裏ROM師として既に業界では有名人となりつつあった下田氏であるが、その舌鋒鋭い行政批判は監督官庁である警察庁にとっては耳の痛い話でもあった。発言だけならまだしも、裏ROM作りを堂々と公言しているとなれば捨て置くわけにはいかない。まずは一度挙げておくべしと、警察当局が動いたのだが……。
―前回伺ったところではパチスロ4号機トロピカーナの裏モノ作りに関わったとして、裏ROM師との異名を取る下田氏が逮捕されたとのことですが、その逮捕事由が著作権法違反だったということで、それが氏にとっては意外なことだったようですが。
前回もお話ししましたが、下田氏にとっては、逮捕される可能性として風営法を気にかけていたんですね (後述)。正規の基板に手を加える、要は不正改造となるわけですが、これは俗に言う「無承認変更」となり、風営法違反です。ですが、下田氏は基板の改造作業に直接加わったわけではなく、あくまでも第三者的に立ち回っていました。例えば、このプログラムのこの部分をこれこれこういう風に書き換えれば電源投入直後は高確率状態になる、試しに作ってみますかと作り方を教えるまでが下田氏の仕事。以降、誰がどのように正規のパチスロ機にそれを取り付けたか、何個作って何個販売したのか、幾らで売ったのか、なんてことは氏の範疇外のことです。
―それだけのことなら、まずもって逮捕なんて無理ですよね。
そうなんですが、下田氏は常々行政批判を繰り返し、堂々と裏ROM作りを公言していた。警察の面子もあり、一度は挙げないといけないという雰囲気になっていたそうで、どうにかして挙げられないかと試行錯誤した挙句、苦し紛れに持ち出してきたのが著作権法違反という容疑でした。ただ、メーカー側が「自社の機械に勝手に手を加えられて迷惑千万、被害届を出します」と、そういう流れでは決してなく、警察がわざわざメーカーに被害届を出せと暗に圧力をかけ、メーカーがそれに屈したというのが真相です。これは相当異例なことのようで、パチンコ、パチスロのプログラムは著作物として保護されるべきものであり、改変、改造したりすれば法に触れるというところまでは理解できるのですが、それを言ってしまうと当時プログラム解析していた攻略誌はどうなるのか。単なる解析なら特に罪に問われないでしょうが、1回転目で必ず当たるように改変されたROMや数多くのリーチアクションを確認したいから、スイッチひとつで自由自在に好きな演出を出せるように改変したROMなど、G誌に限らず、他の攻略誌でも必ずこういった改造ROMは用意されていたはずです。
―著作権を持ち出すなら、そういうこともできなくなると?
厳密に言えばそうなるでしょうね。個人で楽しむためというわけではなく、雑誌を売るという商用目的ですし、メーカー (著作権者) に許可を取ればいいのでしょうが、自分が知る限り、解析します、当たりROM作ります、演出用のROMも作りますとわざわざメーカーに事前に伝え、その内容を誌面に載せていた攻略誌は知りません。まあ、それで実際に攻略誌が著作権云々を言われることはありませんでしたが、少なくとも下田氏に関しては無理筋という批判が後々沸き起こるかもしれないことを覚悟の上で、強引に著作権を持ち出した。しかも、被害届を出してくれないと立件が難しいからメーカーに圧力をかける、そういうことまでやって逮捕まで持ち込んだというのが事の真相です。
―逮捕した後の状況はどうだったのでしょうか。
これで当面は余計なことをしたり、喋ったりはしなくなるだろうというのが警察庁生活安全局の読みだったのでしょうが、そのアテは外れたことになります。下田氏を逮捕したのは千葉県警ですが、中ではVIP扱いだったと言ってましたね。面白い話として、調書を取られていた際、押収した資料を見て担当官が「これはこの通りに動くのなら、朝イチで打ったらすぐに大当りになるんですか」と言うものだから下田氏が「そうよ。すぐに当たるんよ」と返したら、「それはいいですねぇー」と笑いながら言ったとか何とか。取り調べは常時和気あいあいとした中で行われ、ドラマでよく見かけるような威圧的な雰囲気は微塵もなかったそうです。
―ほう、それは珍しいことじゃないですか。
どうしてこんなに下にも置かない扱いを受けるのかそれとなく聞いたところ、調べれば調べるほど無理な案件だと分かっていたし、逮捕するなら実際に改造ROMを大量に売って儲けた人間や取り付けに関わった人間、設置したホール関係者らを風営法違反で逮捕すればいい、どうして著作権とか持ち出してまで下田氏を逮捕したのか分からないというのが捜査に関わった千葉県警の捜査員たちの本音だったようです。
―そうだったんですか。
逮捕される前、下田氏がどうしても自分を挙げたければ風営法でやれと、やれるものならやれと言っていたんですが、その理由として自分が作る以上のものをメーカーが作り、それを平気で認めているのが保通協 (一般財団法人 保安通信協会) という組織であり、その実態を裁判を通して世に知らしめることができるからということでした。著しく射幸心をそそるおそれのある云々……という条文に引っかかるのなら、行政側が公式に認めている機械、特にCR機は何なんだと、そういうことですね。
―それが著作権法違反となると、ちょっと様相が違ってくると。
最終的には略式起訴で罰金を支払って終わったのですが、不服があるなら通常裁判も可能ですよね。しかし、著作権法違反での裁判となると、保通協やその関係者を裁判に引っ張り出すことは無理があり、やる意味がないと周囲からも説得されたようです。また、この事件でのマスメディアの報道はかなり無茶苦茶であり、こちらの方を本気で訴えることはできないかと下田氏は思案していました。次回はそういったところを中心に話していければと思います。



