悪魔の設定と仕込みを終え、赤井店長と開店までの時間潰しにファミレスへ向かう事にした。

ゆきち『赤井店長眠くないですか?』

赤井店長『昼に仮眠を取ってますから平気ですよ~♪』

ゆきち『これから暫く徹夜作業が続きますから、無理しないで下さいね』

ゆきち『明日から一人でやりますから…』

赤井店長『いゃ~大丈夫ですよ♪社長にも終わるまで残るように言われてますし…』

赤井店長『これでも僕は店長ですからね♪』

赤井店長『好きなんですよこの店が、思い入れがありますから…』

赤井店長『こんな店になってしまいましたけど、開店当時からまだ通ってくれるお客さんもいるんですよー♪』

赤井店長『ここは居心地が良いって言ってくれてね…やっぱりうれしいじゃ無いですかぁ』

赤井店長『負けてばかりで目押しも出来ないオバさんなんですけど…』

赤井店長『帰る時に必ず【ありがとう♪また来るよ~】って言ってくれるんですよ』

赤井店長『ほとんど毎日負けてるのに楽しそうにスロット打ってね(苦笑)でも最近は仲の良いお客さんが来なくなって、寂しくなったって…』

ゆきち『うんうん♪解りますよ!僕も店長やっていましたから…』

ゆきち『必ず居ますよね♪そう言うお客さん…』

ゆきち『また再出発して、離れて行ったお客さん達にも帰って来てもらいましょう♪』

赤井店長『そうですよね♪頑張りましょう!』

再出発の日を目標に先ずは600万稼ぐ事だけを考える事にした。

計画通りに行かなければ二週間で解雇決定!後は結果を待つだけ…朝日が昇り出勤するサラリーマンも目立ち始めた頃、ファミレスを出て店に戻った。

電源が落ちた店内は真っ暗で静まり返り、数週間後にこの店内を賑わす事だけをイメージして極力ネガティブな事は考えないようにした。

『ゆきちさ~ん♪そろそろ開店準備しますね♪』赤井店長はそう言って開店作業を開始した。

金庫を開け千円札を手際よく両替機に投入して行く。それが終わるとホールコンピューターのリセットと台電源の投入…

一通りの作業が終わるとシャッターを開け店の前を清掃…。

通常ならアルバイトに任せる作業も、赤井店長は文句一つ言わず丁寧に熟して行った。

既に経営状態が悪化し僅か数千円の人件費を削減するために、アルバイトの出勤を遅らせ、毎日一人でこなして来たのだとか…。

全ての作業が終わったのは開店の30分前、軽く額に汗をかき赤井店長は事務所に戻って来た。

ゆきち【お疲れ様です!】

赤井店長【お疲れ様で~す♪】

ゆきち【アルバイトは何時に出勤するんですか?】

赤井店長【昼過ぎに出勤してきますよ~♪】

ゆきち【えぇぇ~それまで一人なんですか(驚)大丈夫ですか(汗)】

赤井店長【大丈夫ですよ!】

赤井店長【朝からほとんどお客さんは来ないので、一人でも平気です♪】

ゆきち【いゃいゃ(汗)そうじゃ無くてセキュリティが心配なんですよ(苦笑)】

経費削減も良いが店の従業員が少な過ぎては、セキュリティが保てない…。ただでさえ大切なこの時期にゴトにでも入られたら死んだも同然、何だかとても嫌な予感がしたので万が一に備え保険をかける事にした。

ゆきち『赤井店長!!これからしばらく、事務所でモニター見ていますので、誰にもこの事を言わないで貰えますか?』

赤井店長『はい。解りました…』

そして事務所の店内モニターの前に座り、一日店内の動きを観察する事にした。

その数日後、嫌な予感は的中する。

事務所にこもりモニターを監視する事にした理由…。

それはゴトの内部犯行が無いか確認する為だった。

繁盛店なら一日数千万円が動くパチンコ店、その金を狙って来るのは外部からだけでは無い。

時には、ゴト師がアルバイトに成り済まなりすし侵入して来るケースも有るのだ。

悲しい事だが店長時代に何度か経験した事が有り人間不信に陥った事も有った。

初めてこの店の営業データを見た時、不審に感じた個所が幾つか有り、その内の一つ誤差メダルの異常が少し気になっていた。

ひょっとして内部不正も有るかも知れない?うたぐり深くなりすぎて自身が嫌になる時も有るが、この稼業はそれを避けて通る事が出来ないから悲しい…。

誤差メダルとは、売上たメダル枚数から、店が儲かった枚数と客が交換した枚数差し引いた数値の事を言う。

本来この数値は店側のプラスで終わる事が通常…

パチンコなら客が玉を落として交換されていない、スロットなら客のメダル持ち帰り又は3ベット専用機などに残される端数メダルがそれにあたる。

ホールコンピューターにはパチンコは10玉単位、スロットは一枚単位でその誤差+-が表示されるのだ。

本来ならプラスで表示される筈のデータが、この店では連日数百枚のマイナスが記録されていた。

考えられる原因は…

1・メダル貸し機の過払い
2・ジェットカウンターの異常
3・メダルの持ち込み等(客不正)
4・メダルの流し込み(内部不正)

以上が主な原因だ。

1・2に関しては新店では起こりにくいトラブル。
3は店内のメダルに他店メダルが入っていないか?チェックすれば判る。
何れもその痕跡は無かった…。

更にデータを遡って行くと週に二日必ず正常数値の時が有る…。もうここまで見れば何も言う事は無い。

後はアルバイトのシフト表と照らし合わせれば答えは出て来る。

『赤井店長に言うのは辛いなぁ~』そんな事を考えていると気分が落ち込んだ。

自分も店長になり一緒に働いて来た部下の内部犯行を知った時、言いようの無い悔しさと悲しさで、なにもかも嫌になった時期が有っただけに、出来れば内部犯行で無い事を祈った。

ぼんやりとそんな事を考えながらモニターを見つめていると、どうやら開店時間になったようだ…。

リズミカルな音楽と共に入り口は開放されるが入店者は無し…誰も居ない店内にただ音楽だけが鳴り響いていた。

開店して5分が過ぎた辺りに常連さんらしき人が入店してきた。

赤井店長は『おはよう御座います!!』と元気よく挨拶をしてお客を迎え入れる。

次に来たお客さんも地元の常連さん、特にスロットを打つ訳でもなく、先に来たお客さんと井戸端会議をしている。

開店から30分を過ぎた辺りには何とか数名がスロットを打ち始め、何時もと変わらぬ店内となった。

唯一違うのは、連荘機が連荘しない悪魔の仕様になっていること。

お客には非常に申し訳ないが、こうするしか他に方法が無くモニター越しにお客に『ごめんなさい!』と呟いた。

貯金箱仕様となったスロット達は順調にハマリを繰り返し、再出発の資金を稼いでいる。『機械はホントに正直だよなぁ~(笑)そして非情だよなぁ~』とホルコンとモニターを見ながら妙に関心していると…アルバイト達が出勤して来たようだ。

赤井店長は出勤してきたアルバイト達に引継ぎを済ませ事務所へやってきた。

赤井店長『お疲れ様で~す♪』

ゆきち『どうもお疲れ様です。アルバイト達に僕の事は話してませんよね?』

赤井店長『ええ!もちろん話してませんよ~♪』

赤井店長『僕は今から仮眠させてもらいますね~♪』

ゆきち『あぁ・・・』

誤差メダルの話をするか?それともしないか?迷った。しかし黙っている訳にも行かないので話を切り出すことに…『赤井店長!じつは…』内部不正の疑いが有ることと、その根拠を説明した。

金額にして一日10000円~12000円程度の誤差メダル、しかも決まって月曜日と木曜日は正常数値…過去数ヶ月に渡りそのデータは規則正しく異常数値と正常数値を繰り返していた。

そして今日は異常数値が記録される日…今のところ不正は見当たらない。

そして今から赤井店長が休憩時間に入る。

悪さを働くには都合の良い時間帯だが…。

赤井店長『う~ん……確かに月木休みの高木ってアルバイトはいますけど』

赤井店長『高木君は絶対そんなことする子じゃないですよ!!』

赤井店長『・・・』

よほど信頼しているパートナーなのか?赤井店長は口を閉ざしたまま黙り込みデータを悲しそうに見つめていた。

気まずい空気が事務所に漂い無言のまま時は過ぎて行く…。

そして、その数時間後アルバイト高木に動きが出た。

アルバイト高木『事務所誰かおられますか?』

赤井店長がインカムでコールバックしようとしたので、とっさにそれを止めた。

2度、高木からのコールを無視…。
店内モニターを押し黙ったまま見つめた。

すると高木は補給用に準備しているメダルジョッキを持ち、ジェットカウンターへそのままメダルを流した。

素早く交換したレシートをポケットにねじ込み何事も無かったように作業へ…。

ゆきち『やっぱり!流し込みですね…』

赤井店長『・・・』

赤井店長はモニターを見つめ小刻みに震えていた。

信頼してお店を任したパートナーに目の前で裏切られた瞬間…。

言いようの無い悔しさと悲しさが込み上げているのだろう。次の瞬間!!

赤井店長『高木!ちょっと事務所に上がってきてくれ!』

高木『アッ!はい・・・』

いつも温厚な赤井店長だが、その表情からすでに笑顔は消えていた。

次回更新へ続く