羽根モノの釘を叩くようになり調整に力を入れるも思いは届かず空回り、大きな赤字と僅かな黒字を繰り返し場しのぎ的な調整を繰り返した結果、稼働は激減し危機的状況に陥る。。

自分の調整技術のなさを思い知らされ打ちのめされそうな時、釘師南部さんが救いの手を差し伸べてくれた。

稼働を激減させてしまった責任は自分が調整した事が原因だが、その事についての咎めは一切なかった。

南部さん 『しかし、まぁ(笑)あちこち触りまくっとるの…』

南部さん 『こりゃ大仕事や(笑)』

ゆきち  『すみません!』

南部さん 『まぁええ!これだけ釘をグチャグチャにするのは調整が好きな証拠や(笑)』

ゆきち  『は、はぁ…ありがとうございます。』

南部さん 『ワシが元通りにするから、お前はレールとカセットの汚れを綺麗にしとけ』

ゆきち  『はい!わかりました。』

南部さん 『それが終わって、ワシが釘を元に戻して時期がきたら基本的な事を教えたる。』

ゆきち  『じ、時期ですか?』

南部さん 『そのかわりピカピカの新台みたいに綺麗に清掃しろよ!』

ゆきち  『はい!わかりました。』

そう言うと南部さんは黙々と自身の手帳を眺めながら釘調整を開始した…。

私は南部さんに言われたレールとカセットの掃除をするべく調整が終わった台から清掃を始める事に。

レールとはカセットから送られた玉を盤面に打ち上げるまでのレール部分を呼ぶ。

カセットとは上皿から送り込まれた玉を発射台やレールに送る装置で、これに汚れが溜まると玉つきの原因や玉飛びが悪くなる、客からの指摘があれば清掃して直すことが多かったが、月に1度アルバイトに清掃をさせるくらいで、私自身が時間をかけて清掃するのは久しぶりの事だった。

ゆきち  『レールもカセットもめちゃくちゃ汚れてますね…これ』

ゆきち  『バイト怒ったらなアカンな(怒)』

南部さん 『汚れてる方が釘は簡単なんや(笑)釘を開けやすいからな』

ゆきち  『えっ!そうなんですか?逆じゃないんですか?』

南部さん 『そこが汚れていると狙った所に玉がとばんのや…』

南部さん 『まぁピカピカに清掃されたら玉が出るから困るんやけどな』

ゆきち  『その為に釘帳にメンテナンスの記録やトラブルの報告も記録しているんですね。』

南部さん 『その通りや、釘だけ触ってパチンコ玉操れる思ったら大間違いやで』

南部さん 『あと玉に刻印の有る無しもな(笑)この店は有るか無いか知ってるか?』

ゆきち  『あります!あります!刻印あります!それは流石に知ってますよ(笑)』

南部さん 『刻印の有る玉の方が調整は難しいんや。ちょっとの違いやけどな…』

ゆきち  『そ、そうなんですね…』

南部さん 『一番違いが出るのは島の研磨システムや、最近は新型も沢山でてきてるから』

ゆきち  『し、島でそんなに違いが出ますか?』

南部さん 『そりゃ違うで、最近流行りの玉すくいのカップが有るか無いかでも違うな』

ゆきち  『この店はカップ置かないですよね?』

ゆきち  『置いてほしいと幹部会でお願いしても、頑なのに却下されるのは理由があるんですか?』

南部さん 『ワシが社長に置いたらアカン言うてるからや(笑)』

ゆきち  『えぇぇぇーそ、そうだったんですか!』

南部さん 『特に羽根モノやアナログ機は大きく差がでるからな…』

南部さん 『使っても構わんのやけど、まぁこれから教えたるわ』

ゆきち  『あ、ありがとうございます!』

南部さん 『しかし、最近の若いのは釘を触りたがらんけどお前は珍しいやつやな(笑)』

ゆきち  『そ、そうですか?僕はだって南部さんみたいな仕事がしたくてこの世界に入りましたから♪』

南部さん 『そうか、お前はパチンコが好きなんやな……』

ゆきち  『はい!大好きです♪』

ゆきち  『昔から釘を見るのが好きで、特に一発台とかオマケアタッカーが有った時代の釘は芸術だと思ってますから♪』

南部さん 『手が止まっとるぞ!(笑)』

話に夢中になり清掃中の手が止まる中も南部さんは黙々と釘を叩きながら話をしてくれた、その内容は録音してずっと聞いていたいほど自分にとって価値のあるもので、20年近くたった今も当時の記憶は色褪せる事無く残っている。

釘調整が終わると南部さんは島の中央にある研磨機の中を覗き込み、カセットの清掃をしている私にこう言って来た。『今日新しいポリに交換したら、ワシがOK出すまで交換するなよ』と、ポリとは、客が打ち出した玉を島の上部に上げる際、玉を磨く研磨剤の事だ。

当時は3日に1度ペースでポリの交換作業をしていたがその作業をしない様に指示された。

更に南部さんは明日から羽根モノの島の予定割数をこう言った『暫く16割~18割前後をウロウロすると思う、少し漏らして赤字になるかも知れんが釘は一切触らない様に!ワシも今日と同じ時間に来るまで釘は触らんから…』と、そう伝えると次の店へと向かっていった。

私は南部さんから指示の有った通り、各台の清掃を済ませたあとポリを新しい物に入れ替え、その日は時間も遅かったので店舗2階にある社宅で眠りについた。

稼働を落としてしまった羽根モノコーナーに釘師南部さんが戻ってきてくれたが、その調整者が変わったことを知るのは私以外いない…。

翌日、当然ながら羽根モノコーナーは開店からの客は少なく、南部さんがせっかく釘をやってくれたが常連客を飛ばしてしまった自分の責任の重さを痛感した。

しかし、翌日からその状況が次第に変わり始める。

※以下当時の日記より抜粋

1日目、
稼働は相変わらず低迷。
自分が釘を叩いていた頃とは違う常連客の粘りを感じた。
南部さんが釘をな直してくれたからだろうな…。
やはり俺の釘はつまらないのだろうか?
相変わらず稼働売り上げ共に低く赤字…。
この日の割数22.6割アウト9000

2日目、
プロらしい人物が一人で複数台を終了させていた…。
それに釣られ?常連客が羽根モノコーナーに座り始める。
稼働は上がり始めるが赤字は変わらず2日連続の赤字継続。
この日の割数19.2割アウト14000

3日目、
他店に流れていた常連客が開店から顔を見せた。
稼働も回復し始めるが3日連続の赤字。
南部さんは釘をやはり開けたのかな?
この日の割数19.8割アウト21000

4日目、
常連の年配層が朝から羽根モノコーナーへ復活。
常連プロも開店から顔を見せいつもの光景が戻り始める
赤字は4日連続。
やはり釘は甘くしてくれたんだろうな…。
全部自分のせいだ…。
この日の割数18.5割アウト29000

5日目、
南部さんの指示通り羽根モノの釘は触らず据え置き。
月末が近く羽根モノの赤字分を補う為、週末営業の締めに加え追加で設定付のCR権利物を通常の2から3へ変更。
申し訳ないが一番取りやすい所から取るしかないよな…。
羽根モノは自分が釘を叩く前の稼働に戻ってきたが赤字は継続つらい。
この日の割数17.5割アウト36000

6日目、
昨日設定を1段階落としたCR権利物が狂ったように売り上げをあげてくれた。
やりすぎなほど利益を取りすぎたためスタートを開け。
設定はそのままの3。※月曜に戻すことを忘れない様に!!
その他は全て据え置き、羽根モノコーナーは今日も昨日同様に赤字?
かと思われたが僅かに利益が出て黒字。
南部さん釘触ったのかな?
この日の割数15.7割アウト32000

南部さんから指示がでて以降、羽根モノコーナーの釘は触らずポリ交換もせずに1週間が過ぎようとしていた、月末最後の週末だった事もあり他の台は回収調整にしていたので翌日の平常営業の釘に戻す調整をしていると南部さんが現れた。

ゆきち  『おつかれさまです!』

南部さん 『おつかれさん』

ゆきち  『羽根モノの稼働は元に戻り、常連さんも帰ってきてくれました♪』

南部さん 『そうか。釘は触らずポリも交換してないな?』

ゆきち  『はい!言われた通り一切触ってません。』

ゆきち  『今日は少しですが利益もでてます。』

南部さん 『あれから1週間や。釘を触らず上が22割、そして今日は15割…』

南部さん 『釘を触らんでもこれだけ上下の割の違いが出る事は分かったな?』

ゆきち  『は、はい…。』

南部さん 『さて問題はここからや!締めるか?開けるか?』

南部さん 『それともそのままか?お前はどうする』

ゆきち  『えーと。』

南部さんはそう言うと、この6日間の釘帳を見つめ私の返事を待っていた。

次回更新へつづく