□月◎日

本日は昼過ぎから稼働。某連載の為にパチンコを打つべき日だったけど、目的の台が埋まっていたためにパチスロコーナーに移動する。パチスロに関してはここ最近「バイオ7」にご執心で2日に1回はブン回しておるゆえ、しょうがねぇな今日もまたベイカーファミリーを無茶苦茶にしてやるかと思いつつ腕をグルングルン回しながら向かったところこちらも満席。過疎店なれど、たまにはこういう日もある。マイホの稼働が増えるのは喜ばしいことなので、なんも関係無いくせによしよしと頷きながらバラエティコーナーへと向かった。

とはいえ、空手で来てるので台選びになんの材料もない。ここは適当にカドに座ってバイオの空き待ちをするか……と、かの機種の動向が確認できるほどほどの位置にある「マジカルハロウィン5」に着座した。

一万円札をサンドに食わせ、メダルを借りる。

ボーナスがビッグに、ARTがレギュラーにカウントされるタイプのデータマシンなので、前のボーナスがビッグなのかレギュラーなのか分からん。そのどっちか分からんボーナスを本日は3回引いてる。ARTは無しゆえ、ボーナスが3回ともレギュラーだったらそろそろ結界防衛に入ってもおかしくなかろうて。と希望的観測を持って打つ。と、200ゲーム回してレア役が1回くらいしか来ないという実にストレスフルな状況になった。と、当初の目的のバイオが空く。あー、そっちに行きたい。けど、地味に天井が近づいて来つつあるので辞めづらい。

やっぱ決め手が無いまま中途半端な気持ちで詳しくない台に座ると良くないなぁと反省しつつ、久々に来た強めの演出からスイカを揃える。ボーナス重複してねぇかな。あるいは魔界来い。

「お!?」

思わず声が出た。魔界ステージだ。スイカ成立時の1.5%で移行する特殊ステージである。ここでボーナスを射止める事ができれば最上位ARTである「スーパーカボチャンス」に突入が確定する。が、今まで5回くらい魔界入りしたことあるけどボーナスは一回も引けた試しがなく。今回もどうせスッと抜けるんだろうなぁと半ばあきらめていたところで、今までたまりにたまった引きがゴリゴリに炸裂し……。

 

 

左チェリーから挟んだところサクッとリーチ目(たぶん)が出る。やったよスーカボじゃんこれ。いただきマッシュ! 途端に機嫌が良くなりマスクの下でおもいっきりニヤけながら青7ボーナスを消化し、5では初めて引くスーカボ待機状態(通称:宇宙)の画面を拝む。平均獲得枚数は大したことないけど、この機種は正直ART中のボーナスのヒキ次第だしとりあえずART5連+80%ループが確定するスーカボの恩恵は非常にデカい。

あーこれは今日は爆裂ですわいと思いながら、一度離席。長期戦に備えてタバコを吸い、トイレも済ませてコーヒーを買ったあと戻ると、筆者のスーカボの隣にお客さんが座っていた。若い女性である。明らかにOLじゃないギンギンの金髪とミニスカ。この辺は場所柄こういう格好の女性が多い。おおかた吉原の風俗嬢かなんかだろう。こりゃあ現実世界でもカボチャンスである。着座してベッドボタンを押すと、普段とはちょっと違う詠唱チャレンジの画面が表示される。そこで気づいたのか、隣の女性も「おっ」という顔をした。フフン。ちょっと誇らしくなる筆者。済ました顔で押し順ナビを消化すると、ホール内にピロピロピロと祝福のファンファーレが響いた。スーパーカボチャンス、無事突入である。

さあ、隣のお姉さんにも見せてやるか! このご時世に。一撃万枚ってやつをよ! と手首をクイクイしながらカッコつけて消化する。

6連で終わった。獲得枚数400枚とかだった。

お姉さんは無表情だった。だけど「こいつカッコつけて手首クイクイいわせながら消化してた癖に400枚だった」と思われてるのがめちゃ分かったし、また、筆者は筆者で「はじめからスーカボなんか引いてませんけど?」という風を装っていた。

ああ、この感じはどこかで……。

 

下皿にも満たない枚数のメダルを消化しながら、筆者は思い出していた。あれは7年ほど前のことだ。池袋の喫茶店である。当時筆者が所属していた会社には、とても美人の営業がいた。やり手である。結構怖い人だったので恐れられてもいたけど、筆者はそこそこ成績が良かったので割と優しくされていた。何の流れか忘れたが、2人で昼飯を食うことになってどこかで待ち合わせ、喫茶店に入ったのだった。

「あしのくん、最近調子どう?」
「普通ですね。特に何もなく」
「そうですか。最近頑張ってますね」
「いえ、○○さんのご指導のおかげです」

筆者、めちゃくちゃカッコつけていた。基本、場末の居酒屋で唐揚げ食いながらビールとかのデートを好むので、美女とふたりで喫茶店……という都会的なシチュエーションに慣れておらず、したがって何かしらんが「ここはトレンディに行こう」みたいな感じに思ってしまい、事実、ちょっと声も低い感じで喋ったりしていた。

「来季の計画書、もう出来てる?」
「もちろんです。お見せしましょうか?」
「ううん。信じてるから大丈夫。ふふ」
「恐縮です」

喫茶店から外をみると、ちょうど梅雨明けの空に、虹が出ていた。

「ああ、虹だ──」
「あら、ほんとうね」

普段は死ぬほど砂糖を入れるくせにブラックでキメた豆汁。鼻腔をくぐるそのブラジリアンな香りと、右隣から僅かに漂う香水。目の前に張られたウィンドウの向こうには、大都会の建物の隙間にかかる、橋のような虹。トレンディである。筆者はちょっと考えて口を開いた。

「知ってますか? ○○さん。虹って、その足元にいる時は気づかないんですよ」
「……うん」
「それって、夢と同じだと思うんです」

コーヒーを飲む。たっぷり間をおいてタバコに火をつけてから、続けた。

「夢って、叶えようとする時には見えてるけど、実際叶ってしまったら、虹の足元にいる人とおなじで、きっと気づかないもの……なんでしょうね」

一拍の間をおいて、そうしてタバコを煙を吐き出す。言葉の意味はわからんが、とにかくなんかそれらしい感じで決まった。今のはだいぶトレンディだったろう──。

と、アゴに激痛が走った。

「イタッ!」

慌てて手で触って確認すると、なんかタイ米みたいな形のものが縦にぶら下がっている。つまんで確認すると、ハサミムシだった。うそだろう。と思った。思わず指でつまんだ虫を上司に見せる。驚愕の表情のまま、ふたりでしばし虫とお互いの表情を交互に見ていた。なんてこった。トレンディぶって虹だとか夢だとか言ってるときに、筆者のアゴにはハサミムシがぶら下がっていたのである。

「なるほどね……」

筆者は無言でそれを灰皿におとして紙ナプキンで手を拭うと、喉を鳴らした。さて。

「とにかく、虹の中に立ってる人って……」
「ちょっと待って! あしのくんちょっと待って!」
「……どうかしましたか?」
「続けるの? その話、そのまま続けるの?」
「? いや……はい」
「うそでしょう。ハサミムシがブラ下がってたのよ?」
「……え?」

首をかしげる筆者。ハサミムシなんかぶら下がってませんでしたけど。という感じの顔を作りつつ、もう一度コーヒーを飲んだ。そのままスンとした表情で我慢してたけど、3秒くらいして、思わず爆笑してしまった。

「ヒャッヒャッヒャッ! だめだ腹いてぇ! なんだよハサミムシって」
「ちょっともう、わたし途中から虫が登ってきてるのわかっててさぁ。いつ言おうかすっごい迷ってたもん。そしたらハサミでイーッてアゴをやるから、もうおかしくておかしくて……」
「もう、言って下さいよそれ……!」
「だってなんかカッコつけてるしさぁ……アハハハ!」

……。

400枚のメダルを飲ませ、離席する。隣の風俗嬢っぽい女子はもうどこかへ行ってしまっていた。ああ、と思った。

どうせなら、笑っとけばよかった。

 

【今回の収支】
対戦相手・マジハロ5
投資 690枚
回収 0枚

対戦相手・バイオ7
投資 1058枚
回収 1100枚くらい

対戦相手・バイオ7(2台目)
投資 368枚
回収 700枚くらい

対戦相手・北斗宿命
投資 460枚
回収 500枚くらい(バイオと合算で最終1362枚)

対戦相手・ピラミッドアイ
投資 46枚
回収 0枚