筆者、サービス業に従事していた時期がかなり長い。

 

学生時代はイタ飯屋やらゲーセン。社会人になってからはカルチャースクールの運営やら回線営業スタッフ、そして家電量販店の勤務などなどなど。ライター業以外でやってきた仕事の多くはお客さんと面と向かってやりとりする系のヤツだ。プロ・オブ・ザ・プロまでは行かずとも、それなりに経験は積んでる。

 

そんな俺からいっこだけ大切な話をする。「お客様は神様でも何でもねぇ」という事は絶対に肝に銘じておいたほうがいい。なんならサービスを提供してやってる方が偉いくらいまで思いながら、サービス業のスタッフは日々仕事をしておる。

 

筆者もそういう仕事をやってる時は無理筋のクレームはちょっとでも相手にとって嫌な記憶になるようボロクソな対応をしていた。んでボロクソな対応をされた方はだいたい鳩が豆鉄砲を食ったような顔してもっとキレ散らかし、それに呼応するようにこっちはもっとブチ切れていた。キレ&キレ。そしてこれは俺が特殊なわけではなく、実は多くのサービス業で普通のことだったりする。理由は簡単だ。オーナーでもなんでもねぇからである。最終的に「辞めりゃ済む」しまたそういう客がくるタイミングは何故か大体「そろそろ辞めようとしてる時」だったりするゆえ、渡りに船だったりする。

 

んでそういう事をすると最近はSNSとかで「店員の態度が酷い」みたいな感じの動画で拡散されたりするんだけども、あれは最近の店員が酷いんじゃなくて昔から酷いんである。SNSが出てきたからそれが白日の下に晒けだされただけで、なんてことはないのだ。誰にだって腹の虫の居所が悪いときはあるし、堪忍袋の限度もまた毅然として存在する。んで繰り返すがこれはホントに普通のことであり、店員がそういうボロクソな対応をしてる時は、客の方がイカれた事を先にしてるのだ。もちろん全部が全部とは言わんが、多くの場合はそうだと思う。

 

とはいえお客様と「クソ客」間の薬域・毒域みたいなのは存外広く、多少お客様の要求が厳しくても、店員はニコニコとそれに従うか、あるいは親身に世話する。俺だって普通はかなり親切なほうだと思う。ただドを超える瞬間というのはやっぱあり、その辺のドはスタッフそれぞれで方向性が違う。俺の場合は「謝罪の要求」というのが最もカチンと来る事であった。それを出されると即座に「お客さま」が「クソ客」に転落してたもんである。もちろんこっちに非がある場合は自発的にむちゃくちゃ謝罪しつつ過度すぎるくらいの補償をするけども、別にこっちに何の落ち度もねぇことに関して謝れと言われたら「はぁ?」となり本来こっちで出来るはずの補償とかも絶対やりたくなくなる。あんまりひどい場合はその時点で覚悟を決めて「はよ帰れ」的な対応する。繰り返すけどこれは全然特殊じゃない。というかそういう対応が必要になる瞬間というのは絶対あるので、それが出来ないとサービス業のスタッフはある意味で失格なのだ。なので必然的に長くサービス業やってるひとは「はよ帰れ対応」が出来る人なのです。

 

筆者が知ってるある人は、非常に腹が立つ客からのクレームを受けた際にネクタイを外しその辺にある商品をレジに持っていきポケットから金を払うや「これで俺も客だからあっちで客同士の話をしようぜ」つって店のすみっこまで客を引っ張っていこうとした。客は「あれ、そんな感じ?」みたいな顔ですぐ帰っていったものである。そんなスタッフも普段は非常に良い人だし接客も完璧であった。今は人材派遣会社の役員やってるけども、当時はただの店員である。流石にこれはやり過ぎであるが、まあこういう伏龍も全然珍しくないので、客だからとあんまり無茶苦茶な要求はしないほうが良い。

 

何が言いたいかというと、「店員」に対し当たりが強い客というのは一定数存在し、そして彼らは店員からの反撃をほとんど想定していない。

 

もちろんマジでサイコパスな店員というのも一定数居るとおもうけども、筆者の知る限りボロカスな対応されてる客というのは全て客側に責任がある事だったし、だからこそそういうことがあった際に店から客に対するフォローアップは何もない。アホ来て、暴れて、そして帰っていった、くらいの認識である。実際俺も相当酷い対応をしたことが何度もあるけど、クビになったことは一回もない。なので「店員の対応が酷い」系の動画を見る際には、9割引くらいの覚悟で見るべきである。よっぽどじゃない限り大体客が悪い。繰り返すがお客様は神様じゃねぇのである。

と、なんでこんな話をするかというと、つい先日、都内のパチ屋のカウンターでスタッフに対しめっちゃ文句言ってる爺を発見したからだ。爺つっても多分60代くらいだと思うけど、なにをプンスカ怒ってるのか耳をそばだてた所、どうも交換の手際が悪いとかなんかそんな感じの超どうでも良い事で物凄くゲンナリした。おそらくめちゃくちゃ負けた客なんだろうけども、見てるこっちの気分が悪くなり、店員さんも大変だなぁ……と同情しつつ様子を見ること2分くらい。スタッフさんがどっかにインカムを飛ばすと、すぐにスーツの男性がやってきて爺の話を聞き始めた。いままでクレームを食ってた店員さんはすぐに交換業務に戻り、すごい笑顔で俺を対応する。その目を見た時、俺はぞっとしたのだ。

 

(あ この人1ミリも気にしてねぇ)

 

というのが丸わかりだったからである。いままでの事なんぞ何もなかったかのようにスンと手際よく(実際良かった)交換を行うスタッフさんを見ながら、俺は自分の未熟さを思い知った気持ちだった。クソ客に対し怒ったり辞める覚悟をするのはまだ甘ちゃんである。パチ屋くらいハードなクレームがゴリゴリに起こる場所の熟練スタッフさんはそういうのを遥かに超越した精神的タフネスを備えており、もはやクレームなんか何も聞いてねぇのである。恐らく彼は2分くらい「休憩時間はどの弁当屋に行こうか」と考えながら爺のセリフを聞き流し、そろそろというタイミングで店長だか社員だかにパスしただけである。じゃないとあの、ちょっと蚊に刺されましたみたいな顔はできない(無茶なクレーム食らうと非常に腹が立つので大体の人が涙目になったり顔が赤くなったり震えたり、どっかしらに出ちゃう)。

 

爺からしても暖簾に腕押しとはまさにこのことだと思う。こんにゃく相手にボクシングしてるようなものである。恐らくクレームをつける事自体が目的化してる系の爺だと思うけども、よく考えるとこっちが反応するのは悪手である。多分正解は「弁当の事を考えて笑顔で2分くらい対応する」だと思うし、爺にも(あ、こいつ何も聞いてねぇ)というのは伝わるんで目的も未達に終わり、次の被害を防ぐことにもつながる。

 

何度も繰り返すけど、お客は神様でもなんでもねぇ。なんならサービスしてる方が偉いまであるし、そう思いながら仕事してる人が大半だと思う。表に出さないだけでね。それでも丁寧に対応してるのは、お金貰ってるプロだからなので、あんまり訳解んないクレームはつけちゃダメ。正当なクレーム(指摘)に対してむちゃくちゃな対応する人は多分いないので、そこはバッチリやってよしだけどね。