なぜか武井壮と矢口真里の結婚式に呼ばれた筆者は、二次会でベロンベロンに酔っ払ってしまい、適当にあったウーロン茶を飲んだのだけども、それが矢口真里の飲みかけだったらしく、武井壮が「それ間接キッス……! オオイ! お前、結婚式の日にそれはオオイ……!」とブチ切れた。それから見知らぬ人々の前で公開説教である。恥ずかしいやら申し訳ないやらでだんだん武井壮にムカついてきた辺りで目が覚めた。

(なんや今の夢……!)

あまりの意味不明さに、隣で寝息を立てる妻を揺り起こす。

「ねぇ、はるちゃん! はるちゃん!」
「んー……どうしたの」
「何か凄い夢みた!」

夢の内容を説明すると、横になったままクスクスと笑う。我々夫婦には「面白い夢をみたらそれを報告し合う」という謎ルールがあった。なので先日妻が見た面白い夢の内容も筆者は知っている。たしか、我々夫婦が何故か高校生クイズ番組の司会をしておったところ、一番賢そうな高校生が誤回答をしたあと、挙動不審な態度で会場に向かってゆっくり手をついたので『土下座するのかな』と思ったらそのまま足をぷるぷるさせて『狂牛病のマネ』をした、というものだ。

夢、というのは生理現象であって別に神秘的なものはなんにもない。と、カガクの子である我々は分かっているけども、脳理学やらが未発達な時代に於いては、そこに示唆を見出したり、意味を見出したり、予言か預言かあるいは予知か、とにかく「何らかの未知の力が働いた結果」見せられるものと考えられていたそうな。

武井壮とか狂牛病のマネとかにどんな神秘が隠されているのか。あの世でジークムント・フロイト先生にお会いするタイミングがあったら是非伺いたいもんだ。

さて。面白い夢を相手に伝える、というのは結構難しい。

寝てる時は妙にツボが浅くなるんでめちゃめちゃ笑うけど、起きてみて冷静に考えるとなんも面白くない、というのも結構あるからだ。寝起きのテンションで伝えてもいまいちピンと来てもらえない事も多々ある。

例えば筆者の場合、こういう夢があった。

筆者は混雑したホールにいて、とあるパチスロ機の前にいた。それがかなりデカい機械で、横幅が普通のパチスロの10倍くらいある。正確な数は分からないけど、リールの数もめちゃくちゃあった。筆者は夢の中で「これは絶対おもしろいしめっちゃ出る」と思っており、それに着座して打ち始める。

1ゲーム目、最初のリールで中段に7が停まった。その時点で何故か「当たった」と確信する筆者。その台はとにかく「中段に7が止まった数」で出玉がアップしていく方式であるらしい。次のリール。また7だ。隣にはなぜか昔大好きだったホールの店員さんがおり「すごいすごい」とやたら煽ってくる。

3リール目も4リール目も7。どうやらこの時点で100万円くらい出るらしい。

何故か周りにはリアルの友達が沢山いて、みんなリールを停めるたび、ウオオオと雄叫びのような喝采を挙げる。その後も中段には7が停まり続け、気づいたら最後のリールになった。この時点で数億が貰えるようだ。最後のリール。ゆっくり目押しをしてフンッと揃える。中段にビタリと停まる7。こうして、筐体には数え切れないほどの7が並んだ。大喝采。やばい一生遊んで暮らせる金が手に入った! と思った。

「これ、全部揃ったらどうなるの」

隣に座った店員は勢いよく頷いてこう答えた。

「カニです!」

手渡されたカニを胸に乗せて気をつけの姿勢で胴上げされる筆者。あまりの祝福っぷりに「数億は?」聞けずに投げられたり受け止められたりする。そのうちトランポリンの要領でだんだんと投げられる高度が上がる。ワッショイワッショイ。上がり続ける高度。カニが動く。どうやら生きてたらしい。高度に驚いたカニは猫の如くツメをたて筆者にしがみついてくる。胸骨のあたりに胴体をひっつけ、開いた足をちょうど肋骨あたりにピタッとくっつけ、ギューッとハグしてくる。

ワッショイワッショイ。

上がり続ける高度。なぜかホールの天井は消え失せ、電信柱の上あたりまで飛んでいた。しがみつくカニ。ワッショイの高度はさらに上がり続け、やがて筆者は天空へと飛翔した。胸にカニを乗せて──。

目覚めてすぐに胸をまさぐる。カニはいなかったし、隣では妻が猫を抱いて寝ていた。夢か。と思ってすぐに猛烈に面白くなり一人で笑ったけど、これは果たしてどう伝えれば良いのか自分でも分からず、ルール違反ではあるが妻を起こすことはしなかった。やがて横になって今しがたの夢の内容を反芻するうち、いや、今のそんなに面白かったか? という気になった。考えれば考えるほど何が面白いのか分からない。いま書いてても分からない。けど、起きた瞬間は猛烈に面白かった。

また、筆者は最近よく「金縛り」に遭う。

これもすでに脳理学的に解明されている現象だしホラー要素は一切無いのは分かってるのだけど、非常に心細いのは確かだし怖いんで嫌だ。要するに「意識」は起きてるけど「身体」が寝てるのである。意識が起きてるといっても1/3くらいのものなので、気にせずそのまま寝てしまえば大丈夫なんだけど、たまに変な風にボタンをかけ違えた感じで妙に意識が冴える時があって、そういう場合はもう寝るのが無理ゆえ身体の方を起こすしかない。

「グフっ……!」

つい先日もそんな感じになったのだけど、隣で嫁さんがスマホをいじってまだ起きてるのが見えたので「あ、起こしてもらえばええんや」と気づき、必死に気づいてもらおうとアピールした。

オオイ……ハルチャァアン……キヅイテェェ……。
オオウイ……起コシテクレェェイ……。

脳の仕組み上か、呼吸のペースを変えるのが無理なので何とか意識の支配下にありそうな声帯部分を微妙に動かしつつ、スーハーの音に併せて一音ずつ頑張って発音を試みる。

しばしのち、妻が気づいてコチラに視線を向けた。

いいぞいいぞ。その調子だ。起こしてくれい。今すぐ起こしてくれい。必死に声帯を動かして発音を試みる。大丈夫。いけるいける。これはいける。起こしてくれる。交信を続けるうち、妻が破顔した。

「ケラケラケラ──!」

大爆笑する妻。いや、違うんだ。笑わせようとしてんじゃないんだ。起こして欲しいんだよ……。そのまま一分くらいずっと腹を抱えて笑う妻の横目で、何とか自力でその呪縛を解く筆者。ようやっと自由を取り戻して安堵する。ああ不安だった。

「もう! 起こしてくれよ!」
「え? 起こしてほしかったの?」
「そうさ。金縛りだよ金縛り!」
「ああ、そうだったの。何か薄目のままアムアムーアムアムーって言ってるからどんな夢見てんだろうと思って」
「アムアムーって、それたぶん『ハルチャァン』って言おうとしてたんだよ」
「あー、なるほどね……」

プンスカしながら再び横になる筆者。妻もその横で改めてスマホをいじり始める。そしてまた、思い出したようにクスっと笑った。ちくしょうめ。覚えておくがいい。きみが金縛りになっても俺は絶対に起こしてやらないぞと思っていると、ベッドの横で様子を見ていた猫が、筆者の胸にぴょんと乗ってきた。

「グフっ……!」

と声が出て、そうして気づいた。

──ああ、金縛りの原因はコイツか。