「やっとできたぞ」紫堂彬は呟いた。

S社技術部に属していた紫堂は、ドローンの制作に携わっていた。

究極とも言える小型ドローンを試行錯誤しながら、玩具用として完成させた。 浮遊する銀色の球体、ピンポン玉サイズである。

コントローラで動かすこともできる。

球体サイズが小さすぎると紛失の恐れがあるのでこのサイズにしたが、他にもいろんなサイズを試作していた。

パチンコが趣味の紫堂は、密かにパチンコ玉サイズのドローンを完成させたのである。

もし、パチンコ玉を自在に操ることができたら・・・その昔、一発台が好きだった紫堂はそんなことをよく思っていた。

セブン機のスタートチェッカーに上下させてデジタルを回すのは効率が悪すぎる。 理想はやっぱり一発台。 丁度、最近そんな台が増えてきている。

最も設置が多い天龍は、3段クルーンが難関すぎた。

天下一閃タイプがいいのだが、この台も上部の振り分けルートが難しい。 と、丁度良さそうなのがある。 天下一閃の完全突破タイプ1600verである。

早速設置状況を調べると、割と近くに設置店がある。 どちらかというと不人気店であることも都合がよく、決行を決意するのだった。

決行当日は開店30分後に入店。 天下一閃にお客いないのも、その島に誰もいないのも予想通り。

少し迷ってるフリをしつつ天下一閃に着席。

千円札を入れ、500円分の玉の半分を打ち、残り玉を下皿へ。 左手をポケットに入れ、手の中のモノをポロっと上皿へ。

そしてハンドルを持つ・・・弾き出された1個の玉が盤面内で落ちて・・・いかない。

途中で停止、というか浮遊。

その浮遊した玉が、何かに誘導されるように飛び込み口へ。 そして中央にトゲトゲのあるクルーンに降りていき、そのまま中央のv穴へ。

刹那「打ち取ったり!」

スマホをコントローラにして指感覚を磨く練習は何度も繰り返した。

難しいのは、v穴の奥のセンサーに反応させて浮遊させること。 もし落ちてしまったら、終わりである。

見た目は銀の玉だがやはり本物と比べれば違和感がある。 いずれにせよ、大当たり中にクルーンの端に待機させている玉を見られるわけにはいかない。 なので、左右にお客いないこと、クルーンの空間が奥まっていることも好都合。

あまりに続けて大当たりさせるのも目立つので、打つフリも取り入れつつとりあえず5回、大当たりを取って休憩。 と思っていたら、5回目の大当たり中に右の台にじいさんが着席。

仕方なくクルーン内の玉をじいさんから死角になる右へ移動させ、大当たりを消化。

そして、じいさんがこちらを見ていないことを横目で確認し、充電も視野に玉を外へ出すべくスマホで操作。

飛び込み口を内から外へクリアし、釘の林を潜り抜け・・ しまった!レールの先にある跳ね返り防止の弁がじゃまで通らんやん(涙)。

こうなれば、動くうちに大当たりを取れるだけ取る。

ん?じいさんこっち見てる・・反射的にハンドルに手が・・発射される玉、が玉ドローンに衝突・・・静かに下部ハズれ穴へ落ちていく俺の玉ドローン(滝涙)。

務めて平静を装い、打ち出しを開始する紫堂。 そして上皿を打ち切って呼び出しランプを押し、3箱あまりの玉を流す。

あの玉ドローンがその後どうなるかは分からんが、とりあえずもうこのお店には来ないほうがいいだろう。

「にしても、割に合わんかったな」 紫堂彬は呟いた。

 

■じゃじゃ流パチンコ川柳

「できたらな 自由自在の 玉制御」