二人のS vol.1 黎明期

二人のS vol.5 予兆

 

そんなこんながありつつ、それでもパチプロ生活を続けている中で、普通に連絡を取り合い、時には一緒に打ち、飲みに行く。

そんな生活がしばらく続いていましたが、Mさんとの事件を境にしぃ君の生活が徐々に変化していきます。

これまで、甘ったれながらも「コレで稼ぐならちゃんとやれ!」というボクの叱咤激励に応えようとしていたしぃ君でしたが、だんだんとパチンコ屋へ行かなくなり、朝起きないようになり、挙句の果てには起き抜けから寝るまで浴びるようにビールを飲み続ける始末。

空き缶が散乱したゴミ屋敷のような自宅の写メを自暴自棄気味にLINEに報告してくるようになり、酷い時には1日で500ml缶1ダース以上を飲むという異常さです。

 

彼は実家住まいだったので、打たなくても家賃やらなんやらの支払いに追われる事はありません。

まだハタチそこそこの小僧ですからそれでも許されたわけですが、無職がそんな荒れ果てた生活を続けていたら、お金が続かなくなるのは火を見るよりも明らか。

案の定、稼働する為の元手が無くなっていきました。

ボクのブログで知り合ったグループは、その多くがパチプロ生活をしていたけれど、もっと緩い、友人としての付き合いがメインのグループでした。

ですから、現場で直接的な関わりの無い、関東以外の人たちは、彼の稼働に口を挟む事などありません。

しかし、この時ばかりは全員がしぃ君の異常さに気づき、私生活の面は勿論、お金が無いなら無いなりの立ち回りとして、アドバイスをするようになり、その結果、しぃ君はサイトセブンで羽根物のデータをひたすら調べ、マーク屋を始めました。

Mさん事件、その後に起きたプライベートでの事件、そこからの荒み切った生活に家族からの苦言もあり、自宅にいたくなかったんでしょう。

貯金が底をつきかけて、やっと重い腰を上げたかと思えば、今度は車中泊を繰り返すというこれまた極端な生活を数週間続けました。

 

元々技術的には変態的に上手なしぃ君。やり方はともかくしっかり立ち回った結果、窮地を脱した事には一安心していましたが、そんなある日

「飛行機が飛ばなければいいのに」

と羽田空港の写メが突然LINEに送られてきました。

正直、しぃ君の甘ったれ感・かまってちゃん感にイヤ気がさしていたメンバーもいて、

「金が出来たらすぐそれか……」

と半ば呆れ気味に勝手にしろ状態だったのですが、学生時代を過ごしたという北海道に到着したしぃ君が実に楽しそうに各地の観光写メをLINEに送ってくるのを見て

「まぁいい気分転換やろ。」

「マーク屋は最低やけど、恥も外聞もないレベルまで堕ちなきゃ勝てないレベルならそれもしゃーない。」

「マーク屋言うても車中泊で転々として一応必死に頑張ったんやし、少しくらい目をつぶるか」

と、その前の荒んだ生活を抜け出した事に皆が安堵し、クソガキがはしゃいどるわ、くらいにしか見ていなかったように思えます。

しかし、北海道に彼が旅立ってから一週間目。突然、夜の湖の写メが

「死ねません」

という一言とともに送られてきました。

 

慌てて電話をかけたところ、消え入りそうな声で話すしぃ君。

マーク屋をしていた時点でお金が無いのは分かっていたし、旅立った時点での所持金をある程度把握していたボクは、北海道旅行中に送られてくる写メから伝わる豪遊感に少し違和感を持っていたわけですが、電話で決定的になりました。

自殺するつもりで行ったのか、と。

話を聞くと、北海道についてからレンタカーを借り、そこから一週間道内を回って土地土地の居酒屋で一人で飲んでいたとの事。

お金を気にせず飲んだくれ、行き着いた果てで自殺しようと思っていた。

でも、出来なくてLINEを入れてしまった。

レンタカー代は、そもそも1日分しか払っていない。

そして残金は数百円。

……

彼は大学を中退しているのですが、良い思い出があまり無かった中高生時代とは違い、北海道の大学に行っていた時が一番の思い出だったらしい。その地で死にたかった、と。

この一週間送られてきた写メと、その行動と、色々な事が繋がり、ボクらは騒然となりました。

「結局甘えてるだけ、本当に自殺したいならさっさと死ね」

という論調の人。

「死ねとは言わないけどほっとくべき。甘やかすのは本人の為にならない」

と冷静に距離を置く人

「俺が話を聞くから!!」

と、気持ちは見せるものの行動に移そうとはしない人。

混沌とした状況の中、それでもボクは可愛がっていた後輩をまずは死なせたくないという思いで何とか帰ってくるよう説得しました。

彼がなぜそこまで追い詰められたのか、それを一番知っていた者として、甘やかすだのなんだのの前に彼が不憫でならなかったのです。

そしてこの時、しぃ君が精神を病み始める一つの原因となったMさんも必死にしぃ君を助けようとしてくれました。

後々聞いた話ですが、Mさんは過去に自殺してしまった友人が複数いて、その時助けてあげられなかったという思いをずっと忘れられなかったそうです。

確かにパチプロとしてのタブーを超えてしまったのはMさんだけれど、それを反省し、しぃ君がこんな風になってしまった時、一番に助けようとすぐに行動してくれたのもMさんでした。

そうして、ボクとMさんとで滞納しているレンタカー代を振り込み、帰りの飛行機を手配し、何とか説得してしぃ君は神奈川へ帰ってきました。

 

vol.7へ続く