ゴト師に狙われたスロット店、不正に気付いた時にはもう虫の息。しかし、そんな弱者に奴らは容赦無く襲い掛かる。

赤井店長からSOSが入ったのは不正部品撤去の数日後だった。

赤井店長【も、もしも~し!…ゆきちさ~ん!だ、大至急お店に来て下さ~い!】

ゆきち【どないしたんですか?】

赤井店長【み…み、見たんですよ!】

ゆきち【何を…?】

赤井店長【さ、さっきですね~客が台を開けて中をゴソゴソ触ってました。】

ゆきち【それ、客とちゃいますやん(笑)ゴト師ですよ…】

ゆきち【まだそいつら店に居ますか?】

赤井店長【帰りましたけど…】

ゆきち【じゃあ!後から打ち子が来るかも知れんから、すぐに開けられた台の電源を落として下さい!】

ゆきち【僕は中馬さんに連絡して、すぐそっちに向かいますわ!】

ゆきち【あっ!それから…店には客のフリして入りますから、声はかけないで下さいね!】

赤井店長【わ、わかりました~】

不正部品を外した程度で、簡単に引き下がるような奴らでは無い!そんな事は十分過ぎるほどパチ屋勤務時代に経験して来た。

店に到着し店内を偵察すると、既に怪しいのがメダルを出している。

おそらくゴト師に雇われた打ち子だろう…しかし証拠が無い!

でも!絶対に怪しい…こういう時は交換させない!!確実に揉めるが、これが諭吉流(笑)。

そもそも奴らも非合法なのでまともにやっても勝ち目は無い。

先ずは戦いを挑む前に、本当に打ち子なのか確認する必要があった。

そこで赤井店長に指示を出す事に…

ミッション1【怪しい客…】

《本当に打ち子なのか?確認してみよう♪》

パチンコ屋に怪しい客は付き物(笑)見た目に悪そう、怪しそうなお客は沢山いる…疑いの目で人を見ると、みんな怪しい人に見えてしまうから不思議だ…。

こう言う場合、ゆきちは人の心理を利用する事にしている。その為には打ち子の心の中を考えなければならない…。

ゴト師や打ち子とて人間…。

率先して警察の世話になりたい人はいないだろう!C物を扱う奴らはリスクの高い行為、ヤバイ事は必ず第三者に委託するシステムになっている…。

それらがいわゆる打ち子やサクラと呼ばれる人達だ。

不正行為に関わる打ち子は【これは危ない仕事】と言う心理を持ち合せている場合が多い…。

その危ない?と思っている心を軽く揺すってやると、大概の人間はボロを出す。

先ずは白か黒の判断…。

赤井店長は怪しげな客に近付きミッションを発動した!

赤井店長【お客さん!!】

赤井店長【ホルコン異常が出てますので、台を点検させて下さい!】

怪しき客【えっ!…】

パチンコの世界で一番必要のない存在!!それはゴト師

業界に携わった人間なら誰でも知っている当たり前の事だ。

目の前で起こっている現実を見過ごす訳にも行かず、ゴト師と一戦構える覚悟で事に挑んだ。

いま目の前にいる怪しい客…。

奴は心の中に不安の種を持っているだろうか?罪を認識している人間なら、心の中に必ず不安の種を持っているものだ。

その種はちょっとしたキッカケで不安から恐怖へと成長し行動に現れる。

その行動を見れば、白なのか?黒なのか?その判断はたやすい。

不安の種を恐怖へ成長させる仕掛けが始まった。

赤井店長【スイマセン!ホルコンで異常警報が出ていますので台をチェックさせて下さい。】

怪しい客【えっ!あ~…ハイ】

通常この段階でボロを出すゴト師はいない。

この程度で動揺するのは一般客レベル…。

そもそも身に覚えが無い事で異常が出ている!と、言われれば誰しも動揺して当たり前…!?だが、怪しい男は迷い無く席を立った。

怪しい…

数分後…

赤井店長からメールが入る。

店長メール【割り込み発見しました!!どうしたら良いですか?】

ゆきちメール【奴に見えるようにハーネスを交換して下さい。】

怪しい男は台が見える位置に腰掛け、赤井店長の様子を伺っている…。

そしてハーネスを外した瞬間から、奴の態度が急変する。

店外に飛び出し誰かと携帯で話しているようだ。

さりげなく男の背後に近付き会話を盗み聞く…。

間違い無い!奴は黒!!

黒と判った以上、容赦はしない!そして逃がさない♪

何故なら俺はこの店で設定師をする事を決めたから!

その為にもコイツは逃がさない!

危険を察知して早々に逃げ切るつもりなのか?怪しい男は不正に獲得した5000枚のコイン(10万円相当)の交換を求めて来た。

怪しい男【あのぅ~…時間が無いから帰りたいんやけど…】

赤井店長【あっ!ちょ!ちょっと待って頂けませんか?も、もうすぐ終わりますので!】

怪しい男【いゃ!急ぎやから帰らなアカンねん!早くしてくれ!(怒)】

赤井店長【あっ、えっ…えーと…ちょっと…】

赤井店長はアドリブが非常に弱い…これ以上は逃げられる恐れが有ったので応援する事にした。

何が何だろうと、こう言う場合は景品交換させない!店長時代に何度もゴト師とやり合った経験に従った。

ゆきち【こんにちは…】

怪しい男【な、なんやお前は…】

ゆきち【この店のセキュリティ担当してる者です】

怪しい男は落ち着き無くソワソワしている…頻繁にまばたきを繰り返し目線は辺りをキョロキョロ…誰の目から見ても不審者に見える(笑)。

奴はさっきの電話で…。

後ろで立ち聞きされてるとも知らず、店内での出来事を長々と話し、自ら不正に係わっている事実までも口にした。

稀に見る馬鹿と言うか、間抜けと言うか、恐らく場数を踏んでいないのだろう。

これでこの男の正体は判ったのだが、問題が一つ。

この時点で景品交換する理由は無いが、立ち聞きしていた内容を告げた所で、黙って帰る連中では無い…。

むしろ景品交換しない事を逆手に取り、違法営業だと騒ぎ立てるのが奴らのやり口…諦めさせるには奴らのミスが必要だった。

怪しい男を事務所に連れて行き話しを始める…。

ゆきち【じつは景品交換は出来ないんですよ】

怪しい男【何でや?】

ゆきち【ご自身が一番よく解ってるのと違いますか?】

怪しい男【はぁ?何の事や(笑)】

ゆきち【さっき外で電話かけてはりましたやん(笑)】

ゆきち【別に交換されても構わないですが…腰の重い警察でも動いてくれそうな証拠を記録させて貰いましたから】

怪しい男【な、何の事言うてるか解らんけど(汗)とりあえず、その証拠見せてみぃや…】

ゆきち【あんたアホちゃいますか?何処の世界に犯人に証拠見せる馬鹿がいますねん(笑)】

ゆきち【証拠が無い!思うんやったら、このまま交換して警察の世話なったら良いですやん!】

この時、警察を動かせる証拠などまるで無かった…全てハッタリの心理戦(笑)。

男は電話の内容を聞かれていた事がショックだったのか、かなり動揺し冷静さを失い始めていた。

ゆきち【今日はこのメダル預かりますね…この後警察に行って!証拠提出して!被害届け出して!処理します!!】

ゆきち【もしメダル交換するんやったら、明日の昼にでも取りに来て下さい!(笑)あっ!警察の人が貴方を待っているかも知れませんけどね。】

ゆきち【僕らは、貴方を捕まえるのが仕事では無いのでね(笑)不正行為を防げたら良いんですけど♪交換されるとなると僕達の立場が無くなりますからね~】

ゆきち【あっ!もちろん交換には応じますよ!…今はまだ窃盗未遂か建造物侵入罪程度ですけど、交換した場合は窃盗罪が確実に適応出来ますからね♪】

ゆきち【何年以下の懲役だったかな~?明日までに調べておきますよ♪】

ゆきち【でっ!どうします?】

ゆきち【あっ!そうそう…まだお名前聞いてませんでしたよね?】

怪しい男【…………】

ゆきち【何か言えない理由でも、あるんですか?】

怪しい男【た、田中や…】

ゆきち【ほぅ…田中さんですか】

ゆきち【じゃあ田中さん!メダル預かっても良いですかね?これでも交換ご希望でしたら明日必ず交換させて貰いますので…】

怪しい男【と、とりあえずそれで良いわ(汗)】

男は逃げるようにその場を去った…。

翌日、雇われ主にメダルを置いて逃げ帰った事を咎められたのか?男は顔面を腫らし店に現れた。

が、しかし…。

昨日の男は逃げ帰りたい一心で、偽名を使っていたのが明白だったので名前と住所を書かせておいた。

本人はとっさにデタラメを書いたのだろうが、結局はそれが自爆行為、男のミスとなった。

預かったメダルを渡すのだから、本人確認の出来る身分証を持って来なければ渡さない!と、男を追い返した。

住所と名前が一致する身分証を手に入れるのは先ず無理だ、公的書類を偽造すれば罪はさらに重くなる。

男に残された選択肢は、自腹でゴト師に金を払うだけ!そうすれば助かる道は有る。

目先の銭欲しさに軽い気持ちで手先になったのだろうが、その代償は高かっただろう…

こうして、この一連のトラブルを片付けた事で、壊し屋社長の店を再建させる新たな道が開かれた。

次回更新へ続く

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★用語解説★
《ロム》
プログラムが書き込まれたもの。全ての情報を司る司令塔(教科書)のような役割。電源の供給が途絶えても、その内容は失われる事は無い。

主基盤側はメーカー出荷段階で封印が厳重にかけられ、容易に取り替える事は出来ないが、当時はサブ基盤側のロムには封印されていない物が多く、獣王やサラリーマン金太郎を始め多くのAT機のサブ基盤交換ゴトまた、ロム交換ゴトが頻発した。

《C物》
セット打法が書かれた基盤やハーネスをC物と呼ぶ。C物は特定の打ち方をした場合にのみ作動するプログラムが書かれており、その手順を知らなければプログラムを作動させ恩恵を受ける事は出来ない。
プログラムを一度作動させれば、好きなだけ玉やメダルを獲得する事が出来るので、その破壊力は計り知れない。