年末といえば、おそらくまったく需要のない大河ドラマの感想を書くのが定番となっています。……ということで、パチスロのパの字も出てこない回でございます。ご愁傷さま。

大体、年末は書き物が溜まっているだけでなく、ネタも不足気味なので我ながらナイスと思っていましたが、今回の「青天を衝け」。残すは最終回のみとなっております。今回も途中感想。コロナ禍もあって最終回が2月までズレこんだ「麒麟がくる」に引き続き、上手くいかないものですな。

 

面白かった、面白くなかった……で言えば、面白かったです。「日本資本主義の父」であり、約500社の設立や経営に携わり、東京商工会議所や東京証券取引所も作った渋沢栄一(演:吉沢亮)が主人公。戦にも絡んでいませんし、派手なことも少なさそう。なんて不安は確かにありました。活劇にはなりにくい。そんな想像をした人は初手からパスだったでしょうね。新一万円札の肖像画になった経済人くらいしか知らない人も多いでしょうし。

しかし、しかし。戦とは縁がなくてもなかなかに激動な人なのです。農民(といっても裕福なほう)の出身で、そこから一橋家の家臣に取り立てられ、一橋慶喜が将軍となったことにより幕臣へ。そして、明治維新後は経済人となっていきます。成長して立身出世という大河ドラマ的な要素はクリア。コロナ禍もあって、大掛かりな合戦シーンも難しいでしょうし、タイミング的には良い素材だったなと思えます。肝心な時にパリに行っていて日本にいませんし。

戊辰戦争や八月十八日の政変などの戦に直接絡んでないといっても、幕末モノなわけです。明治期以降の三井や三菱との経済的な戦いを長々と見せられても興味は続きません。そういった意味で、徳川(一橋)慶喜を準主人公と位置付けて江戸時代に時間を割いたのは大正解だったでしょう。ストーリーテラーとして徳川家康(演:北大路欣也)が登場したのは驚きでしたが。

裕福なほうとはいえ、庶民目線で描かれた幕末。藍染や養蚕や風土。農民の子供でも、学んだり剣術の稽古をしたり、尊王攘夷の思想が入ってきたり。脚色はあろうかと思いますが、場所や仲間が変われば、松下村塾にも土佐勤王党にも新撰組にもなり得る。何がベストかは分からないけど、世の中を“どげんとせんかいかん”と思う若者が育まれる状況だったのは類推できました。「龍馬伝」や「花燃ゆ」「西郷どん」の背景とも整合性が取れているように見えました。

 

○NHK的には、慶喜ってどっちなのよ?

ちょっと引っかかったのは、その徳川慶喜(演:草彅剛)の描かれ方ですね。理知に長けた名君として描かれました。元SMAPの好感度の高さという説得力もありました。渋沢栄一といえば、むっちゃ慶喜Loveなわけです。劇中でも触れられましたが、汚名を返上したいと『徳川慶喜公伝』の編纂に携わったくらい。

でも、思い返してみると。たった3年前の「西郷どん」では、徳川慶喜が日本の一部をフランスに割譲しようとしたから……という史実にない理由で倒幕されることとなりました。確かに諸説ある人物ですが、振れ幅が大きすぎやしませんかね。NHK的にはどっちなのよ。見ている人に判断を委ねるほどの自由度と材料は与えられることはなかったように思えます。「西郷どん」では一方的な優柔不断の悪。今回は即決できる善。真逆です。

“勝てば官軍”という言葉があるように、長州を題材にした「花燃ゆ」は、おにぎりを結んでいればオールOKでしたし、薩摩の「西郷どん」は一緒に鰻を捕まえていれば良い奴でした。で、都合の悪いことはテヘペロ。それと同様に幕臣側からの目線、慶喜Loveな目線で書かれた自伝や伝記を鵜呑みにしすぎかなと。二心殿と揶揄されていた慶喜だけにどちらもアリかもしれませんが、諸説ありの極論部分だけ見させられているような気がしてしまいました。

佐幕派も倒幕派も。どちらも正しい部分と誤った部分があって当然で、そこを描いてこそ重厚な大河ドラマかな。特にせっかくの負けたほう視点。そういう点では「八重の桜」を越えられなかった感はあります。主人公が崇拝しているという補正材料だけで返上できる汚名ではないですね。3年前の嘘は。要は「西郷どん」が悪い(笑)。

 

○最終回への伏線?

一人だけですが妾にも触れられました。これは一人も出さなければ美化が過ぎると思ったか。明治の初めなんぞそんなものです。そんな家庭のいざこざといえば、物語も佳境を迎えている中で女に現を抜かした長男を廃嫡にする話と、そのまた長男(栄一の孫)に後継者になって欲しいと頼むシーンが、合わせて1話半ほど描かれました。

正直、栄一だけの生涯や功績には重要な話ではありません。しかし、このお孫さん、終戦時に三井や三菱といった財閥解体を任されるのです。その際、GHQからの解体リストに渋沢財団はありませんでしたが「それでは国民が納得しないだろう」と、すすんで会社の経営権を握らない程度に株式を手放したとか。

栄一が多くの会社や日本経済を作ったのは、日本を豊かにして多くの国民を笑顔にするため。そのように綺麗な熱血感として描かれましたが、タイプこそ違えど、その精神をお孫さんが引き継いでいたと受け取れる逸話でしょう。これに触れないのであれば「なんで廃嫡に1話半も使ったの?」ということになってしまうので、最終的な評価は最終回まで確定させることはできませぬ。いや、もっと良いエピソードがあるのかもしれませんけど(笑)。

 

さてさて。一橋家臣の平岡円四郎を演じた堤真一さんが素晴らしかったです。MVPかな。暗殺される際の刺客は水戸藩士だったはずなのに、チェストこそなかったものの薩摩藩士のような掛け声でしたが。すんません、そういうの気になっちゃうタイプです。主演の吉沢亮さんも良かったですけどね。老け役が似合わないというか、お札にもなっている晩年とは似てないというか。いつまでも若々しい印象。歳だから隠居すると言われてもねえ。

ということで、最終回直前までですが。伝記や自伝が中心なので幕末の主張は多少割引く必要があるものの、及第点以上の良作だったかと思います。深いことを考えすぎずにダラっと見るのであればなお良し。一緒に人生の旅はできました。正直、始まる前はあまり期待していなかったんですけどね。江戸と明治の分量など、いつもより短い10ヶ月なのも幸いしたかもしれません。総集編はきっと面白いと思います。お札になる人ですから、ちょっと知って損はないかもしれませぬぞ。

あ、一応書いておきますが。幕末といえばの新撰組ファンの方、池田屋事件も含めて近藤勇は影が薄いです。従兄弟の渋沢喜作が箱館戦争まで転戦したので土方歳三推しです。悪しからず。あとナレ死は多いです。この人も!? といった感じ。

今年もパチスロと関係ない話で終わりましたが、みなさま良いお年を! 来年の「鎌倉殿の13人」も見ます。ちなみに、大学では鎌倉文学のゼミにおりました。卒論は平安文学にしましたが(笑)。