素敵なダイナマイトスキャンダル

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2018年 日本 上映時間138分 R15+
監督:冨永昌敬
原作:末井昭
出演:柄本佑 前田敦子 三浦透子 峯田和伸 松重豊

エロいか信頼度……約60% 湿り気あまりなくだましもありでカラッと。

デタラメに猥雑、あっけらかんと開放的な昭和終期というひとつの、今から思えばすこぶるエロに寛大だった時代を、伝説の編集者・末井昭氏の半生をベースに、彼と、そして彼を取り巻く男たち女たちの心と体を通して、ダイナミックに描いた作品。

結核上がりの母は隣家のせがれと堕ちゆき、ついにはダイナマイトで心中する。この山間の小さな村で起こった実母の情事とド派手な心中事件。
なんというエキセントリックな逝き方。にわかには信じられない爆死というエクストリームな死に方。そんな「爆裂お母さん」という先入観は見事に覆される。浮き世離れした艶っぽい尾野真千子の演技によって。

劇中で何度も「お母さんは?」の問いかけが様々な形で出てくるが、ダイナマイトで爆死という答えを聞いた相手の反応がそれぞれに違い、それを受けた彼の反応もまた違うのだった。つまりその都度、幼い頃に死んだ母親について改めて考えているというわけだ。

局部をリンゴや黒丸で隠していた前時代から、現代の場合によっちゃ具も有り時代までのちょうど中間にあたる、どうにかヘアギリギリなんとかならんか時代のエロ雑誌。下着の生地を薄くするひそやかでやっきな作業と「これ透けてんじゃない?」というモデルの平和な声に笑う。映画的な目で見ればあまりにもおいしいネタ満載。だからこういったお話はオフビートというかまさに駆け抜けてく疾走感がもっと欲しかったかなと思わないではないが、それは欲張りすぎか。ただ制約がある中で十分暴れることが出来ていたのは確かだった。

末井氏の特徴的な煙草の吸い方、乾いた笑い方。演じた柄本佑が素晴らしかった。ハハハハという笑い声と表情に変に感情がこめられていないのも却って好感触。
ポケットの小銭をうざったく豪快にばらまく姿やわざと調子っぱずれに吹くサキソフォン。ひとつの時代を築いた魅力あふれる若き日の末井氏を好演していた。

受け入れが早く、よりしたたかに生きる女たちが裸体と共に次々と出てくる。女は柔軟で覚悟を決めたら潔く、男(と男の友情)はシンプルで、そして覚悟していても傷付きやすい。

ガサにやってきたサツが確認のために言う「ハイ猥褻物販売容疑、○○○○(関東直撃4文字)36カ所!」が可笑しい。マジメとエロ。この警察との一連のやりとりはいちいち面白かった。
官能小説がちっとも官能的でない書かれ方をしているとか、エロと体育会系ノリが密接なつながりにある事もうかがえて楽しい。大らかに明るく作られていくエロス。わかりやすく純真なエロス。
そう、当時はエロに「役割と意味」とがある時代だった。

それにしてもつくづく男と女はわからんもんである。愛人役の女優は強くも弱くも少女にも悪女にも見え、目元に色気を宿した顔立ちの三浦透子。ドンピシャリのキャスティングだった。

エロおおらか時代からサブカル時代へと駆け抜けていく際に、アラーキーら異才の名と共に、ちょいちょい挟み込まれるおにぎりサブリミナルこと、南伸坊。

現代からは考えられない時代ゆえにどこかしら嘘っぽくも見えてしまう展開の中、冷え切った夫婦の会話が妙にリアルだった。あっちゃんも妻役を頑張っていた。ただこの前田敦子に関しては自身はまだ若い女性なのに、80年代の髪型ややたらデカイ眼鏡姿がえらいしっくりきていた事に驚かされる。演技はともかく、このダサい着こなしや雰囲気は作り込まれていて感心した。

病んだ愛人に対する自分の当時の軽薄な気持ちも正直に語られていた。しかし再会時、女の情念を、病みながらもある意味タフな彼女を前にして初めて、愛(のようなもの)の意味を知る場面はもっと突っ込んで描いて欲しかった。大きく動いた心を見せてほしかったなと個人的には思う。

結局、彼はそうやって2人の女の何かを狂わせるわけだが、その原点が何なのかというのが後半にうっすらと浮かんでくるのだった。

山小屋で、情事の相手である隣んちの息子が、汚れた彼女の足を舐め、きれいに拭うシーンがある。まるでイエスが弟子たちの足を洗ったように。マリアがイエスの足を洗ったように。そうしてそこからまるで「生まれてきたところ」に戻っていくように、男がその場所へと顔をうずめるという大変に印象的な場面へとつながり、そこで、ああ、そうか。娼婦で聖女。そうなのか。マグダラのマリアなのか。と感じた。短いがそこからラストへ引き込んでいく素晴らしいシーンだった。

そしてなぜダイナマイトだったのか。なぜ山奥だったのか。その理由がほんのりとわかるラストに、たった一言だけセリフが導入されている。そう、それ以外の台詞が母にはないのである。実は沈黙が多くを語っていた事にそこで初めて気付かされるのだ。

ダイナマイト・ラプソディよ。劇中に幾度となく出てくる遠くで鳴る爆発音と不協和音。不協和音がいかに人の心を乱し揺らすかがわかる効果的な挿入具合であった。エンドロールにしっとりと流れる主題歌「山の音」も古いフランス歌謡のようにいつまでも耳に残る。

物語はエロ雑誌発禁から、やがてパチンコ必勝ガイド創刊へと展開していくわけであるが、残念ながら映画はその後を描いていない。新しい方向へもエロ雑誌時代と同じように、この必勝ガイドの30年の流れも映画化出来るほどのネタが詰まっているだろう。エネルギッシュであったに違いない。ここはひとつ続編を密かに期待しつつ、玉きゅん!