チンパンジーにも矜持はある。本能で並んでるわけじゃない。

もとより田舎育ちの筆者は「なにかに並ぶ」という文化があんまり馴染みがなく、都会に出てきてはじめて、人気のラーメン屋に諸人こぞりて行列を成してるのを発見するにつけ「都会の人は暇なんだな」「人生の時間を無駄にしとるな」あるいは「バカだな」と、ぼんやり思うと同時に「マジでラーメンの為に並んどる奴おるやん!」と珍獣を発見した気分になったのを覚えている。流石にもうこっちに出てきて相当経つので妙な上から目線も消えてしまったけど、未だに「並ぶ」という行為に関しては妙な気恥ずかしさみたいなのがあり、いつなん時いかなる場面でも並ぶ事に対して抵抗がない嫁さんの影響もあって幾ばくか解消したとはいえ、昼時分は「すいてる店」を探し求めて周辺を歩き回る日々を過ごしている。

というか、行列を忌み嫌う自身の性癖を分析するに、たぶん「うまいものを食う」ために並ぶとか「珍しいものを見る」ために並ぶという行為が苦手なんだと思う。なんせそれは「暇な時に行っても同じ」であり提供される体験にクオリティの差はない。合理主義を気取るわけじゃないけど、「並ばなくていい時」に行くのがスマートなんだと思う。だので、筆者の場合、食いたいものがあったとしても「混んでたら別の機会にし」「今回は別の店へ新しい体験を探しにいく時間にする」。これは特殊な考え方じゃなく、どうやら似たような主義に従って「並びを忌避する」人生を歩んでる同胞もおるそうで。どっちが上とか下の話じゃなくまあ多分どっちも正解なのだけども、よく考えると面白いもんだなと思う。

いや待った。じゃあ翻ってパチ屋はどうなんだと。

筆者、パチ屋にはすげー並ぶ。特に昔はメチャクチャ長時間並んでいた。最近は抽選方式の進化で並び時間自体は減縮傾向にあるけど、それでも前段で「バカだな」くらい言ってたアクションを自ら執り行いつつワクワクしながら今や遅しと立ちんぼしておるわけで、これはあまりにも言行不一致。主義と実際が乖離してる。が、敢えて言おう。パチ屋は例外なのだ。なんせ「パチ屋」に関しては「暇な時に行けばいい」という類のもんじゃなくて「並ばないと勝てない」「台が取れない」という明確な因果がある。従って並びたくねぇから別の店へというロジックが成立しない。もちろん「昼からいく」とか「夕方からいく」という場合もあってその時にはさして絡まない話だけど、「今日はどうしても朝から打ちたい」「仕事のために新台を打たねばならない」という場合、そこはもう平気で並ぶ。

ラーメン屋の行列を「バカだな」と思いつつ、パチ屋にはニヤニヤして並ぶ。

おそらく。おそらくだ。おそらくだけど、これは世の中のスタンダードの真逆なんじゃねーかなと思う。パチをやんない人にとっては、おそらくパチ屋にこぞりて列を成す我々はチンパンジーの群れに見えると思う。間違いない。だって筆者にもそう見えてるもん。でも自分もその群れの一塊、恥ずかしくともなんともない。チンパンで悪いか。ウンコ投げるぞ。くらいある。が、一方でラーメン屋に並ぶ人に「よくそんな非生産的なことが出来るな」とシニカルな視線を送る。もちろん、そのラーメン屋に並んでるサラリーマンは向かいのパチ屋の行列を見て「アホが群れとる」と思っているのだけど、目くそが鼻くそを笑っても無意味なように、ここに上下関係はない。どっちもアホだと思う。が、同じアホでも「パチ屋に並ぶ人」の後ろ指さされ率はラーメン屋に比べて遥かに高い。人生の落伍者、くらい思われてても不思議じゃない。実際落伍してる人を多量に含有してるので否定できない。

ゆえに「パチ屋に並ぶのは恥ずかしい」という話もよく聞く。

これ結構ガッツリパチンコを打ってる人からも聞く話だし、まあ筆者も低貸専門店で先頭に並んだ時はむっちゃ恥ずかしい感じがしたんで気持ちは分かる。が、冷静に考えて欲しい。それは勝つため、楽しむ為に並んどるという明確な目的意識が絡んでる以上、暇な時に言っても全く同じ体験ができるであろうラーメン屋の行列より無駄が少ない。なんかラーメン屋批判みたいになっとるが、そういうつもりは毛頭ない。旨いから行列になっとるんだろう。店のスペースと回転率の関係上行列が出来るのは仕方ない話だし、批判するつもりはない。ラーメン屋は悪くない。が、何も考えずに並ぶのが非生産的に見えると言ってるし、生産性でいえばパチ屋に分があるゆえ「恥ずかしがる必要は全然ないよ」と言いたいのだ。

先日、近所のパチ屋で並んでる時の話。そこそこ良番を引いて前の方にいると、道行く子供が我々を指差し「お祭り!」と言った。駆け寄ろうとするその子の腕を引き、ママが言うのである。「駄目!」と。あまつさえ小走りで走り去る。

口には出さなかったけど、その場に並ぶ全員が「すんません」と思ってたと思う。筆者も思った。ごめんね平日ッからパチ屋に並んで。と。こんな大人になっちゃ駄目だよ、くらい思った。が、いやいや、世間は平日でも俺にとっては休日だし。今日は特日だし。勝つために並んでるし。と自己肯定の言葉をいくつかアレした結果、冒頭の考えに至った。

友よ、堂々と並ぼう。パチ屋の並びはちゃんと意味がある分、世のあまねく「行列」たちの中でもだいぶ有意義な方だと思うよ。