「パチンコをする人は本なんて読まないから……」

 これは、「パチンコ滅亡論」を書店で探していた方が店員に言われた一言をツイートしたものでした。なんだとこの野郎。パチンコユーザーをバカにしやがって。

 そのツイートを見た時、一瞬沸点が上がったものの、本書を読了した後に感じたのは「それもそうか」という半笑い感だった。

 パチンコは滅亡するのか――

 結論から言えば、早々にパチンコ・パチスロが滅ぶ未来は考えられない。現在地がどれほど辛かろうが、明るい兆しが無かろうが、未だ20兆円近い経済規模を持つパチ・スロ業界は軽々に滅亡するほどヤワではない。

 ただ、2020年4月に迫る禁煙化、続々と外される五号機、ホールにとって多大な設備投資が必要となる管理遊技機といったネガティブな転換点がこの先まだまだ控えている事を考えると、多少機械の規制が緩和された程度でパチ・スロが復興する未来も中々描けない。

 秋元衆議院議員の逮捕に伴って、犯罪との直接的な関係がまだハッキリしないにも関わらず「パチンコホール法人を捜索」といったキャッチーなフレーズが使われた。何より問題なのは、パチンコ蔑視を喜ぶ大衆とそれを誘うメディアが大手を振っているという”世論”だろう。

 パチンコ滅亡論はそんな時世に発売された。物事に白黒をつけたがる世の風潮の中、パチンコ・パチスロが堅持してきたグレーゾーンが喪失する意味。それを解き明かすインターネットの功罪。依存症の問題。イベントと広告規制等々。対談形式の軽快な語り口ながら、メディア側から業界を長年見続けてきた二人が、パチンコ業界の本質と行く末に迫っている。

 とは言え、悲観的な話ばかりではない。どちらかと言えば、近所の居酒屋でオッサン同士が愚痴り合っているような中身で、活字が苦手という方でも全く苦にせず楽しく読める。そんなテイストだから、業界の難しい話など分からなくても、パチンコ・パチスロ好きな人ならばスッっと話が入ってくる。

 本稿だけでなく、一見読み飛ばしてしまいそうな注釈にもこのように遊び心のある表現が多数盛り込まれており、決して「パチンコ滅亡論」という悲観的なタイトルと結びつく話ばかりではないのが、大崎一万発氏・ヒロシ・ヤング氏のユーモアであり、風俗産業に吸い寄せられてしまった二人の”らしさ”だろう。

 勿論、おふざけ一辺倒ではない。POKKA吉田氏、木曽崇氏との対談では、警察やカジノとの関係における深く濃密な話も掲載されている。

 ただ――

大崎「クジャクが歩き回ってて、エロイ姉ちゃんが出迎えてくれて、10万の会員証みせびらかしながらVIPルーム通されて、そこでファフナ-打てたら最高だなと(笑)」

ヤング「シャンデリアと絨毯の特別室でやってることは小バクチ。それも、鉄の小玉がどこに入るか見てるゲーム。お前さ、それ共感してもらえると思ってんのか(笑)」

(中略)

大崎「いいんだよその程度で。そもそもが大したこと望んでるわけじゃないんだから。」

ヤング「確かにな。パチンコなんてしょせん死ぬまでのヒマつぶし。でも、だからこそ楽しくやりたいって、それだけだよね。」

 巻末にあるこの言葉は、パチンコ・パチスロの持つ「玉虫色」を良い意味で表現しており、パチンコ・パチスロが滅亡に向かおうが、それを取り立てて騒ぎ立てる必要もない気がしてくる。一つ一つの事象について考えすぎたり、正義とは何かなど考える事自体、そもそもがパチンコ業界とミスマッチなのだ。

 「本を読まないパチンコ打ち」なんて評価は、その通りと笑い飛ばせばいい。二人の言葉を聞いているとそんな風に思えてくるから不思議だ。

 だからと言って何もしないでいいわけではないのだが。そんなエッセンスが本書には詰まっている。


画像引用:パチンコ滅亡論 書籍内より

 著者の大崎一万発氏、ヒロシ・ヤング氏はボクがパチンコ・パチスロを覚え始めた90年代後半はどちらかと言えば目立たない存在だった。時折名前は見かけるものの、田山幸憲プロや安田一彦プロのような誌上プロでも無ければ、一世を風靡したマッパチのようなカリスマライターでも無かった。しかし、スカパーから露出を高め始めて気づけば大御所のような扱いとなっている。

 勿論、「夢戦」を始めたことで“ライター”を“演者”にしていった流れとその功罪を知る方にとっては、とりわけ大崎一万発氏には良い印象を持っていない人もいるだろう。当人たちが自身を“老害”と表現するように、所詮は業界の良い時期に甘い汁を吸った一味の戯言と思っている人もいるかもしれない。

 ただ、大崎氏がなぜ雑誌の編集長という陰の立場から矢面に立つようになったのか、そしてヤング氏がなぜずっと彼の側にいるのか。それは、この業界に魅せられ、時に悩み、小馬鹿にもする、二人のそんな姿勢がパチンコファンの延長線上にあったからで、それは一貫してブレていない。本書を手に取れば、きっとそれが伝わる。

 二人を知らない世代にとっては、過去どんな流れがあっての今なのか、その基本を笑いを交えつつ教えてくれる。

 パチンコ・パチスロの行く末が気になる人は、これまでの業界のおさらいとして様々な内側の事情を知る事が出来る。

 大崎氏・ヤング氏のような演者が嫌いな人は、その裏にある演者の真の姿が分かる。

 そして、パチンコ・パチスロに滅んでほしくない人や、二人のキャラクターが好きな人ならば、数多の共感とともにノンストップで読了する事が出来るだろう。

 「パチンコ滅亡論」というタイトルはいかにも商業的だが、本書の本質は「パチンコ愛」だ。そして「あなたにとってのパチンコ・パチスロとは何ですか?」といった問いであるようにも感じる。

 パチンコ・パチスロがこの先どうなるかなど、誰にも分からない。ただ、これから先まだまだ厳しい時を過ごす多くのパチンコ関係者・ユーザーにとって、本書はきっと大きな支えになり、羅針盤になる。


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 慣れない書評なんて書くもんじゃない。いや、慣れないどころか初めて書評というものを書いてみて

「書評ってこんな感じで良いんだろうか……」

「書いてること的外れだったらどうしよう……」

「っていうか何偉そうに書評とか書いてんの……?」

 という、不安過ぎてワイ震える感が率直な感覚です。ただ、悠遊道の大晦日担当として何を書こうかなと考えた時、コレしか無かったです。

 パチンコホールが1万軒を割ったのは確か昨年暮れだったと思いますが、現在ピーワールドで確認すると全国のホール軒数は約8,700軒。じわりじわりと真綿で首を絞められるような、そんな閉塞感が蔓延した1年だったように思います。来年はもっとシンドイ1年になる可能性も高そうです。

 でも、一般ユーザーからしてみれば「楽しく打てりゃいいんだよ」というのが真理だと思うし、景気の気は気分の気という言葉もある通り、悲観論ばかりじゃつまらない。そんな当たり前の事を思い出させてくれる良書を、2019年の総括として是非皆さんにも知って頂きたかった。そんな思いで綴りました。

 ボク個人としては、2020年は新企画の動画の件もあり、今年以上にパチ・スロと触れ合う機会が確実に増えますし、そんな未来にワクワクしています。

 皆さんはどうですか?

ヤング「とっくに死に水を取る覚悟は決めている」

 なんて言葉がありました。以前、ドラ広さんからも同じような話がありました。でも、きっと取れませんよ。パチ・スロ業界はそんなにヤワじゃない。手を変え品を変え、それはかつての「パチンコ」とは似て非なる物かもしれませんが、それこそ我々も玉虫色に楽しめば良い。そうしてきて良かった。そんな風に言える未来をボクは願います。少なくとも「滅べ!」とか「もうオシマイだ……」なんて言ってるよりはそっちの方が楽しいから。

 後は野となれ山となれ。それでいいっしょw

 それでは皆様、良いお年を!!