自分の肺を頭の中でイメージすると、ぬめり気を帯びた揺れる臓器は、1ミリ程の焦げ茶色をしたヤニでべったりとコーティングされている

 

激しく運動しようものなら、その桃色の細胞がヤニと一緒にねちゃねちゃと収縮を繰り返し、いつしか同化してゆくような印象を持っていた

 

元来の運動嫌いに、そんなおかしな妄想を働かせて、より動かぬことを意識した不健康な生活もとうとう終末を迎える

 

電車に乗っては、数駅で下車してベンチに突っ伏し、家で友人と遊んでいても突然調子を崩して寝込み、さしてつまらなくもなさそうにTVに見入る友人を横目に、布団の上で、ヒューヒューと口呼吸をしながら、20年後に60の若さで寝たきりになっている自分をリアルに想像できたのが最後の一押しとなった

 

吸った年数の倍くらいの時間で肺は元通り、なんて言葉をどこかで見聞きした気はするが、そんな悠長なことを言っていたら寝たきりになってしまう

 

禁煙して数カ月で軽い筋トレをはじめ、とうとうジョギングなんてものにまで手を出しはじめる

 

が、このジョギングが大問題

 

完全になめてかかっていた

 

ネットでいらん知識を仕入れ、とりあえず5キロくらいかなと、走りはじめるも80メートルほどで息が上がる

 

マジですか…と何故か敬語になりながら愕然とするも、走り続けりゃ馴れるはずと、ジョギング1キロ、ウオーキング4キロで初日を終える

 

二日後、三日後と遅々とながらも距離を伸ばし、走歩半々、少し落ち着いたころに、いかにも忙し気なサラリーマンの早歩きが、走るポチをどんどん追い抜かしていることに気が付く

 

どうゆうことよ、との疑問を解決すべく、店舗のガラスに目を移すと、走るというよりも、ぴょんぴょんとダニのように小さく跳ねているおっさんがいる

 

十代の頃、年寄りの方のジョギングを、歩く自分が追い抜いていた記憶が甦る

 

めぐってめぐる、そういうことだ

 

ほどなくして

 

「最近、夜中になぜか上機嫌でスキップしてるおっさんがいるんです」

 

との通報が入りそうな頃、膝に軽い疼痛が走る

 

筋肉痛の一種だろうと無視して走ると、翌朝には激痛に

 

一日、間を開けて、痛みが引いてきたことをいいことに、ジョギングに必要な筋力を得るためのスクワットなるものを、画面向こうにいる朝倉南34歳みたいな女性と一緒に、はじめてみる

 

翌日、膝、大破

 

それからは、無駄な悪あがきもやめて、ただただ安静に、膝に負担をかけないことだけを考えて生活し、激痛に変ってからひと月近く、やっと最低限の動きができるようになった

 

「運動前の方が健康的だったんじゃね?」

 

的な発言をする友人を無視して、最近では、暇さえあれば、膝の筋肉を得るために市営の屋内プールに通っている

 

もし、そこらの市営プールの一番端の水中歩行レーンで、どこかの大奥様と一列になって、何かの儀式のように、え~んやこ~ら~、みたいな動きを繰り返しているとっつぁん坊やがいたならば、2%の確率でそれはポチです

 

※イメージです