前回#3-A

都道を少し逸れた先、大切なものが隠されているように、まわりを背の高い木々で囲った郊外の小さな喫茶店

喫茶店のまわりに引かれた、ままごとのような水路、古く色あせたブロック塀でつくられた小さな小川

そのつくり物の小川の中で、鮮やかな赤い色をした金魚がゆらりゆらりと漂う姿は、まるでそこにたゆたう子供のひとだまが、ときを忘れて遊んでいるようだった

時刻は夜の八時過ぎ

煙草の先から立ちのぼる白い吐息のような煙は、風に揺れる絹のようにゆるやかな曲線を描きながら、ブリキのランプを模した照明の赤茶色をした笠の中にゆっくりと吸い込まれてゆく

橙色の淡い光を少しだけ反射させた珈琲碗を片手に、僕と安田さんは食後の余韻を楽しんでいる

この月に一度恒例となった食事会では、パチンコのことに限らず、生活のことなど、互いに疑問に感じたことや、気にかかったことをテーマに、色々なことが語られていた

打ち子が流行る前からもノリ打ち(参加した全員の収支を集め均等に分配する打ち方)があり、それまでも似たようなものが何度も議題にのぼっていた

「ノリ打ち自体、平等はありえない。手にする金銭は一緒でも、誰かが損を被って、だれかが能力以上の利を手にする。確率だけの問題であれば時間とともに損得も似通ったものになるだろうが、パチンコは少なからず腕が影響する部分があるからね。補われるほうは気にしないかもしれないが、補うほうはなにか消化できぬものが蓄積していくと思うよ」

もし手にした金銭の注ぎこむ先が一緒であってもやはり難しいでしょうか

「ぽちくんの言う彼らが、同じ目的地を目指すための共同の貯蓄が存在するのかもしれないけれど、蓄えにまわす分以外にも現在の生活費の分配はあるだろうし、行き着く先はそれなりに時間の掛かるものだからね、お金が絡んでる以上、一筋縄ではいかないだろうな」

もし、そこに僕が思う以上の信頼関係があっ…

「うん、もし仮に、それをも凌駕する信頼関係がその三人ないしグループ全員にあったとしても、その二人に連れ添いがいる以上、やはり現実的に難しいだろうね」

「ただ、本当にそのような関係がありえるのであれば、冷やかしでもなく、部外者の立場ではあるけれど僕自身心底嬉しく思うよ」

#4-Aにつづく