毎日遊んでいる立場で職業病という言葉も使いづらいのだけれど、座り続けているせいか、事務さんや、タクシー運ちゃんさんと同じように痔ろうに悩まされてたりしました

 

 

自分のは、ぷりっとした小豆ほどの大きさだったのですが痛みもなく、自身に棲みついた小さなお友達程度に捉えていました

 

風呂に入る度に、まだあるかなーと確認したりして何年も遊んでいたのですが、ある日を境に突然むくむくと成長しだして、一週間余りの間に空豆ほどの大きさになりました

 

その一週間は、確認するたびに膨らんでいくそれにパニックに近い恐怖を感じました

 

とりあえず肥大化は納まったものの、それからは坐っていてもぷるぷるとしたしこりが常に圧迫されるような感覚があり、一日中意識せざるを得ない状況になってゆきました

 

こうなってくると、それまでの可愛さなんてものは吹き飛んでしまいます

 

人の身体に棲みついておいて、宿主の自分にずっと自分の存在を主張しつづけるその態度に、図々しいヤツだな、と腹も立ってきます

 

それでも、感覚としてはいつ破裂してもおかしくない水風船のようなもので、丁重に扱わざるを得ないのが余計に癪に障ります

 

歩いてもぷるぷる、足を組み直してもぷるぷる、寝返りを打ってもぷるぷるぷるぷる

 

自分の怒りは頂点に達しました

 

出ていってもらおう、と覚悟を決めたのです

 

しかし、その頃は一店に通い詰めていたために時間を作ることができず、そんな気持ちを隠して、間違っても破裂しないよう機嫌を取りながら日々を過ごします

 

夜になれば風呂場で小さくなっていたりしないかと僅かな希望をもって恐る恐る確認しては、変わらぬ横柄な姿に絶望的な気持にもなりました

 

存在を忘れたまま目を覚まし、身体を起した瞬間にぷるんとし、奈落に突き落とされたような朝を迎えることもありました

 

そうして二月近い嘆きの時間を過ごし、お店の方も一段落して、やっとおさらばできるとスキップしたいくらいの気持で横浜の大きな専門の病院に入院

 

入院して二日は緊張して物を考えることも出来ず、三日目に手術を終え、意識が混濁としたまま四日目を迎えました

 

痛み止めの麻酔の瓶を首からぶら下げ、背中には針が刺さったままで、「何かの拍子に身体の奥まで刺さったり、針が折れる可能性はないのか」、との不安を看護師さんが巡回して来るたびにぶつけたい衝動に駆られますが、そんな聞いたこともない災難を若い看護師さんに吐くのも恥ずかしいかと、我慢したりしていました

 

そうして、針とともに過ごす日にも慣れ、手術後の痛みや出血も納まってきたころ、院内の軽い散歩をしているとき、ふとぷるぷるの存在を思い出しました

 

そうか、もういつ破裂するんだろうと恐れる日々を過ごさなくていいんだな、と晴れやかな気持を起そうとするものの、なぜか気分が乗りません

 

不思議な感覚で、自分のこの感情をぼんやりと見つめてみる

 

ひとつの要因として、痛みがなかったことがあるんだろうな、と思いました

 

ぷるぷるぷるぷる、朝から晩まで主張され続けて自分は腹を立てていたわけだけれども、他の患者のように膿が出ていたわけでも、出血があったわけでもない

 

つまりは、結局最後までこれといった実害がなかったことに、気付いたんです

 

すべては思い込みで、一人先走った考えで腹を立てていただけだったんじゃないのか

 

さよならするにしても、あんな感情を抱く必要はなかったんじゃないのか

 

そんなことを病室で考えていると、珍しく担当の医師があらわれました

 

順調な術後の経過を他愛もない感じで説明してり、そして次の患者さんのとこに向かおうと軽く体の向きをかえながら、

 

「ああそうだ、検査の結果が出ましたよ。ポチさんのは悪性ではありませんでした、良かったですね^^」

 

と部屋を出てゆきました

 

咄嗟に「ああそうですか、ありがとうございます」と、先生の表情から悪い話ではないのだろうと、こちらも笑顔で返しておてましたが、どういうことだろう

 

悪性、悪性、悪性、

 

 

癌の可能性あったのかよ!!!!!

 

説明を聞き逃していただけに決まっているのに、あやうく医者の先生にツッコんでしまうとこでした

 

あぶないあぶない

 

まあ、そんなことはさておいて、やっぱお別れしてよかったんだな、と納得したものです

 

退院したあとの再検査でも再発は見つからず、傷も完全にふさがり、ない日常が当たり前になりました

 

しかし、ふとしたときに風呂に浸りながら、ぷるぷるの居たあたりを触っている自分に気が付くのです

 

その度に、色んな可能性があったわけだし病院へ行って良かったな、と意識して安堵するようにしてました

 

しかし、手術によって若干へこんだその部分を、気付くと何度もなぞってしまう癖は治りませんでした

 

 

そうして先日のこと、風呂場で身体を洗っていると、指先に感じる突起物

 

キミ、帰ってきたのか!!!

 

 

まっっったく同じような感じで自分の元を色んな娘さんが去っていって、帰ってきて下さいと土下座しては、ごめんなさいを沢山いただいたけれど、ぷるぷるだけは帰ってきてくれました

 

正直、あまり望んではいなかった相手ではあったけれど、こんな自分の元にも帰ってきてくれる奇特な存在が嬉しくもあるし可愛くもある

今度こそは悪化してお別れとならないよう大切にしよう、そう思いました

 

 

という

 

 

「パチンコで座りっぱなしで血管を圧迫し続けると、こうやってお尻の膿で脳まで侵されてしまいますよ」という良いお話でした

 

また来週

 

あ、もし既にいらっしゃったら、十数年で悪性となるパターンもあるようなのでちゃんと受診することをおすすめしますm(__)m