先月、免許の更新に行ってまいりました

今回から青免許になるので試験場まで行かねばなりません

面倒だなと思いながらも、前回の講習用のビデオが、東海林のり子さんが「現場の東海林です!」との決まり文句からはじまる凝った代物だったことを思い出し、今回はどうだろう、と無理やり楽しみをこしらえて向かいました

 

試験場に辿り着き、囚人のように、足元に貼られた矢印に沿って、他の受講者と一緒にのそのそと手続きをこなしてゆき、最終地点、一時間の講習が行われるの教室へ

教室の入口には、入ってくる受講者の席を振り分けている、教官であろう水色の制服を着たお父さんがいる

70前後に見えるが、職種的に考えれば定年間近といったところか

肩幅は広く、何かを聞き直しているかのように首と顔だけ若干前に出ている

頭は年齢相応にゴマ塩模様で、硬そうな毛髪は、きれいに四角く刈り揃えられている

健康そうな褐色の肌、顔に深く刻まれた皺は、乾燥した感じではなく、プリプリと弾力がある

ときに、皺というのは、その人の人生をあらわしているものである

日々笑って過ごしてきた人間には眼尻に優しい皴が描かれ、平素から柔和な印象を他人に与えるものである

逆に癇癪を起し続けてきた御仁には、眉間などに深いしわが刻まれ、何をしていなくても怒っているような印象を他人に与える

その教官の額には深い皺がある

両眉は中央に向って上がっており、「ハ」の字のようになっている

もしかしたら困ったように眉を上げる癖が、額にしわを作ったのかもしれない

その表情からは、下がりきった眼尻や、ゆるく上がった口角も相まって、黙っていても「参ったなぁ」と聞えてくるようである

一目見た瞬間からポチはこの老先生に好意を抱き、並びながらじっと眺めているのだが、どうもこの老先生は、ひとり言の癖があるご様子

席を配する際、トラブルを防ぐためか同じような人種を並べるのはいいのだが、その選別の理由を全部口に出してしまっている

「ん~、うんうん、ありゃ、これまた随分派手なお兄さんだね。んじゃー、あそこにいるまっ金金のお兄さんの横がいいかな!?うんうん」

派手と言われたカリアゲ鬼ピアスのお兄さんは何か反応した方がいいのか戸惑い、指された先の金髪グラサンのお兄さんは、まっ金金のお兄さんという単語に驚き思わず振向いてしまう

そうして目が合ってしまったこともあり、互いに変に意識させられて、

「…どうも(ほんのり赤面)」

「…あ、どうも(ほんのり赤面)」

と、席に着きながら、気恥ずかしそうに挨拶している

そんなやりとりが、そこらで行われているため、部屋には何とも言えない空気が満ちている

そしていま

「ん~、そうだな、お姉さんはあそこかな?」

と新たに案内されているお姉さんは、すでに案内済み、離席して戻ってきただけである

ちなみに、ペットボトルを手に

「捨てに行っていいですか?」

「ああ、うんうん、開始時刻の五分前までにもどってくればいいですよ、うんうん」

とあったやり取りは、今から数十秒前の出来事

「え、あ、いや…」と戸惑うお姉さんに、

「ん~、うんうん、どうかしましたか?…あ!もしかしたら二時間講習の娘さんかな??」

なんて頓珍漢なことを言っている

受講生全員の心の中から「いやいやいやいや…」とのツッコミが聞えてくる

 

そんなこんなで、いざ講習の時間が始まってみると、この先生、なぜか突然恐ろしいほどの早口に

活舌も悪く、何を言っているのかさっぱりわからない

「え~みなさ…と…なの………てください」

みな分らないのでポカンとしている

で、老先生が交通のしおりを開きだしたのを見て、「ああ!」と皆、交通のしおりを開き出す

ちなみに、なんとか解読出来た最初の説明では、

1 教本や、自己分析シートを使っての講義

2 さだまさしさんの『償い』という歌を聞く

3 最近よくある交通違反の注意点、

4 以前のときは「現場の東海林です」から始まった、事故の悲惨さを伝えるビデオ

という流れだった

第一段階がおわり、「いやあ、この唄はね…」と次の項目である曲の準備をしながら、老先生、さだまさしさんの曲に対する熱い想いを語って下さいます

ちなみに語るペースは、受講生の心にいやでも浸み込んでいくようなゆったりとしたもの、さっきまでの講習とは打って変わって大変聞きやすい

準備終了後も5分ほど熱弁が続いたが、さあ皆で聞きましょうと、部屋が消灯される

悲しい前奏が流れ出す、曲がはじまる、暗い、もう、ただただ暗い

気の良い友人のゆうちゃんが事故を犯し、罪悪感に悩まされながら、寝る間も惜しんで何十年も働き、賠償金を払い続け、被害者の嫁と小さい子供は亡くなった旦那をいまだ忘れられず…みたいな話

気持がこれ以上ないくらい沈んでくる

端の方で見ている老先生は、ハンカチで眼元を押さえている

曲終了、部屋の電気が点けられる

全員、世界の終わりを見てきたような暗い表情

老先生、再度、さだまさしさん愛を説き始める

では、気を取り直して講習に戻りましょうかと、3の交通違反のおさらいがはじまると、また、超速早口に戻って、まっっったく聞き取れない

はじまって40分、ずっとボケっぱなしの老先生

休むことなく心の中でツッコミっぱなしのせいで、受講生全員ぐったりしている

では最後に、と事故の凄惨さを伝えるビデオ鑑賞のお時間

「現場の東海林です!」を期待しながら待っていると、四隅のスピーカーから大音量で流れ出す悲しい前奏、画面に映し出される、まさかの『償い』の文字

受講者全員、最後の気力を振り絞って、老先生を捜してみると、先ほどと同じように部屋の隅で、先ほどと同じようにハンカチで眼元を押さえて感極まっています

全員撃沈

誰一人ツッコむことなく、曲は流れ続け、2番の歌詞が終わりかけたころ

「あああああ!間違えちゃいました!!」

「もう、皆さんも気付いてたならば教えてくださいよ!!」

と、あわあわと恥ずかしそうに音楽をとめる老先生

その表情には、第一印象の『参ったな』と聞えてきそうなシワが綺麗に浮かんでいました

なるほど、この先生の皺は、このようなことが繰り返されて出来たようです

ちなみに、観る予定だった15分間の映像は、5分間だけ見て終了になりましたが、以前のような芸能リポーターはいませんでした

ボケ倒してくれた老先生のおかげで、面倒な講習もなかなか愉しいものとなりました

青に変わった免許を手に、またパチンコ屋さん通いをがんばろうと思います

と、無理やり最後だけパチンコに繋げてみる

 

10月3週の稼働 

43h +18000円 愉快で吐きそう♪