文庫本の原稿を何とか書き上げ、とりあえずはライターとして及第点をいただいたA氏であったが、次は本誌で書きたい、そしてやがては連載記事を持ちたいと、そんなことを考えていた。そんなA氏の次の仕事は権利モノの攻略記事だった。

―文庫本の仕事が一段落し、さてその後はどのように進んでいったのでしょうか。

「本誌の方で何か原稿を書きたいとなると、自分でやりたい企画を考え、それを編集部の方に通さなければいけませんよね。でも、自分としてはこれこれこういうことをやりたいとか、こんなことをしてみたいとか、そのような大層な気持ちはあまりなかったんですね。とにかくG誌に参加して何かを書く、まずはそこからだと、そんな感じでした。ただ、それで何もしていないと当然何の収入もありません。真面目にパチンコ打ってお金を稼いでというのもいいのですが、プロとしてやっていけるかと問えば首を傾げざるを得ないわけで、自分にそんな技量はありません。そんなこんな、色々と考えていた最中、本誌の方で機種ものの原稿を書いてほしいとの依頼がありました」

―ほう。機種は何だったのですか。

「豊丸のダウンタウン2という機種で、webで調べても詳しい情報はあまり出てこないのですが、ほとんど一発台のような2回権利モノですね。基本的に機種ページを担当する際は、まずは実際に打つ必要があります。後にほとんどのメーカーの新機種はショールームで試打できるようにはなるのですが、その頃はなかなか難しい。従って実際に打ち、その後に編集者と打ち合わせをし、原稿を書くと、そういう流れになります。ただ、設置店が少なく、実際に打つのが大変でした。最終的には確か埼玉県の鴻巣まで行ったのではなかったかな」

―神奈川の方からだと確かに遠いですね。

「上野あたりで打った記憶もあるのですが、とにかく釘が渋くてデータ取りにならない。回転体を使った機種なんですが、6つの入賞穴のうち、ひとつが当たり穴になっています。回転体は常時定速で回っており、こういう機種は大抵打ち出しタイミングを計っての止め打ちが有効ですよね。この機種も御多分に洩れず、止め打ちで大当りを狙えるだろうということで、機種紹介ページとしてはその方向性でいくことになりました。止め打ちの実戦データを掲載しなくてはいけないわけで、釘が渋くて止め打ちどころではないような台では打ってられない。そこで、都内は諦め、鴻巣にあるホールで実戦することになりました」

―無事、データは取れたのですか。

「はい。自分一人では心許ないだろうということで、当時一緒にライターとして編集部に入ったS君も協力してくれることになり、2人で打つことになりました。知らない土地に一人で赴き、黙々と打つというのも寂しいものがあるので、この時は非常に助かりましたね。ただ、釘はそれほど良くはなく、普通に打ったらまず負けるような状況でした。辛抱強く止め打ちを続けることによって投資が大幅に抑えられ、何とか勝ちにつながるような、そんな感じだったように覚えています」

―そして原稿も書き上げたと。

「そうですね。あまりカタくならないよう、面白く盛り上げるような感じで書いたような記憶がありますが、まあ実際自分できちんと実戦しているから、原稿のマス目がなかなか埋まらないということはなかったですね。ああ、そう言えばこの頃からワープロを使って原稿を書くようになったんじゃなかったかな。まだ慣れてなかったから、とりあえず下書きをワープロで書き (打ち)、それをプリントアウトして全体の流れや誤字、脱字をチェックし、指定の原稿用紙に手書きで清書すると、そんな流れでやってました」

―ワープロとは懐かしい響きですね。

「ワープロは偉大です (笑)。手書きの苦労から解き放たれたのは大きいですね。今でこそ、パソコン使ってこの悠遊道のコラムも書いていますが、使いやすさの点ではワープロの方が上回っていると今でも思います。何と言っても画面が固まったりする心配がない。パソコン (mac) を使い始めた頃は突然のフリーズに悩まされたりしたものですが、まあ今はもうそんな不安定なことはないですし、webで色々と検索しながら原稿も書けますから、いい時代になったとは思います。あぁ、それと蛇足ですが、担当の編集者は今や誰もが知る万発さんでした」

―ほぅー、大崎一万発氏ですか。

「彼は一足先に編集者としてG誌編集部で働いていました。文庫本の時にも色々と見てもらっていたのですが、何度か話す機会があり、パチンコは一発台と権利モノがいいと意気投合したこともあってか、ダウンタウン2は僕に書いてもらおうと、そんな流れだったような気がします。彼とはその後も権利モノや連載ページで一緒に仕事をすることになるのですが、まああの頃は楽しかったですね〜。90年代前半は連チャン機やら爆裂権利モノやら、パチスロの方も結構無茶苦茶やってましたし、今思うと信じられないですよね。表向きの仕様と全く違う仕様の機械を堂々と出していたのですから、そんな業界、他にないでしょう」

―その意味では、現行の機械は中身がどうなっているのか良く分からないということはないですよね。

「まあ、中身が分かっていれば、この機種はギャンブル性が高すぎるから自分は打たないとか、そのような判断ができますし、やはりあの頃は楽しかったけど異常でした (笑)。次回は色々と物議を醸した機械について話していければと思います」