※以下、ほぼ全部ウソです。

人が持つ数多の煩悩のなかでも「知」に対する欲というのは大変根深く、例えば旧約聖書に登場するソロモン72柱の悪魔のなかには召喚者の命や体の一部と引換えにそれを授けてくれるとされるものが全部で12柱もいるし、また仏教においては究極の知である悟りを得るために即身成仏を迎える僧も数多くいた事などからも分かるように、好奇心がネコを殺すのと変わらぬかたちで、人は古来より知を求めて死んできた歴史がある。

現代においても世の中に遍く存在する全ての事象には、必ずそれを極める事に一生を捧げる人たちというのがいる。金が絡まぬ形でそれをやるのが「オタク」あるいは「マニア」もしくは「求道者」であり、職業になると「研究者」や「学者」と呼ばれる。もちろんパチンコやパチスロにもそういった形で学道のひとつとして日々研究に勤しんでいる人々というのがいて、これはあまり世に出ている話ではないが、さすが数兆円産業と呼ばれるだけあり、有名な大学にはちらほら、「遊技産業研究家」あるいはもっと簡単に「パチンコ研究家」という肩書の人がいる。彼らはそれぞれ学派を形成しており、同じ閥員同士で集まっては定期的に研究結果の報告会などをおこなっており、そしてそういった会にはメーカーやホールの人間はもちろん、稀にパチンコライターが呼ばれる事がある。

特に機密保持などの契約があるわけではないが、こういった集まりに呼ばれた事実というのは表に出さないのが(なぜだか分からないが)暗黙のルールとなっており、多分、パチンコ産業に相当詳しい人の間でも、こういう学会の存在は意外に知られていないんではなかろうか。もちろん、雑誌で書いてるような有名なライターさんは一回くらいは呼ばれた事があるはずだし、あるいは人によっては共同研究で論文を書いてたりもしてるそうな。

筆者はぺーぺーもぺーぺーなので今までに数えるほどしか出席してないが、そこでのやり取りは毎回非常に興味深く、いつかは外に出したいと常々思っていた。ただ前述のごとく「なぜだか分からないが表には出さない」という謎ルールがあり、果たして書いて良いものかどうなのか煩悶としていた所、なんと先日、某K大学系列の学閥を仕切る教授から「安田さんにはお世話になってるから、悠遊道になら書いても良い」という許可をいただく事ができた。

もちろん、書いて良い話とダメな話は厳選する必要があるが、恐らく遊技産業学術会議(以下、パチンコ学会)に言及するコラムというのは史上初だと思う。これがどういう結果を生み出すのか未知数であり恐ろしい気分もあるのだが、むしろ今、筆者は新しい扉を開く興奮で指を震わせつつ、このキーボードを叩いている次第。

さて、先日のパチンコ学会でのテーマは「ビタ押しのビタってなんだよ」というものであった。

これに関してはその前の学会でやり玉にあたった「ズル滑りのズルってなんだよ」というテーマとニアであり、当然その両者は祖を同じくする派生問題であった。前回のズルは「ズルっと滑るから派」と「南アフリカの遊牧民族であるズールー族から来てる派」で相当な論戦が繰り広げられ、最終的にはズールー族派が用意したエビデンスが鉄壁のものであり疑問の余地がないものであったため、今ではそれが正式に認定された語源という事になっている。

今回のテーマである「ビタ」に関しては、前回ズルっと滑るからという荒唐無稽な珍説を唱えた教授が前回の雪辱を晴らんとせんがため、勢い込んで「ビタッと止まるから」という、これまた噴飯ものの奇説を唱え、学会は冒頭から混乱を極めることになった。折り悪く「鐚(びた)一文のビタ」という説を長年研究している民間研究者チームの主任が議長を務める場だったこともあり、一時は罵詈雑言が飛び交う修羅場となったが、この紛糾を正したのは意外にも、前回ズールー族説を唱えた教授であった。奇しくも前回の論戦が再現される。戦いの火蓋は、教授のこの一言で始まった。

「諸々の歴史的背景を分析するに、ビタ止まりのビタは、ビタミンのことであります」

実はこのビタ止まりビタミン説(以下・B=V説)は東北のとある村に現存する古い石倉から発見された、当時の岩崎藩で御庭番を務めていた「久保田秀ナオ(ナオはサンズイに直)」なる侍が残した書物(以下・久保田資料)を基礎とする理論であり、元をたどれば昭和初期からB=V説の根強い根拠となっていたものだ。一時はこれによりビタ押しのビタはビタミンのビタである事がほぼ確定的な歴史的事実として扱われていたものが、最新の炭素測定技術により久保田資料の信ぴょう性に疑問が提示されたことにより理論の基礎が瓦解。変わるようにして台頭したのが「PS vitaのvitaからビタになったのでは」という説(B=Vi説)だ。これはソニーの研究者グループが言い出した事であり、当初は主張そのものの正当性が問われていたものがNintendo3DSが爆売れした辺りで徐々に認められ始め、最終的はビタ押しの語源として定着しつつある説である。このままB=Vi説が正式な論として採用されるかと思った矢先、前述のズールー族の件があり、そういやビタってなんだよ、となってこうなった(徐々になげやり)。

しかし、一度は捨てられて現在は埃を被っているかのB=V説が、令和のこの時代に再び取り沙汰される事になるとは。果たしてどのような理論構築により、B=Vi説の牙城を崩すというのか。およそ8時間に渡る長大なプレゼンテーションと論文の精読により明らかになった新たなる歴史的事実とは……! 以下! 次号! 唸れ! レバーオン!

※もっかい言うけど全部ウソです。