スロットの月間売り上げ1億円を達成した事で閉ざされたハズの釘師の扉が再び開き始めようとしていた。

これからどうなるのだろうか・・・

いままでの様に次長から釘を教えてもらう形になるのか?

社長が言っていた条件と、未来へ通用する釘師ってなんだろう?

会議から数日が過ぎたある日、本部より呼び出しがかかった。

本 部 『来月からマネージャーへ昇格する事が幹部会で決まりました。』

ゆきち 『それはスロットとパチンコ両方任せてもらえるという事ですか?』

本 部 『もちろんそうなります。次長は釘調整の指導に夜だけ入ってもらいます。』

ゆきち 『社長が言っていた条件とは・・・何でしょうか?』

社 長 『現状のモーニングを無くしていく方向で調整してください』

ゆきち 『モーニングを廃止ですか…』

社 長 『近隣の店もいつまでも黙っていないでしょうし、警察が動くと面倒ですから・・・』

社 長 『もう昔のように何でもアリの時代では無くなりつつありますからね。』

ゆきち 『は、はい!わかりました』

何でもありの時代では無くなりつつある…。
イケイケ社長から出た言葉とは思えない意外なフレーズだった。

しかし、何はともあれ念願だった釘師のポジションは、マネージャーと言う形で手中に収める事が出来た。

任されたお店は設置400台弱の駅前中規模店。
パチンコは権利物・CR機・時短機・羽根モノを設置で稼働のメインは3回権利物。

スロットはAT機、ストック機が設置の50%
残りがノーマルAタイプを設置、利益の殆どをAT機とストック機で稼ぎ出しノーマルAは薄利で調整していた。

主な営業条件は※
【※詳細な説明は文末に記載しています】

【パチンコ】
42玉低交換
CR機・現金機は※ラッキーナンバー制
権利物は※1回交換
羽根物は5000個※定量

【パチスロ】
8枚交換
無制限(※ノーパンク)

そんな昭和の香り漂うハウスルールのお店ではあるが平均稼働(アウト※)はP38000 S21000の高稼働、売り上げは1日に平日で1800万 土日祝日は1日2200万の売り上げが上がる超優良店の部類…

ミリオンゴットの導入やスロットの売り上げが爆発的に上がった事もあり、月間の総売上高は6億円を超えようとしていた。

これだけの大金が動く店舗を任されるのだから給料もさらに倍増し、あと少しで7桁の大台に届く金額まで支給された。

命ぜられた1か月の粗利は月額6000万円を確保する事…
ミリオンゴット導入前から月間粗利は月5000万円だったので楽勝で達成できる数字だと思った。

夢にまで憧れたガラスの向こう側の世界、ようやくたどり着いた理想の場所…
2002年(平成14年)7月31日(水曜日)営業終了後からスタートとなる。

通常通りスロットの設定を終え、調整の指導を受ける為に次長の到着を待っていた。

普段ならモーニングを入れる為に時間がかかり、まだ作業中のはずだが設定変更だけとなると数分もあれば終わってしまう…

モーニングを楽しみにしている常連からはクレームが出るだろうが、社長命令でもあるので無視する訳にはいかず、今後は別の方法で集客を伸ばして行かなくては…

これから先の事を考えている時に次長が現れた。

ゆきち 『おつかれさまです!』

次 長 『おぅ!いよいよやな♪』

ゆきち 『は、はい!よろしくお願いします。』

次 長 『じゃあ早速!』

次 長 『とりあえずワシから教える事は何もない!』

ゆきち 『えっ!』

次 長 『思うように好きにやったらええのとちゃうか(笑)』

ゆきち 『えぇぇぇぇぇぇーーーーーーー』

ゆきち 『そ、そんな・・・』

次 長 『好きなようにやりたかったんやろ?一応何をしてるのかチェックはする』

ゆきち 『そ、そうなんですか』

次 長 『ちゃんとみといたるw』

次長は指示を出した所でブドウ事件の様に勝手に突っ走るタイプだから、好きにやれと言った方がコントロールしやすいと思ったのだろう。

完全に見透かされていた(笑)

次 長 『さぁどうする。開けるか?閉めるか?』

次 長 『まさか、いまさら命釘の叩き方を教えてくれとはいわんよな(笑)』

通常営業の調整において羽根モノ以外で※玉ゲージを使う事は殆どなく、基本は※板ゲージと呼ばれる道具を使い命釘の開け閉めを行っていく…

この調整はブドウ畑事件を起こす前から何度も練習していた事だし、釘道具を没収されて以降も密かに練習だけはしていた。

ゆきち 『板はだいじょうだと思いますけど・・・』

ゆきち 『開け閉めの基準はどうしてるんですか?』

次 長 『お前はスロットの時どうするんや?それと同じ考えでやればいいのや』

確かにその通りだ(笑)

スロットは明確に設定と言う数値があり、それを変えて出率を調整するように、パチンコでも同じことをすれば良いのだ。

ただし!設定は誰が打ちかえても同じだが、パチンコは調整する人によって出率が変わってしまうという事。

※釘帳を眺めしばらく考えた結果…

ゆきち 『わ、わかりました!全台据え置きでそのまま営業します!』

次 長 『よし!分ったじゃあ帰ろうか(笑)』

本当はデビュー初日から釘をガンガン触って行きたかった。

しかし釘帳をみると数日前から小まめに修正が加えられ、ほとんどの台のスタートにムラが無いよう調整されていることに気が付いた。

これは次長の目が届かないところで自分が勝手に触っても気がつくように、あらゆるところに仕掛けをしているのだと気が付いたからだ。

それともう一つ、スロットを管理する上で利益計画書を作り、どの機種からどれくらいの割合で利益を積み上げていくか?

日次、週次、月次単位で計画している台帳の様なものをパチンコでは全く用意していなかった。

これは次長からの指示を待っていた表れで、スロットの時の様に言われる前に先に考えて用意しておく計画性が無かった…

こんな無計画な状態で1か月6000万の利益をどう達成するのか(笑)

慌てて自宅に戻りスロットと同じように利益計画を作成する事にした。

2002年8月の利益計画書ではスロット2500万・パチンコ3500万の合計6000万の粗利を予定、平日は売り上げの7~8%、土日は売り上げの10~13%それぞれ利益目標として設定した。

翌日以降も釘を触ることなく調整はスロットのみ、そのまま1日・2日・3日の営業を終え週末前夜の夜を迎えた。

4日5日の祝日の利益計画では売り上げの13%を計画している、この3日間の利益率平均は8%…

どう考えても釘を締めなければ利益を達成できない。

次 長 『おつかれさん!』

ゆきち 『お疲れ様です。』

次 長 『今日はどうするんや?』

ゆきち 『週末なんで、スロット・パチンコ共に取りに行きます!』

次 長 『そうか!じゃあ締めやな』

ゆきち 『はい!全台均等に一枚づつ締めて行こうと思います』

ゆきち 『羽根モノはどう閉めれば良いですか?』

次 長 『風車下の釘2本使って玉ゲージで締めればいいわ』

ゆきち 『風車下ですか・・・』

次 長 『そうや!言うてなかったけどな、羽根モノは釘師さんがおるから』

ゆきち 『えっ!そうなんですか、次長が触ってるのと違うんですか?』

次 長 『わしは、たまに出過ぎた台を閉めたり、取りすぎた台を開けたりしてるだけや』

次 長 『ほとんど触ってないよ。見たこと無いやろ・・・』

ゆきち 『・・・・・』

スロットの調整に夢中で、ここ最近は釘調整をしている次長の姿を殆ど見ていなかった。

記憶をさかのぼっても、羽根モノを触っている記憶はほとんどない…

次 長 『触るなら釘帳にキッチリ開け閉め書いとけよ・・・』

ゆきち 『わ、わかりました。』

意外だった。羽根モノの釘を触っている人物が別に存在していたなど…

羽根モノの売り上げは1日10万円程度、1日で1,800万円売り上げる店の利益構成の中で重要度は低く、月次では必ず利益0になるように調整されていた。

が、その調整は次長ではなく釘師さんが入っていた事に戸惑いを隠せなかった。

どんな人だろう…

フワフワと頭の中で、その人物像を空想し権利物・CR機・現金機の釘を締めていった。

心ここに有らず。

いつ?

どうやって?

なんで?

持ちたくて仕方なかったハンマーを握りしめ、ぼんやりとガラスの向こう側に見える景色を眺めていると、まだ自分は憧れの場所には到達していない…と、思った。

次回更新へ続く

いつも読んでくれたありがとうございます。
ガラスの向こう側へ、いよいよ釘調整の部分に入って行きます。専門用語も多く登場してきますので、判りやすいように専門用語には※をいれて文末で説明をいれますので、文中読みにくい所はありますがご勘弁下さい。

それでは今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

※ラッキーナンバーとは、3・5・7決められた数字(絵柄)で当たると次にアウトナンバー(4・9)などの指定された数字で大当たりするまで持ち球で遊べる形態をラッキーナンバー制と呼びます。

※1回交換とは文字通り大当たり終了と同時に出玉を全て交換し再度現金でプレーする事を言います。

※ノーパンクとは主に関西地方で使われていた言葉で無制限を意味します。無制限とは大当たりで獲得した出玉を制限なく終日持ち球でプレーできる権利をそう呼びます。

※定量制とは羽根物などで一定の玉数を獲得すると終了となり、出玉を全て交換した後に再度現金でプレーする形態を定量制と呼びます、店舗によっては一度終了した台を同日中は打てないなど様々なハウスルールがある場合があります。

※アウトとはお客様が打った総玉数の事を言います。パチンコ店ではこの数字を重要視します。文中にあるP38000とは1台あたり38000個の玉を打ち込まれたという事です。

1分間に玉は100発飛びますので1時間で6000発12時間で72000発の計算になりますが、保留玉、離席時間、リーチ発生時に打ち出しを止める時間を考慮すると時間あたり4000~5000個低度の打ち込み、一日12時間営業で50000個入れば終日満席の大活況と言うレベルの数値になります。

※釘帳とは各台のアウト、スタート回数、ベース(戻し率)、差玉、特賞回数などが羅列された帳面の事を言います。そこに記載された数値を、前日や週間で比較、また当日のスタートの上下誤差などを確認し釘調整の参考にする重要なものです。

板ゲージ。主に命釘のピッチ(釘間隔)を調整するために使用します。文中に書かれている当時の板ゲージは0.25ミリ刻みの物を使用しています。現在では0.1ミリ刻みの物を使用することが多いですから、板1枚と言っても過去と現在では大きな違いがあります。