つい先週の話だけど、例によって嫁さんと晩飯がてら居酒屋にいったら隣の席に物凄くガラの悪そうな兄ちゃん二人がめちゃめちゃ横柄な態度で座っており、なんかヤダなぁと思いつつ面白いんで耳をそばだてつつビールをかっ喰らっておったところ、予想通りパチンコの話をしていた。最近となりの席でパチンコの話してる人もトンと見かけなくなった時世なんで「ああ久々だなぁ」と思いつつ何を話してるか気になり、嫁さんの職場のグチを聞きつつも意識を厩戸王の如く分裂させ右耳で探った次第。

 

結果わかったのが二人が無職でパチプロしてる事と、ハゲた方が先輩(親?)で金髪のほうが打ち子みたいな事をしてるという事だった。ハゲた方は筆者より全然年上に見えたけども、スロを打ち始めたのがどうやら「バジ2」ということなのでどうやら下らしい。なんでそんな事がわかったかというと二人して「初めて打ったスロ」の談義に花を咲かせてたからで、それに対して金髪の子が放った一言が「ビーキッズクラブ」だったので腰を抜かしそうになった。5号機の方かと思ったけどどうも口ぶりからして1998年のほうらしく、まだ二十代前半くらいに見える事から考えると下手したら小学生くらいから打ってる可能性がある。

 

おまえバジ2のくせに(失礼)なにビーキッズを雇っとんねんと喉元まで出かけるもふたりとも目が怖かったんで勿論突っ込まず。嫁に「いやぁ、大変だねぇ毎日」とか「頑張って出世しないとね」みたいな当たり障りのない返事をしつつ3杯くらいビールを飲んだところで、逆サイドの隣に若いカップルが座ってきた。

男の方は身長155センチくらいのだいぶ小柄なこれまた金髪の兄ちゃんで、女の子のほうは夜の店の雰囲気が若干感じられるシュッとした美人であった。

 

男の方がやたらテンションが高く声がデカかったんで必定そっちも耳に入り、嫁とスロッター二人とカップルの3組の話を脳内で並列処理する。男の方は自己啓発っぽい事をやたら述べておったのだけども、いかにも夜の店っぽい女の子に経済の話などどう考えてもミスチョイスな話題を振るのを見るにつけいよいよ怪しく、最終的に「GAFAって知ってる? アメリカの有名企業なんだけど、グーグルと、なんだっけ。あとウーバー?」という「GAFAにUはねぇだろう」というツッコミ待ちとしか思えないアホな発言をしてたことからいよいよ「こいつマルチだな」と確信。んでその確信を裏付けるかのように「ねえ、キミ、アムウェイって知ってる」からの「誤解しないで欲しいんだけど、俺は商品が好きで使っててさ」という人生で100回くらい聞いたお決まりの文句が飛び出し、自分の直感の正しさを再認識した。

 

こうなるとバジ2とビーキッズのことなぞどうでもよくなり、155センチのチャラ男vs夜の店っぽい女の子の「マルチ攻防」の行方に全神経が持っていかれる。

 

嫁も俺と付き合うなかでこういう「隣の席の人の話を黙ってきく」という趣味の面白さを識っているんで、「GAFAって知ってる? ウーバー?」辺りからニヤニヤしながらうまそうに酒を飲み始めていた。(おいおい面白いことになってんぞ)とお互い目で会話しつつレバーを貪り食ってるあたりで、夜の店っぽい女の子が反攻に出た。流れとしては「俺はアムウェイの製品が好きで使ってるけど、よく誤解されるんだよね。よかったらキミも使ってみない?」からの「わかるぅ。私も学会員でよく誤解されるから」だった。「え、学会? それなに」「創価学会」。

 

刹那、俺も嫁も椅子からぴょんと5センチくらい飛び上がりそうになった。

 

こんなもん、ゴジラ対キングギドラみたいなもんである。どっちがゴジラでどっちがキングギドラか知らんが、アムウェイvs創価学会はアツすぎるカードだ。当然男ももう引けないからアムウェイを推すし、女もその女郎蜘蛛めいた策略で、こうなったら布教したんぜくらいの感じで一歩も引く気がない。お互い相手を食う気まんまんで食われる気が一切ない不毛な合戦がしばし続くも、後半はディベート能力というか自頭の差で女のほうがだいぶ押しており、男は黙って酒のんで「わかるぅ」「だよねぇ」と言ってるだけであった。気付いたら逆サイドのバジ2&ビーキッズの二人組は消えており、中年のカップルが着座して唐揚げを食ってた。アムウェイの男はもはやサンドバッグにしかなっておらず、最終的には田舎の芋煮会(?)みたいな謎の集まりに誘われていた。

 

「いやぁ……な?」
「すごかったね……」

 

会計を済ませて浅草寺まで散歩中、我々夫婦は先程の状況を互いに反芻しつつ思ったことを語り合った。

 

「俺としては、マルチ&宗教の前から逆サイドにいた人らの話も結構面白かったんだよね」
「あー、なんかぱちスロの話してたね。あれなんだったの?」
「あれね、めっちゃすごかったんだよ。年上のハゲいたじゃん、あれがバジ2で若いほうが……」

 

と途中まで説明してハタと気付いた。これどう説明してもたぶん伝わらねぇ。というかマルチ&宗教のバトルがアツ過ぎて勝てない。なになに、と重ねて聞いてくる嫁に2度ほど首を振り返して「ああ、まあ、単に若いほうがね。凄いヤツだった、って話さ」とだけいって、家にいるネコのために、護摩を一本炊いて夜道を帰った。