自分の調整技術の無さでお客を飛ばしてしまった羽根モノコーナー。

それを見かねた釘師南部さんが救いの手を差し伸べてくれ1週間が過ぎ去ろうとしていた。

南部さん 『あれから1週間や。釘を触らず上が22割、そして今日は15割…。』

南部さん 『釘を触らんでもこれだけ上下の割の違いが出る事は分かったな?』

ゆきち  『は、はい…。』

南部さん 『さて問題はここからや!シメるか?アケるか?』

南部さん 『それともそのままか?お前はどうする』

ゆきち  『えーと。』

南部さんはそう言うと、この6日間の釘帳を見つめ私の返事を待っていた。

正直な所、どうしていいか全くわからない…。

静まり返ったホールに沈黙の時が流れる。

南部さん 『まぁ(笑)分からんか…』

ゆきち  『す、すみません!わかりません!』

南部さん 『それなら分るまで釘は触るな!』

そう言うと少し強めの口調で南部さんは話し始めた。

南部さん 『釘調整だけで全てコントロールできると思ったらアカン!』

南部さん 『特にアナログ系の機種は釘以外の事で出玉が左右されることが多いんや!』

南部さん 『それは打ち手であったり、その日の環境であったり…。』

ゆきち  『環境ですか…。』

南部さん 『そや!ワシが1週間前にお前に話した事覚えとるか?』

ゆきち  『レールやカセットが汚れていると釘を開けやすい…』

ゆきち  『後は、ポリは交換するな…って』

ゆきち  『あっ!』

南部さん 『思い出したか?』

ゆきち  『はい!はい!ハッキリ覚えています。』

南部さん 『じゃあ釘はどうするんや?アケか?シメか?そのままか…』

ゆきち  『そ、それは…(汗)そ、そのままですかね?』

南部さん 『ワシに答えを求めるな!』

南部さん 『とにかく、答えが出せるまで釘は一切さわるな、ポリも交換するな!』

そう言うと南部さんは1週間連続で高稼働を続けていた数台の扉を開けてフロックと寄りへ導く誘導釘をほんの少しだけシメこう言った。

南部さん 『いま釘をシメたのは、売上を上げる為や、上手い奴が打てばまだ出る!』

南部さん 『心配せんでも明日から羽根モノは赤字にはならん。』

ゆきち  『は、はぁ…。』

南部さん 『ほな、ワシは次あるから行くで!』

ゆきち  『お、お疲れさまでした。』
明けて翌日以降、南部さんの言った通り赤字になる日は1日も無かった…。

それどころか利益は日増しに増え、自分が釘を叩く前の稼働状況に戻ってしまう。

羽根モノは頻繁に釘を触らなくて良いのか?

なんで釘を触っていないのに日増しに利益が増えて行くのか?

南部さんは釘以外の外部要因でも出玉が左右されると言っていたが…

自問自答を繰り返していると一つの答えがでた。

それまでポリ交換のタイミングや、レール、カセットの汚れを考慮せずに自分は釘を叩いていた。

汚れがひどくなると狙った所に玉が飛びにくくなるという事は、ポリを交換して玉を綺麗にしてやれば狙った所に玉が飛びやすくなる、イコール羽根への拾いや入賞率に影響してくるのだから、ポリ交換する直前のタイミングで釘を開けると想定以上に玉が出てしまうという事か?

慌てて羽根モノの釘を叩き始めた日の台帳と、メンテナンス状況の記録を照らし合わせてみると、今まで見えていなかった事が次第に見えてきた。

玉が思うように出ないから釘を開けた日にポリ交換が実行されていた、しかも翌日、想定以上に玉が出てしまって慌てて釘をシメている…。

それでも赤字になるので寄りや誘導釘までグチャグチャにしてしまい、あとは稼働激減まで釘を触り続け迷走状態に陥りお客を飛ばしてしまった。

と、いう事はポリを交換した翌日に釘を調整するのがベストなタイミングではないだろうか?

この考えが正しければ、釘を開けなくても必ず明日は割が上がるはず! そう思い、釘は叩かず南部さんに止められていたポリ交換を実行してみる事にした。

島の中央にある研磨機を覗き込むと10日以上も交換していないポリは、通常白く透明なものが真っ黒に汚れている。

南部さんにメンテナンスの報告とポリ交換した理由を釘帳に記録しお店を後にした。

翌日、結果は赤字にはならなかったものの13.5割のアウト35000、前日が12.6割のアウト33000…。

自分が考えていたほどの大きな差は出なかったが、それはその日の状況によるものなのか?釘帳を眺めながら自問自答を繰り返していると南部さんが現れた。

南部さん 『ようやく答えがでたようやの(笑)』

ゆきち  『調整する前にやるべき事がある!という事ですよね?』

南部さん 『そうやな…お前は釘とデーターしか見とらんからな』

南部さん 『まぁ最近の台はそれで良いのかもしれんが、アナログ機はそれだけではアカンのや』

南部さん 『この台に座ってくる客のレベル、島や台の状態も考えて叩かんとな…』

ゆきち  『これでカセットやレールも綺麗にすれば、正しい数値になるって言う事ですよね?』

南部さん 『そやな!まぁそこから先はお前の好きにしたら良いのとちゃうか(笑)』

ゆきち  『ありがとうございます!』

南部さん 『もう後はお前だけでも出来るはずや』

ゆきち  『えっ!そんな(笑)まだまだ色々と教えて下さい!お願いします!』

南部さん 『…』

今まで見えていなかった部分を知る事により、翌日以降から羽根モノの調整が楽しくて仕方なかった、南部さんの様に上手く調整できない部分は有ったものの、プロや常連客に悟られない様に釘をアケシメする…。

お客はガラス越しに自分が叩いた釘を見極め優秀台、開放台に座ろうとする。

それは長年憧れ続けたガラスの向こう側の世界…

理想とした場所にたどり着いた瞬間であった。

が、しかし…。

ようやくたどり着いた理想の場所を破壊する大きな力が、この時すでに動き始めている事を私は知らなかった。

次回更新へ続く