ようやくたどり着いたガラスの向こう側の世界…。

パチプロを辞め釘師になると一大決心し、理想郷へと続く道をひたひたと歩いている実感はあった。

決して楽な仕事では無かったが、好きだから、やりたいことだからこそ夢中でいられたのか?辛いと思う事は一度も無かった。

当時の勤務状況は、朝の開店準備で8:30に出社する所から始まる…。

店に到着すると、先ずはセキュリティーシステムの解除を済ませ自分の背丈より大きな金庫を開ける。

その金庫の中には両替用の紙幣や、支払いの為の現金が入っており、全て1万円札ではなく、その半分以上は1000円札、500円、100円硬貨も含まれており、その額1500万円ほど(笑)

紙幣はドル箱にびっしりと100枚単位で満タンに、硬貨はスロットのメダルの様にドル箱に数十万円単位で入っているのだが、この大量の現金を、当時勤めていた店の構造上、一旦事務所から屋外へ持ち出す必要があり、店長の私は公休日も必ずこの作業に立ち会わなければならなかった。

この店に勤めている間は、やはり現金を外に出すという行為は恐ろしいほどの緊張感があり、こちらはスタンガン、バット、特殊警棒を装備した従業員に護衛はされてはいるものの、所詮は素人、相手が拳銃を持って来たら…と、不安で仕方なかった。

一度だけ危ない事が有ったが、相手は一人だったので大事には至らずバット一撃で仕留める事ができたのだが、あまり詳しく書くとお店が特定されてしまうのでやめておこう。

大量の現金をホールに運び入れ、会計責任者に引き渡すと事務所に戻り、ホールコンの前日データーを消去すると店長としての仕事は落ち着く。

当時は入場整理券の配布はなく、店の入り口に並んだ順に入店するので、物を置いて場所取りしていないか?チェックした後に、いつもの常連達が他店に並んでないか?と、他店の開店前の状況を自転車でフラフラ偵察に行ったついでに喫茶店で朝食を済ませるのが日課であった。

開店して暫くは、島の設備や故障などトラブルが起こり易いが、お昼を過ぎた辺りになると、店長としての仕事は、ほとんどなくなり自由時間となる。

利益目標と稼働計画をシッカリと達成していれば、文句を言ってくる社風では無かったし、連絡さえつけば何処で何をしていても怒られない素晴らしい会社だったので、自由時間ができると馴染みの雀荘に行き、メーカー営業マンと業界話をしながら麻雀を楽しむ事が、これまた日課となっていた(笑)

夜の9:00頃になるとお店へ戻り、売上、稼働率のチェック、ホールコンからその日のデーターを印刷して釘帳の準備、翌日の設定、釘のアケシメを釘帳に記入した頃には24:00頃、その頃にはつり銭や売上金の回収も終わり、金庫にお金をしまってから調整の仕事が始まる。

先ずはスロットの設定、次にCR機、権利物の調整を行うと深夜1:00を過ぎた辺りになり、スロットは設定キーを差し込み数字を変えるだけ、CR機、権利物は板ゲージを使い命釘のサイズを変更するだけなので、300台程度なら1時間もあれば十分だが、羽根モノに関しては板ゲージサイズで調整するとスグに見破られてしまうので、玉ゲージを使い念入りに試し打ちをしながら釘調整をしていた。

全ての調整が終わりお店を出るのは、深夜4時過ぎ…

これが365日、毎日続いたのだが、辛いと思う事は一度も無かった。

本当の所、羽根モノの釘調整はもっと早く終わらせる事はできたが、釘師南部さんが深夜にお店に顔を出すので頑張っている姿を見ていて欲しかったし、南部さんの調整技術の素晴らしさを少しでも吸収して自分の物にしたかった。

そんなある日、いつも通り閉店準備をしている所に次長がやってきた。

ゆきち 『おつかれさまです!』

次 長 『おつかれさん。毎日がんばっとるの~♪』

ゆきち 『いやぁ~(笑)まぁ楽しいですからね♪』

次 長 『ミリオンゴット外さなアカンようになるらしいぞ…』

ゆきち 『ああ、アルゼの林田くんから聞いてますよ♪検定取り消しになるかもって…』

次 長 『なんや余裕やの…(苦笑)』

ゆきち 『やりすぎですからね(笑)外しても他にまだまだいい機種はありますよ♪』

次 長 『でも売上は下がるやろ?』

ゆきち 『そりゃ流石にコイン単価10円なんて機械、Bでもやらなきゃ無いですからね(笑)』

次 長 『まぁ策があるなら次の幹部会で話できるように準備しとけよ…』

ゆきち 『わかりました!』

次 長 『売り上げ下るから、今度の幹部会は荒れそやで!』

ゆきち 『そ、そうなんですか』

当時、平日の売り上げ平均2000万円、土日祝日2400万。粗利13%で月間6000万の粗利計画で動いていたが、その売り上げの多くを支えていたのは、ミリオンゴットを始めとした4号機と、長く使っていた権利物…

スロットの検定取り消し騒動は以前から聞いていたので何時かは終わりが来ると覚悟していた。が、それとは別にみなし機問題の話も上がり始めていた、さらにメーカー営業マンが納品時にお店で釘を叩かなくなるなど、風向きが変わり始めている事を感じずにはいられなかった。

その数日後、幹部会が招集された。

社 長 『ミリオンゴットは何れ外さないと駄目なのですか?』

ゆきち 『その可能性は高いと営業マンから情報が入っています。』

社 長 『他に入れ替えた場合、売り上げはどうなりますか?』

ゆきち 『売上の現状維持は出来ません!ですが変わりなる機種の候補は複数あります。』

ゆきち 『スロットの機種選定と調整は自信がありますので安心してください。』

ゆきち 『ミリオンゴットの性能上、他と比べればコイン単価はどうしても落ちます』

ゆきち 『売り上げは落ちますが、月間の粗利益、稼働を落とすつもりはありません。』

社 長 『そうですか。わかりました、それでは任せます。』

常 務 『その落ちる売り上げ分を他でカバーする方法はないんか?』

常 務 『スロットの規制が入ってこれから厳しくなっていくかもしれんし』

常 務 『それにパチンコはCR機の規制が見直されて売上があがる噂がでてるやろ?』

ゆきち 『まだ確認はとれていませんが、そのような話は聞いてます。』

※後に遊技機の規則改正2004年(平成16年)が行われ、パチンコに500分の1タイプが登場、確変突入率の上限も撤廃されるのだが、この頃、スロットは規制強化、パチンコが規制緩和されると言う噂が流れていた。

常 務 『それなら、パチンコの入替も考えて現状維持の話をせんかい!』

常 務 『羽根モノ外して、そこに売上あがる機械入れたらええのとちゃうんか?』

ゆきち 『機種バランスもありますし、遊べるコーナーは必要かと考えています。』

常 務 『そんなもん!遊びたい客はよその店に行ってもらったらええんや!』

ゆきち 『はぁ?それは単価の安い客はウチに来なくて良いってことすか!(怒)』

常 務 『わしら商売でパチンコやっとるんじゃ!眠たいこと言うとったらアカンぞ!』

ゆきち 『えらい変わりようですね!』

ゆきち 『ミリオンゴット最初に入れるとき反対した人の意見とは思えませんね!』

常 務 『なんやお前!喧嘩うっとんのか?』

ゆきち 『本気でパチンコ打ったこと無い人に何がわかるんですか?』

ゆきち 『ミリオンゴットは客があんなにお金使う理由わかりますか?』

ゆきち 『それと同じくらい稼働してる羽根モノをお客がなんで打っているかわかりますか?』

次 長 『ゆきち!!やめい!会議中やぞ…』

ゆきち 『…』

数字だけ見れば利益計画を実行していくうえで、羽根モノや普通機は足手まといになる…それは店長やお店を管理した事がある人なら誰でも分かっている。

パチンコ台は同じ規格で作られ、同一機種であればどこのお店で打ってもスペックは同じだ…。

そんな金太郎飴の様なパチンコ台、人気機種をたくさん並べていれば儲かるのか?と言われれば決してそうではない。そこには機械の配置や配分、お店の客層に合わせて調整する人の技術や思いが詰まっているからパチンコは繁盛する店としない店に分かれると考えていた。

『遊びたい客はよその店に行ってもらったらええんや!』という言葉にカチンと来た私は幹部会で感情的になってしまい常務との確執を作ってしまう。

次回更新へ続く