生まれ育ち慣れ親しんだ関西を離れ、一念発起して東京への移住を果たした1991(平成3)年1月。

ちょうどこの頃、はるか海の向こう中東で湾岸戦争が勃発したのですが、日本のパチスロ界もまさしく戦国乱世の様相を呈していました。

ありとあらゆるパチスロ機が「闇の商人」たちに不正改造され、本来のスペックとはかけ離れた激しい連チャンを武器に巷のホールを暴れ回った、いわゆる「裏モノ連チャン機ブーム」です。

きっかけとなったのは、前年秋のコンチネンタルの登場でした。同機は、それまでに前例のないビッグのみの激しい連チャンで大センセーションを巻き起こしたのですが、これに対抗せんと次から次へと競うように「連チャン機」が市場に登場。またたく間にブームへと発展したわけです。

さて、前回も書いたとおり、私は東京への移住を機に生活ためにアルバイトを始めました。パチンコ店を専門とする掃除屋です。

基本的に作業は、閉店後の深夜になるのですが、役得というかなんというか。店長さんがパチンコのクギを叩いている場面とか、パチスロ機のモーニングをセットしている場面とか、一般客の立場ではけして見ることのできない様々な「パチンコ店の知られざる裏側」に直面することができました。

で、当然のことながら、ブームになっていたパチスロの裏モノに関する「掃除屋は見た」も、多々ありました。

たとえば、渋谷の裏通りにあった某店の場合。コンチネンタルが設置してあり、店長さんがモーニングをセットする場面によく遭遇したのですが、その方法が実に特異でした。

一般的なパチスロ機の場合、セットする台にそれぞれ打ち込み機を接続してボーナスフラグが立つまで(打ち込み機が)回します。ところが、その店の場合、打ち込み機を繋ぐのは1台だけで、セットする台から抜き取った基板ボックスを取っ替え引っ替えして、打ち込むのです。

「それでは、時間も手間もかかって大変なのではないか」と思ってしまうところなのですが、ぜんぜんそうではありませんでした。

コンチネンタルのボーナス判定プログラムには、現実にはあり得ないはずの「コイン4枚掛け」で100%ビッグが成立するという不可解な特徴がありました。これについての「なぜ?」は、ここでは割愛させていただくとして。デビュー当初は、コインセレクタに後付けされた部品から4枚目のコイン投入信号を出すことでバッキバキ連チャンさせていたのですが、これと同じ原理の打ち込み機を使うことで1台あたりものの数秒、ぜんぶ打ち込むのにもほんの数分で完了となったのです。

いまのスマホほどの大きさの装置のボタンを押すと、台のスピーカから「ピロピロピロ、トゥルン、ポッ、ポッ、ポッ」という一連の動作音が10倍速くらいで鳴ったかと思ったら、「ピーッ」と鳴ってセット完了。見てて感心しましたね、ほんと。

コンチ以外にも、荒川区の下町にあった某店では、裏アラジンIIの打ち込みをする場面に遭遇しました。

正面のガラス清掃が終わった頃合いに奥から店長さんがアルミの弁当箱のような装置を手に現れ、「おーい、シェード降ろしてくれ」と告げると、台を開け始めます。件の装置には赤、黄、青のボタンやディップスイッチがいくつかあり、台に繋ぐとそれらを「ピッ、ポッ、パッ」とやって、セット完了です。

裏アラジンIIは、バージョンがあまりに多彩すぎて必勝ガイドの誌面では「裏の帝王」とか言われたりしていた。通常の6段階の他に裏設定6段階、加えてモーニングセットや連チャン回数なんかも自在にセットできるものもあり、この店のはそう言う類のものだったのではと思われます。

モーニングセット以外では、特定の機種を設置している店でよく、「パチスロコーナーの電源は絶対に落とすな」と厳しく言われることがありました。あからさますぎる小役落ち連チャンと数々の攻略法が話題を呼んだリノと、貯金式連チャンを初めて世に知らしめたワイルドキャッツです。

これら2機種は、「RAM注射」なる手法で裏プログラムが仕込まれていました。RAMクリアするだけで文字通り簡単に証拠をクリアできるため様々な機種に用いられていたようですが、設定変更の手順を間違えたり、ちょっとした電気的なトラブルで飛んでしまうというリスクもありました。

まぁ、パチスロ機の場合はRAMの内容をバックアップするバッテリーがあったので、電源を切るだけで飛ぶなんてことは無かったはずなんですが。当時のパチンコは電源オフすなわちRAMクリアだったので、たぶん店長さんたちは混同していたんでしょうね。

深夜の掃除の仕事は、けして楽なものではありませんでした。しかし、そんな感じで裏モノ連チャン機ブームの興味深い裏側を垣間見ることができたのは、名も無きひとりのスロ打ちとしては、非常に楽しく心が躍ったものです。

次回も、深夜のホールで体験したエピソードを、いくつか披露させていただきます。

それでは…再見!!