいいからキレイ(清潔)な服着て来るもんだ!打ちたいんだったら一度家に帰って出直して来い!!それが遊びのマナーだ!!」

と突然、怒鳴ったりするからおどろく

Tさんは決して体格のよいほうではない

むしろ一般的にみても細身な方で、殴り合いにでもなったらと、見てるこちらがハラハラしてしまう

だが、そんなドキドキはいつも杞憂ににおわり、このときも、シュンとしたお兄さんはこの世の終りのような顔をして店を出て行き、数時間後にこっそりと戻ると、隠れるようにして遊んでいた

帰ってきたら教えてな、と頼んでいたこともあり、人の良さそうな店員さんは結末を予想してかニコニコと笑いながら近づいてくる

「Tさん、あいつ帰ってきたよ」

「お、帰ってきたか。ちょっと言ってくるから、ダミ、当たったら頼むわ!!」

と数台先の僕に言い残してお兄さんのもとに

「お、いいじゃん!!お前いい男なんだから、そうやってちゃんとした(格好)ほうが絶対いいよ!!」

口を横に大きくひろげ、端正な容姿を何のためらいもなくクシャっとつぶして作るこの笑顔

思わずこちらまで嬉しくなってしまいそうな邪気のない笑顔でポンと肩をひとつ叩くと、いつのまにか置いた缶コーヒーをそのままに、自分の台へと戻ってくる

そして、店が終わると、決まっていたかのように

「よし、飲みにいくぞ!」

と彼を捕まえて夜の街へ消えてしまうのである

僕はもとより、連れていった先のスナックのお姉さんにガテンなお兄さん、いかつい店員さんや一癖も二癖もある常連さん、そして野島の爺様まで、もう、みんながTさんにメロメロでした

 

しかし、Tさんを中心にまわっていたモナミでの平穏な時間も、いつの頃からか、めまぐるしく変るパチンコ業界の変革のうねりに少しずつ呑み込まれていきます

 

当時、新台入替などはせいぜい季節に一度ほどで、店も維持費を今ほど必要とせず、平日昼間は時間5人程度の客付きでも、夜や週末に2、3割稼動していれば十分に採算がとれていたようです

時系列は曖昧ですが、じわじわ増え続けていたパチンコ人口は、海物語の大ヒットから主婦層を一気に取り込み、スロットでは四号機のゲーム性がバブル崩壊後の就職氷河期の若者を虜にしました

そして店に流れ出した溢れんばかりのお金をまえに、お上はCR(カードリーダー)なる制度を導入して、自らの懐にも流れる仕組みを作ります

一度味を占めた店側も、もっともっと利益をと店舗数を増やし、派手なイベントを乱発、季節に一回だった新台は、月に一度、隔週に一度、毎週…というように、かぎられたパチンコユーザーを自分の店に取り込もうと加熱する一方でした

作ったぶんだけ飛ぶように売れる新台、メーカー側も毎回のように台枠を新たに開発し、一台あたりの単価もみるみる高騰

そして爆発的に増え続けたユーザー数に店舗数が追いついたころ、それでも増え続ける営業費を回収すべく、今度は一人あたりからとれる単価を増やそうと、台のゲーム性は著しく進化、精神的にそして心理的にものめり込む様な刺激的なものへと変貌を続けました

そのようにして業界全体が急な坂を転げるように突き進むなか、モナミや、他の地域型パチンコ店は真綿で首を絞められるがごとく、少しずつ少しずつ状況が悪化していきました

さすがのモナミも入れ替えのサイクルは早まり、CRユニットの導入など膨らみつづける経費のシワ寄せは、必然打ち手の方へと流れていきます

常連が一人減り、二人減り、残った常連さんも、遊戯費は笑い話にできないほどの金額になっていたのでしょう、朝並んでいるときにする何気ない会話も、少しでも気を緩めて話そうものなら、相手のささくれ立った部分を刺激してしまうため、平和そうな会話の底には、常にある種の緊張感が孕むようになっていました

3-aにつづく