LEVELグランドオープン

を前日に控えた夜、一旦自宅に戻り布団に入った。

設定をまだ決めていないからか?寝付きが悪く布団の中でゴロゴロする始末…。結局一睡も出来ず自宅を出る時間を迎えた。

身支度を済ませ、新しく買ったスーツとネクタイに身を包み、いざグランドオープンを迎えるLEVELに車を走らせる。

店に到着したのはお昼前…。

少し離れた駐車場に車を停め、店まで歩きながら、まだ決まっていない設定を考えてみた。

今日の設定どうしようかな?あの若い集団は徹夜で列んだのだろうか?12時間以上も列んで設定1を打たせるのも可哀相だし(笑)せめて設定4くらいは入れてやろうかな?でも、オール4以上にすれば確実に赤字になってしまうしなぁ…。

まぁちょっとだけ仕掛けをして、若い子達の様子を見てみるか?
これから常連さんになるかも知れないし…。

店までの道のりを、ボソボソとつぶやきながら歩いて行った。

お店に到着すると徹夜組の若者を含めた、開店待ちのお客が30人ほど列んでいる。

いま列んでいるお客達は、まさか自分が座る台の設定が、まだ決まっていないなんて思いもしないんだろな(笑)。徹夜で列んだお客の勝敗を俺が決めるのかぁ…。

ふふふ。そんな事を考えていると、ついニヤニヤしてしまった。

裏口から店に入ると、壊し屋社長と赤井店長が出迎えてくれた。

『おはようございます!』二人ともスーツに身を包み、小綺麗なかっこをしている…。

赤井店長はともかく、壊し屋社長は普段作業服にサンダル履きなのに、今日は普通の社長ぽく見える。

普段見慣れ無い姿に思わず笑ってしまいそうになったが、込み上げる笑いを堪えながら設定に取り掛かった。

スロット全台の扉を開け、先ずは本日オール6のジャグラーに設定を合わせていく…。

次にAT機のスーパービンゴに設定3.4.5を投入、設定3に5ゲームで当たる強制セットと、設定4に121ゲームまでに当たる仕込みを済ませた。

ここまでは単なる作業的な事…。

肝心なのはストック機やAT機など若い年齢層に人気の有る設定だ。

中途半端な調整をすればアッと言う間に美味しい部分だけを持って行かれてしまう。

おそらく今日列んでいる若い子達は、この辺りの設定6を狙って来るのだろう…。機種によっては設定6を入れると、ストックが無くなるまで、とめどなく連チャンしてしまうタイプも有る。

ストック機は休業期間中に打ち込み機を使いかなり回しているので、ストックは満たされている状況で設定6を投入し僅か数千円の投資で大量のコインを持って帰られては堪らない。

店長時代にキングパルサーを一週間設定3で営業し、その後設定6にしたら一撃で10000枚のコインを漏らしてしまった事があった(笑)。投資僅か1000円で常連では無い開店狙いの連中に、ねこそぎ持って行かれたのが悔しかったので同じ様な失敗はしたくない。

全部設定3で行くか…。

でも、それじゃ明日の集客がヤバすぎるよな(笑)やっぱり徹夜組にもチャンスは与えてあげたい♪

うーんどうしようか?

よし!決めた。赤井店長♪ちょっと手伝って下さい。

赤井店長【はい!は~い!やっぱり出す気になりましたかぁ(笑)】

ゆきち【あのですね…スーパービンゴ全部、設定2に下げて貰えます(笑)】

赤井店長【えっ!下げるんですか?】

ゆきち【そうです!下げるんです】

ゆきち【その代わりにコレを全部6にします♪】

赤井店長【こ、これを…ぜ、全部6ですか?】

ゆきち【そう!全部6!かなりインパクト有ると思いますよ】

ゆきち【他の台の設定落としますから赤字にはならないと思います♪】

LEVELの設置台数は110台の五島。
設置機種は…

◎ジャグラー22台【☆オール6☆】
●スーパービンゴ【★オール2★】
●猪木
●ドロンジョ
●キングパルサー
●かぜの用心棒
●ネオプラネット
●ゴールドX
●巨人の星
●カンフー列伝

などなど残り数機種…

ジャグラー22台のオール6に加え上記の内一機種全てがオール6…残りの台は全台設定2か3

換金率は6枚交換

天国か地獄のような設定を仕込み、開店10分前の入場を迎えた。

お客の列びは設置台数を若干下回る100人ほど…徹夜組のお客から順に入店してもらい台に着席して貰う。

ジャグラー22台のオール6と11台の某機種が全て6。

その某機種とは?

現時点で答を知っているのは赤井店長と設定師の自分だけ…。

某機種に座れるのは徹夜組の若い連中か?

それとも地元のお客さんか?

某月某日午後3時…。

定刻を迎えたLEVELは新たな一歩を踏み出した。

列んだ客は首を長くし、店内を覗きこんでいる…

店の奥まった場所に立ち、客の入場を見物する事にした。

店長時代にも何度か体験して来たグランドオープンだが、入場が始まる前の数分間は何とも言えない気持ちに包まれる…

胸の鼓動が聞こえて来るアノ感覚は、緊張とは違ったこれから何か始まる期待感から来るものなんだろう。

その感覚は徹夜で列んでいるお客も、きっと感じているに違いない。

打ち手と打たす側、その両者の胸の高鳴りが頂点を迎えた時、LEVELの入場が始まった。

勝つか?負けるか?みな、狙いの台へ…。

徹夜組の半分ほどが座った台はキングパルサーなどのストック機。残り数名は猪木・ドロンジョ・ゴールドXへ足速に駆けて行った。

続いて入場して来たお客達も我先にとストック機やAT機から順に座って行く、本日オール6のジャグラーはまだ半分ほど席が空いていた。

赤井店長【ジャグラー人気無いですね(汗)大丈夫かな?】

ゆきち【まぁ予想通りですよ(笑)】

ゆきち【それより例の台がちゃんと動いてくれるか心配です…】

開店を知らせる音楽と共に、みな一斉に打ち始めた。

開店初日の予定割り数は12割、赤字でも無く黒字でも無い完全利益0の調整…

本日の狙いは限られた予算の中で、インパクトの有る調整と客の心に残る設定を目指した。

スロット打ちなら誰でも設定6に座りたいだろう、しかし店もボランティアでやっている訳では無い!必ず利益を発生させなければ経営は成り立たないのだ。

ちまちま各台に設定6を散らすやり方も有ったが、そんなやり方ではインパクトに欠けるし、今後継続的に期待を持たせる事が出来無いと考えた。

ある程度までの売上が見込め、尚且つ設定6に座れたと確信出来る台、さらにその内の何台かは黒字にならなくては予算をオーバーしてしまう。

他の店ではやっていないLEVELだけのやり方を、クチコミで宣伝したかった。

そんな都合の良い台として開店初日に選んだ台は…

『アントニオ猪木と言う名のパチスロ機』

設定6のレギュラーボーナス後の『闘魂注入』に目を付けた。

本日は3時オープン。

設定6と悟られるまである程度の投資がかかる事と、プレーヤーのヒキにも出玉が左右される為、売上も上がり設定6を入れるのには好都合だった。

更にこの台の設定6はレギュラーボーナス中に熱いポイントが存在する。

『闘魂注入だぁ~!!』と高らかに響くボイスは強烈に設定6をアピールする一瞬でも有る、それは打ち手だけには留まらず両隣でプレーする人までも、その一瞬に注目する人が多かった…

今日は開店初日…。

夕方になればある程度の立見客も出来るだろう、そんな時にあちらこちらから『闘魂注入だぁ~!』と聞こえて来たらどうだろうか?

設定6の判別が決まったタイミングに有るので、見物客にも簡単に知らせる事が出来る。

レギュラーボーナスを引く度に
見ている客のテンションも上がらないだろうか?

『ぜ、全部6なのか?』

それを見た客は『誰かにこの事を伝えたい!』と思わ無いだろうか?

そうなる事を願い『猪木』をオール設定6にし、ボリュームも最大に設定した。(笑)

お店を繁盛させて行くには、お客に期待感を持って貰わなければならない、出す事は簡単だがそれを次の集客に繋げなくては意味が無い。

今後LEVELが欲する客は勝負をして来る客。

勝つか負けるかギリギリ限界の所まで、身銭を削って勝負をして来るプレーヤーが欲しかった。

その為には低投資で高設定が解りやすいストック機より、高設定でもヒキ次第で勝敗が左右されやすいAT機に客を付けたかった。

そして開店から暫くして…

一人のお客がレギュラーボーナスを引き当てた。

両隣のプレーヤはもちろんAT機に座れなかった客までもが、その熱い一瞬に目を注ぐ…。

そして…

『闘魂注入だぁ~!!』

高らかに響くそのボイスを合図に、猪木の島は想定外の方向へ動き始める…

開店して暫くはチラホラ有った空台も、オープンから一時間を過ぎた辺りには満席、このまま行けば予定通りと思われたのだが…本日オール設定6の猪木の様子がおかしい(汗)

まだ開店から1時間ほどしか経過していないのに、半分以上の台がATに突入している。

赤井店長『さすが全台6ですね!凄い勢いじゃ無いですか♪』

ゆきち『ハハハ(笑)ちょっとヤバイですねコレ(苦笑)』

ゆきち『まだ売上げ殆ど上がってないし…(滝汗)』

ゆきち『凄く嫌な予感がするんですけど…』

赤井店長『まぁ初日だから良いじゃないですか♪』

設定6でも出ない事の多かった猪木だが、今日この日に限って抜群の立ち上がり…。

一度動き始めたらもう止められないからどうしようも無いが…。

赤井店長『ジャグラーも良い感じですね~♪』

ゆきち『そ、そうですね・・・・・・。』

店長時代と全く同じ事をやっているにも関わらず、とめどなく不安な気持ちが込み上げて来る。

これがフリーと雇われの違いなのだろうか?今まで経験した事の無いプレッシャーに襲われ、赤井店長の声も次第に遠いて行った。

出過ぎてしまったらどうしよう?来週からの計画が台無しになってしまう…。

先の事ばかり考えると不安で押し潰されそうになる。

頭に浮かんで来るのは『解雇・クビ・解雇・・・』の二文字ばかり。

ゆきち『あ、赤井店長ちょっと出かけてきます!何か有ったら連絡下さい。』

赤井店長『アッ!はい…。だ、大丈夫ですか?ゆきちさん顔色悪いですよ。』

ゆきち『あぁ。だいじょうぶですよ…』

あまり物事深く考えない楽観主義な性格だが、想定外に払い出されるメダルを見ていると、先の不安が増し具合が悪くなってしまった。

店を出て近所をうろうろしていると、中馬さんから電話がかかって来た。

中馬さん【おぉゆきち!!今日オープンやったやろ?どないや・・・】

ゆきち【う~ん(汗)ちょっと漏らすかも知れません(笑)】

中馬さん【なんや元気ないのぅ(笑)グランドオープンやのにシッカリせんかい!!】

ゆきち【はぁ~】

中馬さん【漏れたら取り返したらええやんけ!!】

中馬さん【釘と違って締めても目には見えんのやから!!(笑)】

中馬さん【ええか!よう聞けよ!前にも話したやろ…】

中馬さん【お前は言い訳をすぐに考えようとする!!人のせいにしたがるんや。】

ゆきち【はぁ~・・・】

中馬さん【でも今それが出来んから困ってるんやろ?】

中馬さん【今日まで絵を描いて来たのも自分や!漏らす切欠を作ったのも自分!】

中馬さん【全部自分で決めて来た事や!この先言い訳はできんねや!】

中馬さん【南部さんが昔お前に言うてくれた言葉忘れたか?】

中馬さん【店に必要な金入れたら、後は客の事だけ考えたらええ!!】

中馬さん【オーナーは机の上で銭勘定しとけ!!って話が有ったやろ(笑)】

ゆきち【アッ!はい・・・】

中馬さん【今月なんぼ入金やねん?】

ゆきち【1500万です!】

中馬さん【今日100万赤出したら、月末までに1600入金したらええだけや!】

中馬さん【社長には全部予定通りです。言うときゃええねん!】

中馬さん【出し方まで指図されとったらワシらがおる意味ないやんけ?】

ゆきち【そ、そうでしたね(笑)】

中馬さん【あそこの社長はとにかく、持ち出しを(赤字)嫌うからな…】

中馬さん【ガタガタ言うて来たら設定キー投げつけて『じゃぁお前がやれ!!』言うくらいの気構えでおったらええんや(笑)】

中馬さん【でもホンマに投げたらあかんでぇ~(笑)】

ゆきち【な、投げませんよ(笑)】

中馬さん【がはは!まぁ後で師匠と店覗きに行ったるからショボイ顔しとったらアカンぞ!】

中馬さん【ええな!心配事ばっかり見つけるな…】

ゆきち【はい!わかりました!】

中馬さん【よっしゃ!】

頼りになる兄貴のような存在の中馬さん、この人の言葉に助けられた。

今日の全台6も明日の設定も、

これから自分が進むべき道も、

全部自分で決めて行かなくはならない。

明日も設定師でいれる保証は何も無い!

だからこそ、今出来る事を精一杯やっておかなくては…。

そう考えると足は自然と店へ向いていた。

店に戻ると店内は大盛況…

猪木の島は設定6を確信したプレイヤーが高速消化に血眼になっている(笑)ジャグラーも空き台は無く全台稼動しているようだ。

他機種は全台低設定。

設定判別のしやすい台にチラホラと空き台は有るが、AT機に座れない客がちょこちょこ打っては辞めていく状態…。

低設定が頑張って回収してくれているようだ。

メダルの補給作業を手伝っていた赤井店長に声をかけ、現在の割り数を恐る恐る聞いてみた。

ゆきち『お疲れ様です。割りどうですか?』

赤井店長『全体は15割をちょと越えた所ですよ』

赤井店長『猪木は30割超えてましたけどね(笑)ジャグラーは16割でした。』

ゆきち『う、売上げは?』

赤井店長『さっき見たら220万ほどでしたね…』

オープンして5時間ほどで55万円ほどの赤字、23時まで残り3時間営業すれば恐らく赤字は80万円を少し越えた辺りになる。

どうする…

9時で閉店するか?それとも…。

猪木の島には見物客が大勢…。

午後8時の時点で客足も途切れていなかったので、宣伝を兼ね23時まで営業する事を決断した。

時間の経過と共に赤字額は増え80万円の赤字に達した時、閉店時間を迎えた。

猪木の島は全台6と判ってくれただろうか?

当時は設定発表や確認OKの店が多かったが、あえて設定の公開はしなかった。

メール会員に6が沢山あるとヒントを与えただけだったが…。

店の前でたむろしている連中の話しにそっと耳を傾けて見ると、どうやら猪木の高設定ぶりは伝わっているようだ。

だが残念ながら猪木全台6とは判っていないよう、ドロンジョの何番台が6かも?などなど検討違いの話しで盛り上がっていた。

これではまだ客の心は掴めていない!

この店の設定師は狂ってる!と客に言われるくらいにならなくては…この店の立て直しは厳しい。

よし!じゃあ明日の設定は…。

次回更新へつづく