LEVELの立て直し計画も順調に進み中盤に差し掛かかった頃、次の計画を立てようと壊し屋社長に伺いを立てた。

そこで要求されたのは2500万の粗利確保…。

110台のスロットで2500万の粗利を目指した場合一日辺り約83万円、一台辺り粗利は7500円確保しなければならない計算になる。

数字だけ見れば達成出来そうな数字に見えるが、ここに利益率を加味して考えなければならない。

通常スロットの適正利益率は売上げの10%~14%の範囲、設置台数により違いはあるが、LEVELの立地やその他ライバル店の動向など考慮しても12%以上利益を取ると客離れが始まる。

実際その利益率を越える調整を行った結果、LEVELは以前に客を大量に失ってしまった。

目標を落とさずにそうならない為には『売上げを上げる!』これ以外に方法は無く、2500万の粗利を利益率12%で達成するには一日約680万円、一台辺り62500円の売上げが(台売)必要になってくる。

LEVELの現状は台売40000円利益率9%…。

この台売と利益率を段階的に上げて行き、台売45000円利益率12%、粗利1800万取れる状態にするのが設定師ゆきちの目標であり計画だった。

しかし、計画は3ヶ月だけのもの…。

壊し屋社長は目標達成以降の四ヶ月目は2500万入金してくれと言って来た。

最初は2000万もあれば十分と言っていた筈なのに。

天井知らずとはこう言う事を言うのだろう…。
2000万ならやれない事は無いが、2500万となればそうは簡単に行かない。

利益の薄いジャグラーを主力機種として扱い、AT機やストック機で足り無い利益を補っているが、3ヶ月後には陰りが見え始めて来るだろう。

その状態で2500万も抜けば、また昔のレベルに後戻りしてしまうだけ。

売上げを上げるならビンゴ・ゴールドX辺りを増台しようか?

いゃいゃ、まてまて、それでコケた店は沢山見て来た…。

うーん、困った…。

新たに課せられるであろう2500万の稼ぎ方でいっぱいになり頭はショート寸前…。

考えても、考えても結論は出ず、ただ時間だけが過ぎて行った。

そんなある日、一つの答えが出る…。

『設定師はオーナーから言われた金額を稼ぐ!』

この言葉がずっと頭に引っかかり前に進めずにいたが、よく考えたら社長の言った事は間違ってはいない、そもそも設定師はそれが仕事だし…。

その時社長に腹が立ったのは、ゆきちが思い描く理想の店作りに横槍が入ったのが原因と考える様になっていた。

俺は経営者じゃないし、それをやり遂げる資金力も無い!

社長の理想をかなえれば、当然自分の理想は叶わない…。経営者が思い描く事、それを形に導くのが設定師の仕事だとすると、数ヶ月前に勤めていたパチ屋勤務時代と殆ど変わらない…。

ただ一つ違う事と言えば、

設定師は依頼された仕事を断る事が出来ると言う所。

今回は4ヶ月目以降2500万稼いでくれないか?と社長から依頼を受けた、これに自分が答える事ができるかどうか?と言うだけで、無理だと思うなら断れば良い!

無理だと断って他の設定師に依頼しても、結果が出なければ自分が断った理由と意味をその時考えるだろうし、その逆に結果が出れば俺の力が足りなかっただけの事。

そうやって自分の力が試せる所がプロの世界なんだから、結果が出なければ解雇され悪口、酷評を言われるのは当たり前、設定師も機械調整のプロだから環境は似たようなもんだ…。

それでどうする…。

今回の仕事やるのか?やらないか?

よし!面白い受けてやる!

粗利確保に翻弄され、客の立場も考える事が出来ない設定を叩くようなら仕事は断る!!それを肝に命じ依頼の有った2500万確保の準備に取り掛かった。

しかし、アベレージ2500万の目標はエベレストの様に高く、現在進行中の立て直し計画が成功したとしても2000万確保が限界…、三ヶ月計画全体の見直しを迫られていた。

もっと売上を上げなくては…。

そんな悩みを打ち消すかの様に、北斗の拳は好調をキーブ、導入して二週間以上経過しても連日フル稼動し利益も順調に上がっていた。

《北斗導入二週目設定》

1.3.1.5.1.3.1.5.1.3.1

かなり辛めに調整をしていたが、設定1でもフル稼動すれば大当り回数も上がり、時には5000枚程の差玉が出る事も有って、露骨に回収がバレてしまう様な事は無かった。

さらに現場に近い赤井店長からも、北斗はお客の評判が良いと報告を受け、後はどのタイミングで増台するかを考えるだけなのだが、いまいち一歩が踏み出せずにいた。

赤井店長『常連さん北斗は面白いって言ってますよ~♪』

ゆきち『設定かなり辛めにしてるんですけどね、何か言ってません?』

赤井店長『うーん…。特に文句や愚痴は出てないですけど』

赤井店長『朝から、すぐに満席になるから、もっと台数が有ったら良いと思いますけどね~♪』

ゆきち『うーん。やっぱり増台ですよね…』

トップ週導入だから賑わっているだけなのかも知れない…。

好調がこの先も長く続くのだろうか…?もう少し様子を見てから増台を検討した方が良いのでは?

考えれば考えるほど尻込みしてしまう…。

しかし2500万の粗利を支える事の出来そうな機械はこの北斗の拳以外に思い付かない…。

さらに追い打ちをかけるように、続々と追加注文が入っていると林田くんから報告を受け、早くしないと納期が三ヶ月以上遅れると決断を迫られていた。

もうやるしか無いやろ?

よし!ここは救世主伝説に望みを託し思い切って勝負!!

ゆきち『よし!北斗増台しましょう!』

赤井店長『絶対増台ですよ~♪』

赤井店長『あと11台有ればワンボックスになって見栄えも良いですからね♪』

ゆきち『いや!4倍の2ボックス計44台にします!』

赤井店長『えっ!よ、4倍ですか…』

ゆきち『そう!4倍です!』

人気機種になってからでは手遅れになる…、資金力の強い店が大量導入するので機械がこちらまで回って来ない。

そうなるとLevelの様な弱小店はまるで手が出せない…。

ミリオンゴッドの時もそうだった…、先に勝負に出た方が絶対有利!

よーし。絶対に2500万達成したる!

すぐに林田くんへ北斗の拳増台の手配をする連絡をしたが、納期は一ヶ月以上遅れるとの事…、人気機種になる事は間違いなさそうだった。

後は2ボックス導入した時、勢いを落とさない様に仕掛け(集客イベント)を考えるだけ。

導入までの一ヶ月、予定を変更してLEVELは回収状態に入った。

リスクは有ったが新台入替以降にイベントを打つ資金を確保しておきたかったので、主力機種のジャグラーも含めた全てを対象に回収体制に入る。

土曜日、日曜日に稼働率の高い機種、北斗やゴールドXビンゴは軒並み設定1。

主力機種のジャグラーは平日の高設定を数台間引きして設定1を投入、土曜日、日曜日は平均設定を2段階以上落として回収状態で営業する事にした。

《ジャグラー平日設定》
1.5.1.1.5.5.5.5.1.1.5

5.1.5.1.5.1.5.1.5.5.1

《ジャグラー休日設定》

3.2.3.2.3.2.3.2.3.2.3

3.2.3.2.3.2.3.2.3.2.3

なるべく目立た無い様に回収して行ったが、設定を下げれば大当り回数が減る、そうなれば現金でプレーする時間が増えるので徐々に稼働率が落ちて行く。

稼働率が落ちれば設定を開け返し勢いを取り戻した所でまた回収…。

本来は客との駆け引きを上手く成立させながら利益を確保して行くのだが、客側に求める負担が大きく、徐々に客が減り始めていた。

落ちて行く稼動データを見つめると胃が痛む…。

立て直し計画を失敗させてしまった時の不安に、時折押し潰されそうなるが、稼動がまるで落ちない北斗の拳に癒され新台入替の日を胃薬を服用しながら、ただひたすら待った。

そして、ようやく北斗の拳導入を明後日に控えた夜がやって来る。

土曜日の深夜…。

明日は回収出来る最後の日曜日。

赤井店長『いゃ~かなり稼動が落ちましたよね(汗)』

ゆきち『そうですね…、スイマセン』

赤井店長『でもジャグラーのお客さんと北斗はそんなに落ちて無いから安心しましたよ。』

ゆきち『ええ、LEVELの常連さんに本当に助けられました。』

ゆきち『感謝しないと罰があたりますね(笑)』

ゆきち『明後日は待ちに待った新台入れ替えだし…』

ゆきち『今までの感謝を込めて、常連さんにドーンと還元しますか(笑)』

赤井店長『えー♪本当ですか♪』

ゆきち『良いですよ♪思い切り出しますよ♪』

赤井店長『じゃあ♪メール入れますね』

ゆきち『いゃ!メールは無しにしましょう♪』

赤井店長『えっ!な、なんでですか?』

ゆきち『これだけ回収しても明日来てくれる常連さん…』

ゆきち『この人達が一番大切にするべきお客さんでしょ?』

赤井店長『そ、そうですね…』

店の信用は決してメールや言葉で作れるものじゃ無い、出すと言って玉やメダルを出しても繋がりはしないのだから…。

そう言っていた南部さんの言葉が、いつまでも忘れられずにいた。

ゆきち『よし!明日は出す!』

LEVEL新台入替前日設定

●ジャグラー

5.5.6.5.5.6.5.5.6.5.5

6.6.5.6.6.5.6.6.5.6.6

●北斗の拳
6.6.6.6.6.6.6.6.6.6.6

撤去台設定

●猪木
1.1.1.1.1.1.1.1.1.1.1

●ドロンジョ
1.1.1.1.1.1.1.1.1.1.1

残りの撤去予定の機種は全て設定1…。

今後、LEVELの主力機械としたい北斗、ジャグラーに限界設定を投入した。

約一ヶ月に渡り回収を続けて来たが、明日も来店してくれるお客はLEVELが本当に大切にしなければならないお客さん…。

なので敢えてメールは打たなかった。

メールを打てば勝ちに貪欲なお客を呼び出すだけの事、そんな連中にメダルを出しても何の役にも立たない…。

設定を済ませ店を出たのは日付が変わった深夜。

自宅に帰る車中で設定師、釘師の存在とは何か?

その意味と存在理由がなんとなく分かり始めていた…。

次回更新へ続く