総額5000万円の入替費用と聞かされて言葉がでなかった。
自分が企画を上げなければ、この大金は本来使われなかったお金・・・

任された店舗の稼働はそもそも順調でノーマルAタイプ102台の設置で月間1200万円の粗利を安定して上げる事が可能なお店だった。

しかし設定にメリハリを付けないベタ設定+全台ノーマルAタイプの設置では現状を超える結果を出す方法を思いつかない。

大花火や獣王など大量獲得機に設定が入っているお店には徹夜で並びが発生している状況をパチプロ時代に目の当たりにし、それらの大量獲得機の魅力を知っている自分が今回のチャンスを機に導入しないのは考えられなかった。

ただ現状が閑散とした状況なら迷うことなく挑戦出来たのだろうけど、相当に安定している状況を崩して挑戦するのだから失敗でもしようものなら・・・。

実際に大花火や獣王などの人気機種を設置していても閑古鳥の鳴いている店はあったし、自分が調整すればそうならない自信はあった。

ただ5000万円もの大金を投資した上でそれまでの月間粗利を2000万に跳ね上げて見せると大風呂敷を広げたのだから、それはもう言いようの無いプレッシャーに襲われた。

5000万円の使い道だが半分は機械購入代金に消え、残りの2500万は

○ナンバーランプを最新式に物に102台すべて切り替える費用とその工賃
○メダルを洗浄し綺麗にするためのコイン洗浄機の購入
○壊れていた自動補給装置の修理代+店内の簡易的な改修工事費用
○広告宣伝費

新台の契約が済み納品日が決定すると企画が動き始めた。

先ずは各業者と工事時間の打ち合わせを分刻みで行う。

と、言うのも比較的大きな工事にも関わらず、お店を閉めるのは一日だけ、時間にすれば36時間ほど、その間に色々な業者が入り乱れ、アッと言う間に店内の設備を切り替えるのだ。

当然、何日も前から入念な下見と準備があるから出来るのだけど、全く無駄の無い動きは見ていて感動すら覚えたほどだった。

ピカピカに輝く新しい設備が整い警察検査も無事にクリアー、いよいよ開店の日を迎えた。

開店初日は全館3時オープン。

理由は2つあって全台設定6を告知無しで営業したかった事と、もう1つはAT機とストック機のポテンシャルの高さを見せるには最低6時間は必要と考えたから・・・

設定をもう少し落として12時オープンなども考えたが、やはりスタート時のインパクトは必要だと考え3時オープンの全台設定6で行く事に決定した。

当日の10時から整理券を配ると宣伝していた為、早朝よりかなりの人が集まった。

店のシャッターは入口部分を腰の高さまで下ろしたまま・・・
そのシャッターの向こう側ではスタッフが開店待ちのお客達に整理券を配りながら、入店までの流れを説明していた。

そんな光景を見て自分も店内で踏ん反り返っている訳にもいかずスタッフと一緒になって整理券を配った。

そして開店の30分前に入場・・・
既に店内は満席だが新装開店前の独特な静寂が店内を包み込んでいた。

もう何十年もパチンコを打ってきたが新装開店前の静まりかえった雰囲気が好きで、お客側では何度も経験していたが、自分がプロデュースする店舗で体験するこの静寂は、それまで経験した一番心地の良い静けさだった。

開店の音楽を鳴らせば、店内で待つすべての客が一斉に打ち始める・・・

勝負開始の合図を出すのは自分。そう考えただけで胸が高鳴った。

まだ釘は出来ないけど、何時か必ず釘調整も出来るようになり完全にホールを支配したい。

そして今回の企画を絶対に成功へ導くと誓い開店の合図をカウンタースタッフに出した。

合図と共に自分が選曲した音楽が店内に鳴り響き、皆一斉に打ち始める・・・

その瞬間、今まで体験した事も無いほど気持ちが高ぶり、目に熱い物がこみ上げてきた。

この日のスロットの設定は『オール6』

スロット8枚交換にも関わらず5時間ほどで赤字額は200万円を超え、AT機・ストック機のポテンシャルの高さに圧倒された。

そして翌日からその暴れん坊な機械を相手に粗利確保に奮闘する日々が始まった。

新台入替から数日が過ぎ、客足も少し落ち着き始めた頃から次の一手に取り掛かり始めた。

今までは単純に朝一モーニングを入れ集客を伸ばしてきた。しかしそれは年配層相手だから出来た事・・・

スロットの半数を入替、データー設備を変えた事により若年層のプレイヤーが増えてきた。

以前と同じようにモーニングを入れるだけでは美味しい所だけを持っていかれてしまう。

さらに当時の機種は朝一特典が多かったのだが、その機能を知っているのは知識のある若者中心、いままで沢山お金を使ってくれた年配層と知識の有る若者達の差を如何に埋めるかが、今後スロットを高稼働に維持するには重要だと考えスロット専門のアドバイザーを導入することにした。

簡単な基準を作成しクリアーした人物だけ、スロットコーナー専属スタッフとして接客させる。
これが評判を呼び年配層中心にAT機やストック機にもお客が集まり始める。ノーマルAには朝からモーニングをたっぷりと仕込み、キングパルサーなどは設定変更のみだと美味しい部分だけを持っていかれるので、打ち込み機を使いゲーム数のズラシなどを行なったり、その間に告知ランプが点灯した台はそのままモーニング台として放置していた。

そんな状態だから朝一から年齢を問わず開店前の並びが発生する。

開店と同時にほぼすべての台が満席になる・・・
逮捕の危険はあったが、お客が喜んでくれるならと連日深夜まで打ち込み機を使い翌日の開店準備をしていた。

客が入っていると面白いように利益が取れるのがパチンコ屋の換金システム、今では考えられない8枚交換と言う低換金だからこそ、売り上げが上がれば幾らでも設定6を入れる事が可能だった。

たまに狂ったように2万枚超えの差玉が続くこともあったが、そんな時こそ高設定据え置き・・・

お客に 『ここの店の設定師は頭がおかしい』 と思われる様に変態的な設定にこだわった。

金太郎の設定6を三日連続据え置いてみたり、設定3で1か月放置したキングパルサーに今週の何処かで設定6を入れます宣言のメールを出したり、今では絶対に出来ないような煽りで集客しまくった。

連日、休みも取らず1日中ホールで働いていたが、この時は毎日が楽しすぎて仕方なかった。
自分が書いた絵の通りに事が進んでいく、これ以上ない至福の時を体感する。

そんな稼働も売り上げも連日記録更新する中、とんでもないモンスターマシンと対面する。

それは回胴式遊技機史上最強最悪のマシン。
裏物を凌駕する驚愕のスペック

その出会いはアルゼの営業マンが持ってきた1枚の紙切れから始まる事に・・・

次回更新へ続く