親からの僅かな仕送りに頼っていた紫堂彬は、新聞記事の下段の方を見ていた。そこにはパチンコ店の新装開店の記事が載っていた。

D市S駅前のS会館なら割と近い。5時オープンならかなりねらい目。講義を終えてから行っても1時間半前くらいには着けそう。

勇んで行ってみたら、入り口の前に4,50人くらいの人だかりが。もちろん、行列になどなっていない。

左右からはいくら入り口に近くても人圧で入れなことを経験していた紫堂は、入り口の真正面に並んだ。というか陣取った。そして1時間が経過、もう横も後ろも人で一杯。おしくらまんじゅう状態である。

「はよ開けんかい!」前方から怒号が。「ガンガン!」ガラス戸を叩く音も。

ガラス戸の奥のシャッターが上がってくると、後ろから凄い圧力が。全く身動きができない。

「押すな、アホ!」無駄である。

そして怒号飛び交う中、押しつ押されつじわじわと前へ進み、店内へ。倒れているじいさん、散乱した靴。狙いは羽根物。なんとか1台キープ。

夕方開店なら、羽根物が固いのは分かっていた。定量性、約1万円分出たら打ち止め。投資が千円だったので、9千円プラス、上出来だった。所要時間は1時間ちょい。閉店時間の告知はないが、本日は○時で閉店させていただきます、のマイクが急きょ入るのも予想できたし2台目は到底無理。

そして、出玉をジェットに流すために並び、カウンターで景品に交換するために並び、さらに換金所へ行くためにこれまた凄い行列に並び・・・これらの所要時間もまた、1時間ちょいかかった。

こんな新規オープンが再々あるハズもなく、普段は羽根物の打ち止め開放台を好んで打っていた。お気に入りはビッグシューター、羽根開放中の玉の貯蓄は左からだけでなく右からもさせた方がよいのでは、となんとなく思っていた。

セブン機のあの大きいドル箱が積まれた光景を見て、羨ましく思っていたが、貧乏学生の身にはまだ別世界に感じていた。

そんな頃、月刊誌の裏面の記事が目についた。「驚異のセット打法発覚!あなたにも簡単に大当たりを!」

眉唾物とは思った。それを行ってみた人が、説明通りの方法で打つと簡単に大当たり、これが連チャンの大勝ち!と破顔の写真と共に記事が載っていた。

ついついそこに載っていたダイヤルQ2にかけてみた。女性の長々とした説明、頑張ってメモを取りつつ全部聞き終わった時は20分以上経過していた。

そして翌日、ドキドキワクワクしながらパチ屋へ。説明通りに打つ・・・左に8が止まったら一旦停止、30秒待って打ち出し・・っと、2個目が入ってしまったのでやり直し・・など、すんなりはいかなかったがなんとか説明通りのセットが完了した(ハズ)。

さあ、次の回転で大当たりするハズ・・・リーチにもならずハズれ。もしかしたらどこかでミスったか、ともう1度やり直すもまた当たらず。

昨日のダイヤルQ2にかける。したら、打った店はすでに対策済みだとか。その場合の対処法は・・とまた長々と説明が続く。そして再チャレンジ!

で、失敗。

3たび電話。したら、行った順序を問われ、告げると1か所違う点があることを指摘される。そして改めて説明を。

で、再々チャレンジ!

で、失敗。

なんとなくもう成功する気もしていなかったが、ココで初めて騙されていたことを確信する。そして怒りの気持ちで電話。

プープープー。もう1度。プープープー。

翌月に来た、電話使用料明細、20万円・・・

 

■じゃじゃ流パチンコ川柳

「気を付けて 甘い話にゃ ワケがある」