「恩人Tさん 後編」

 Tさんが毎日勝っているのは間違いない。態度でもそれはわかる。しかも、3千個打ち止めの店で、なぜかそれ以上の玉をいつも足元に持っている。???だ。

 切羽詰まっていた自分は、思いきって彼に話かけてみた。もちろん、彼もプロだろうから、自分の手の内を簡単に晒してくれるはずもなかろう。最悪、一喝された末に店を追い出される可能性もある。
 だが、どのみちこのままでは自分のパチンコ生活は破綻する。え~い、ダメ元だ。

 結果はあっさりしたものだった。もう詳細は忘れてしまったが、あまりにも社交的なTさんは
「俺はコックが本業なんだ。お兄ちゃんはパチプロを目指しているの? 頑張りなよ」
という感じで、自分のやっていることを拍子抜けするほど簡単に教えてくれた。

彼曰く…
・ビッグシューターは当たってから右打ちすると、台によってはほとんどパンクしなくなること
(貯留解除後も自力でVに来やすくなる)
・羽根モノはヤクモノのクセしだい。俺は釘はよくわからないから、デキがいい台を触ってから判断する
(深夜まで厨房で働く彼はいつも帰りが始発で、ホールには昼頃の出勤)
・打ち止め個数の直前に台を移動すれば、打ち止めではないので、持ち玉を交換しなくていい
とのことだった。

 さすがに最後のそれは強引過ぎる気がしたけれど、実際ホールには咎められていなかった。何かこう、ルールの抜け穴を突くという凄い発想だ。

 その後は今の自分があることでお分かりいただけるでしょう。ビッグシューター貯留解除後に右打ちをしてパンクを減らし(継続率アップ)、右盤面の釘で対策してきたホールから前日との釘の変化を学ぶ第一歩とすることができた。

 最終的に釘がわかるようになって開放台狙いはしなくなったけれど(というか、開放札を打つのはプロの恥と思い、一切打たなくなった)、仲良くなったTさんがくれたアドバイス、「みんなと同じように打っていたら、同じように負けちゃうよ」という言葉は座右の銘になった。

 数年後に「東京の西の外れで店を持つことになったから」と、福生を引っ越していったTさん。
 今も厨房で腕をふるっているのかな。多分俺は一生貴方のことを忘れませんよ、ありがとう!