いわゆる「異世界転生モノ」をはじめとしたライトノベル版権のパチンコ・パチスロ化が相次いでいる。

この流れは言わずもがな、6号機序盤のやべぇ状況のなかで大都技研の「Re:ゼロから始める異世界生活」が飛ばした約8万台のスマッシュヒットに端を発しているのだが、そもそも当該作は「小説家になろう」という自作小説の投稿サイトで人気を集めたのちにKADOKAWAから書籍化された作品である。「なろう」というのは小説の投稿サイトで、その名の通り「小説家を目指す若者(※おっさんもたくさんいる)」が自作の小説を執筆し、それを無料で公開することが出来るプラットフォームである。従ってこれ単体でマネタイズできるものではなく、執筆者がそうしたいのであれば「出版社の目に止まりますように」「本になりますように」というチャンスに賭ける必要がある。

少々意外かもしれないが「なろう」を運営する株式会社ヒナプロジェクト自体は出版業務を行なっておらず、従って当然各種権利に関しても関与していない。出版の打診があったら作者と出版社の間で個別に契約を結ぶことになるので、「リゼロ」の場合は作者と「KADOKAWA」の契約に則って出版等が行われている。もちろん選択肢はKADOKAWAの他にも色々あり、例えばスクエニや講談社などはラノベの出版に対して積極的な姿勢を取っていることで知られている。が、KADOKAWAは古来より「ファンタジア文庫」「スニーカー文庫」等で日本のファンタジー小説を引っ張ってきた歴史がある上、メディアメーカーとして過去覇権を獲りかけていたアスキー関連会社である「メディアワークス」「エンターブレイン」を傘下に収めており、ラノベ・ファンタジー関連ではちょっと太刀打ちできないくらい強い。例えば「とある魔術の禁書目録」はもともとメディアワークスのキラーコンテンツだったが現在はKADOKAWAから出版されてるので、まあそういう事である。

ともあれ、「リゼロ」によりラノベの旨味に気付いたメーカーが「ラノベ版権」を求め一斉に打診したのは想像に難くなく、サミーKADOKAWAコラボとして「この素晴らしき世界に祝福を!」「幼女戦記」「盾の勇者の成り上がり」、オーイズミからは同じくKADOKAWAの「オーバーロード(2作)」、藤商事から「とある魔術の禁書目録」「とある科学の超電磁砲」(ともにKADOKAWA)、さらに今後のラインナップとして確定ベースでは藤商事の「ゴブリンスレイヤー」(SBクリエイティブ)、大都技研の「ソードアート・オンライン」(KADOKAWA)が予定にインしているという、一部SBが入ってるがあとはKADOKAWAなので、まあそういう事である(2回目)。

もちろんラノベのパチスロ化、というのは過去からあったはあった。

例えばラノベといえばこれ! くらい有名な「涼宮ハルヒの憂鬱」は2016年に5.5号機でパチスロ化されているし、北電子からは「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているのだろうか」が本編が5.9号機・外伝が6.4号機と、都合2回パチスロ化されている(両方とももちろんKADOKAWA)。が、いずれもパチスロとして「ヒットした」とは言えず。市場全体にパラダイムシフト的なインパクトを与えるには至らなかった。実際は「ラノベ」の中でも特に「異世界転生」「異世界転移」「悪徳令嬢」「パーティ追放」「領地運営」「幼女育成」「チートスローライフ」などを主題にした「なろう系」は2013年頃から内容の大枠自体はほぼ変わっておらず、個人的には「転生したらスライムだった件」でもう完成してしまったと思っている。もちろん「オーバーロード」「幼女戦記」のような規格外の作品はあれど、ほとんどは先人が作りし大枠を守りつつ、中身の味付けで勝負しているし、そしてそれがバンバン書籍化されては受け入れられている。

この辺のフィーリングは90年代に列島を覆い尽くした「小室プロデュース曲」に非常に近い。つまり歌詞もメロディもだいたい同じなんだけど歌ってる人が違うから大丈夫みたいなノリである。ちょっとわかりにくいと思うので凡例を挙げよう。

【なろう系における小室システム】

1)主人公はうだつの上がらない会社員あるいはコミュ力に不安を抱える学生
2)1話目で死亡(※開幕トラックという)
3)神・女神・精霊等の超越存在によりチート能力が与えられる
4)平原で目覚めまずは「ステータス!」と叫ぶ、または貴族か奴隷かどっちかの家で赤子として誕生し美人のママのオッパイに顔を赤らめる
5)どっかのタイミングでゴブリンあるいは盗賊に襲われている馬車か負傷したパーティを救出
(馬車コースの場合は貴族や大商人の娘が乗車している事。またパーティの場合は全員女性メンバーであることが必須)
6)3話目くらいで冒険者ギルドに登録、受付嬢はメガネ巨乳あるいはスレンダーエルフもしくはケモミミ幼女
(ここで冒険者制度の説明を入れ、作品間の細かいルールのギャップを解消する。通貨の説明もこの辺で行う)
7)8話目くらいでドラゴン討伐。強さよりも「アイテムボックス」のデカさで周りをビビらす
8)10話目くらいまでにプリンや綿あめなどのデザートを作成
9)13話目くらいまでにヒロインたちと混浴
10)18話目くらいで絶滅したと思われた魔族が出てくるか魔物の大氾濫(スタンピード)が起きる
11)世話になった街をサクッと救って次の街へ
以下、作者が飽きるまでループ

これは「神様にチート能力をもらって異世界でハーレムを作る」系のジャンルのテンプレである。冗談と思うかもしれんがいわゆる「なろう系」の話の最大公約数はマジでこれであり、あとはどういうチート能力を使うかの味付けで勝負する。なんでそうなってるかというと、そもそも「なろう」がプロに向けた場でもなんでもなく、初めて物書きするような初心者を含む人々の発表の場だから。つまり小室システムのようなテンプレートがないと書けるわけがないのである。そしてそれ自体は全然悪い事じゃない。そうやって人に読んでもらいながら書き方を覚えて、いずれオリジナル作品を書けるようになればよいのだから。批判するのがおかしいのだ。

んでマジでこういうのばっかのなかで、パチスロになってる作品群をはじめとする、オリジナリティのある作品群のなんと面白いことか。

「リゼロ」であれば「死に戻り(タイムループ)」、「幼女戦記」であれば「航空戦闘機を魔導師に置き換えた架空戦記」、「ダンまち」であれば「神と人間が同じ次元に存在する世界観」、「オーバーロード」であれば「徹底してぶち込まれた中二要素と極端すぎる俺ツエー感」など、一部導入部にテンプレを用いつつも本質的には完全にオリジナルであり、しかもどれもこれも珠玉の名作である。

そして、だからこそ! これらがパチンコ・パチスロ化されてるのである。筆者、一ヶ月にまあまあな冊数「なろう原作」の漫画を買ってるけども、正直8割くらいはクソ原作だと思う。これは書いてる本人が悪いんじゃなくて、打診してる出版社が悪い。まだプロ作家にするのは早いのだそういうのは。テンプレ使って書いてるんだからそりゃ読める。が、それだけなのだ。

「最近ラノベがよくパチスロ化されるなぁ」と思ってる方もいっぱいおられるとおもうけども、その作品の足元の分厚い氷の下には無数のテンプレ作が蠢いている。その膨大な総数からすると、まだまだ「パチスロ化されてる作品は、極上の上澄みの部分だけ」というのを一回飲み込んだ方がいいだろう。ちょっと取得版権の要求クオリティを下げたら地獄みたいな事になるし、すでに深夜アニメはそうなりつつある。

そういう意味では、パチスロメーカーはちゃんと選んで取ってんな、と思いましたまる。