会によって金額は違うが、一人5千円~1万円の会費(名目上は電話の使用権)がかかる
一つのケツ持ちに、いくつものグループが存在するのは、人数が多ければ多いほど会費としての収入があるため、Aグループの持つ開店情報を、同じケツ持ちであっても、Bグループの人間が共有できない仕組みになっていた
なので、同じケツ持ちであっても、ライバル同士である
互いのバックボーンが同じであるために表立って対立することはできない
だから、同じ開店で競り合う相手は、違う傘下にいる人間よりも、むしろ同傘下のチームの方が面倒であったりした
だが、互いにガツガツしていなければ、戦友のような意識も生まれる
とある開店で白谷さんと、笑いながら並んでいると、
「お~白谷~」
と、海物語のサムが、そのまま画面から飛び出てきたような、砂浜の似合うイケメンのお兄さんがあらわる
『羽島さん』である
細身に見えるが、シャツの中身はアスリートのように引き締まった筋肉で、初夏の陽射しの良く似合う小麦色の肌、微かに茶に染めた長めの髪の間から、ごついシルバーのピアスが光っている
チームの中核は地元の仲間、みなシャレていて、ちょっと怖くて、休みの日などにはチームの誰かしらかと海へ行ってサーフィンを楽しむようなイケてるグループだ
同じケツ持ちではあるが、羽島さんはそのケツ持ちの方の直の後輩にあたり、開店廻りも、先輩の話からお金の匂いがしたから遊び半分やってみた、というような理由からか、他のチームに比べてどこか余裕のある、開店屋さんの中では少し異色のグループであった
「お~、おまえがドギー(ポチ)か~」
「う、うっす、そっす、よろしくお願いしますっ」
気さくな感じで話しかけてくれる
当時、ポチは愛犬の栄養食ビタワンの柄がでかでかとプリントされたとても残念なTシャツを好んで着ていたため、皆さんその印象が強いらしく、そのビタワンから、同じペットフードのドギーマン、そしてドギー、と開店屋さんから、そのような愛称で呼ばれていたのだ
ポチは、この人かっけーなーと思いながら、白谷さんのうしろに半分身を隠し、キラキラした目で二人のやりとりを聞いている
「白谷のところは今日何打つの」
「ファイナルゾーン打つわ、ここのは中身がいい」
「あ~、まだ中身とか言ってんのか、パチンコは回んなきゃだめだ回んなきゃ」
「おう、そりゃそうだ。当然回りが優先だが、中身のあるやつ選ばねーと羽島もそのうち痛い目あうぞ」
ちょっと際どいやりとりにも聞こ聞えるが、二人とも楽しそうに笑っている
兄弟のように育った血統書付きの犬が、互いに甘噛みしながらじゃれあっているような雰囲気がそこにある
「ふーん、白谷のとこはファイナルゾーンか。んじゃ、おれんとこはコンビでも打とうかな」
「ポチは何打つの」
「あ、いや、ジブンは皆さんのお邪魔になんないよう適当なセブン機でも打ってるっすっ」
「あ~、そんなん言ってたら儲かんねーぞ、ひーふーみー…」
羽島さんは反射する光を遮るように、おでこと店のガラスとの間に水平にした手を挟み、台数を確認している
「ん、人数分の台数はあるな、よし、ポチも俺らとコンビ打っとけ」
焦って、ぶんぶんと頭を振るポチ
「いやいやいやいや、とんでもないっす。他の会の方が来られるかもしれないですし、自分のような会にも入ってない人間が打っちゃまずいっす、僕ごときはセブン機で十分っす」
「んじゃー、なに打つんだよ」
「え、あ、いや、、、せ、セブンショック?」
「マジかよ!?」「マジかよ!?」
聞いていた白谷さんも、羽島さんと一緒になって、声を出して笑っている
「あ~、おかしい、おまえおもしろいやつだな。今度一緒に麻雀でもしようぜ」
「え、あ、うす、あざっす」
「ま~、そうやって皆の邪魔にならないよう心がけるのもいいけど、いい加減、素直に会に入って稼いでおいたほうがいいぞ、あんま白谷を困らせるなよ」
こ、困らせる?
「おーい、羽島~」
羽島さんのお仲間さんの声が届く
「んじゃ、またあとでな」
「う、うす」
ぼけっとしているポチを見て、少し困ったような笑顔を残し、仲間のいる列へと戻ってゆく
そうして最初のうちは、ビビッてセブン機などを打っていたが、裏では、地元の開店で高日当の台を狙い、そして徐々に、白谷さんや羽島さんを見かけない開店、そして境界線が曖昧な場所にある店などで、期待値の高い台に手を出すようになっていった