毎年、確定申告の時期になるとこの話題が出ますが、今日は”なんで死人が出るのか”について掘り下げる回。基本的な法律論についてはポスト先の記事を読んで下さい。大体網羅されていますし、それはご理解いただいた上で、遊技した結果の所得にはどんな問題が潜んでいて、何故今こうなっているのかをぱちんこ村の住人であるボクなりに考察してみます。

 確定申告をするかしないか、すべきか否かの是非について論ずるものではありません(ここ大事)。それをご承知おきの上、読み進めて頂ければ幸いです。

確定申告をする上での問題点

 まず大前提として景品交換で得たお金というのは紛れもなく所得なわけですから、それを隠す・確定申告しないというのは脱税と言われても仕方ありません。では、実際に確定申告をするとなると何が問題になってくるのか。複数の論点を整理してみます。

〇お客側の所得を追跡する術がない問題

 ご存じの通り、ボクらはぱちんこで遊んだ後、なぜかホールの近くにある小窓に特殊景品を差し出す事で現金を得ます。これは本来、何度も使いまわしている特殊景品(中古物)の商取引にあたるわけですから、お金を得る側のプレイヤーサイドがいくらもらったのかを記録する必要があります。

 しかし、ツタヤやゲオ、メルカリなどで中古物を売却した場合と違い、景品交換所での取引には個人情報が一切いりません。「景品交換所からいくら出たのか」は記録としてあっても「誰がそのお金を受け取ったのか」の記録がありません。その為、税務署や検察が脱税として調査するにしても、所得があった事を立証出来ないという問題があります。

 一方、このご時世、全ての現金をタンスにしまっている人などほぼいないでしょうし、銀行や各種電子マネー等への入金記録はどうしても残るわけで、車や不動産などの購入で大きなお金を動かした時、所得の出所が不明な人には税務調査が入る可能性があると言われています。ただ、パチプロ専業で実際に税務調査が入ったという例は、ボクの知る限りありません。

 その為、パチプロが脱税で立件されるケースと言うのは、ぱちんこの換金に関する直接的な部分を問題にするのではなく、何か別の所得があってそこに不備がある場合。いわゆる別件逮捕から詰められて容疑者の自白をもって黒にする、そんな形になるのではないかと推測されます。

〇お客側が使ったお金も証明できない問題

 次に出る方のお金について。いつもボクらは台の横のサンドに現金を入れて遊技しますが、「誰がいくら使ったか」を追跡するシステムもありません。ただ、領収書をホールに請求する事は可能です。公的に証明したい場合、ホールで遊技するごとに領収書をもらう事で、理論上は支出をクリアにする事が出来ます。

 しかし、ホール側には領収書を発行する法律上の義務はありません。発行してくれるホールはあくまでサービスの一環としてそれをやっているだけ。そして、不特定多数が出入りするホールにおいて、一人一人が使った金額を追跡するのは事実上不可能な事や、領収書を求めるお客もほぼいない事から、領収書を発行しないホールの方が圧倒的多数なのが現状です。

〇三店方式ならではの問題

 ホール・景品問屋・景品交換所という3”店”を経由する事で事実上の換金が許可されているぱちんこ業界において、お客側の換金も、お客・ホール・景品交換所という3”点”方式で成り立っています。これにより以下の問題が発生します。

①.ホールで使ったお金はそもそも支出として認められるのか

②.仮に認められるとしても領収書を発行するホール(ほぼない)でしか打てなくなる

③.システム上、ホールで使ったお金と換金所で得たお金に直接関係が無いのでトータルで勝ってようが負けてようが、”景品交換所で得たお金だけ”が所得として計上され、支出(仕入れ)が計上できない

 という3つの問題が浮上します。

 ぱちんこを打つ事が継続的な収入源として成り立っているパチプロや演者・ライター等の場合、ホールで使ったお金が事業経費として認められる可能性はあると言われています。しかし、この点は税務署の個別判断になるので実際のところは分かりません。そして、支出は領収書で記録できても、収入は記録の無い自己申告になる為、いくらでも嘘の申告が出来てしまうのが現状です。

 つまり、換金にまつわる収支とそれに付随する税の問題というのは、そもそもシステムに大きな欠陥があるという事。そのような状態で、道義上問題があるからと言って所得を申告して税金を払おうなんて人がいるわけがありません。そして、これはパチプロだけの問題ではなく、いくら負けていようが年間で20万円以上の換金をした全ての打ち手に関わる話、という点を理解しておきたいところです。

収支を透明化するために必要なのはまず法改正

 では、この欠陥システムをどうしたらクリアにする事が出来るのか。これは、ぱちんこ専用のカードなり免許(以下ぱちんこ免許)なりが無いと換金が出来ないよう、システムを変えれば良い。そこに個人情報を紐づければ、理論上は可能です。マイナンバーカード刺さないと換金できません、が一番分かりやすいでしょうか。

 ただ、ぱちんこ免許が所得だけの追跡となると支出面の問題があります。ですので、完全にクリアにしたいならば、遊技・ホールでの景品交換・景品交換所での換金の全てにぱちんこ免許を紐づける必要があります。

 勿論、ぱちんこ村の誰も得をしないこんなシステムが、業界の自主規制で出てくるわけがありません。ですので、そのシステムを導入・義務付けるならば、ぱちんこアンチの皆様による法改正が現実的な路線です。ボクは法律の専門家ではないので正確なところは分かりませんが、現状、ぱちんこ業を取り締まる風営法に所得追跡を義務付ける文言はありませんし、賭博法との兼ね合いもあります。風営法の改正だけで対応できる事案とは思えませんので、恐らくぱちんこが風営法の管轄から外れ、競馬や競輪などのようにぱちんこ専用の業法を制定しなければいけない事案になるでしょう。

 それは、ぱちんこ業界だけではなく、政治も行政も巻き込む大改革になります。

業界の大不況に繋がれば本末転倒

 仮にそのような大改革を断行した場合、まず最初にプレイヤーが激減します。ぱちんこ免許を取得してまで打ちたくない、という人がまず離れるでしょうし、税制がクリアになったからやろう、となる人よりも離れる人の方が大きく上回る事は想像に難くありません。

 次に、プレイヤー激減と莫大な設備投資に耐えられない多くのホールが潰れます。付随してメーカーは勿論、販社や映像制作会社、部材を作る製造業、ぱちんこ版権で潤っているアニメ・声優業界等々、関連事業者にも大不況の波が訪れます。

 2021年の統計局によるデータでは、日本の全産業の市場規模(売上高の推計)は約1,689兆円と言われていますが、その中でぱちんこ業界は約14.6兆円。関連事業者も含めれば日本の1%以上を占める、未だ巨大な産業です。それが、大きな危機に直面するという事です。人口で言えば100万人以上に不幸が訪れ、税収も数千億円単位で減る事が予想されます。その余波は社会の様々なところに及ぶでしょう。

 「打ち手から税金が取れるじゃないか!」って?いやいや、そもそも負ける人の方が圧倒的多数だから成り立つ業界ですから、収支をクリアにしたら、むしろ経費計上が増える分、減収間違いなしです。

 「それならトータルで負けている人は経費計上できないようにすればいい!」……そんな、ごくわずかしか生息していない、トータルで勝っている人から雀の涙ほどの税金を取る為だけに、100万人が生活に困るかもしれないリスクを背負っての大改革なんて、本当にやる必要ありますか?

 「じゃあ国営化だ!」……いやいや、ぱちんこ業界の経営者・株主たちには、憲法で保障されている財産の自由があるわけで、どうやって彼らの財産を国に召し上げろと?国営化には憲法の改正が必要で、そんなの非現実的にも程があります。

 勿論、大改革と同時に遊技機性能の緩和や、ホールの株式上場、射幸心を煽りまくる広告の許可、ネット遊技の許可等々、風営法下だからこそ抱えている業界の問題が解決され、イノベーションが活発化してV字回復する未来も無いとは言いません。しかしそれは劇薬。そもそも実質的に賭博であるぱちんこが、これ以上盛り上がる事に社会的な意義があるとも思えませんし、盛り上がり過ぎたら社会問題化するのはこれまで何度も通ってきた道です。

 そして、もしもそのような大改革を先導する人物や団体が現れ、それが長い目で見たら日本の為になるとしても、目の前の生活を奪われる人々の怒りの矛先は全てその人たちに向かいます。高尾の社長が殺害された未解決事件に代表されるように、未だ黒い影が付きまとう業界なのはご存じの通り。だから、パチプロが確定申告する世界へ向かうと死人が出る、まだ今は。ボクはそう考えています。

結局三店方式が悪いんだけどそれを作ったのボクたち全員だよって話

 2024年現在、何故このような欠陥システムでぱちんこの換金が成り立っているのか。それは、三店方式に全ての元凶があるわけですが、そもそも三店方式は当時の人々が望んで生まれたものだという事も忘れてはいけません。

 三店方式の成り立ちについて、詳しくは↑の動画を見て下さい。4年前に作った物なので1.25倍速がオススメですが、当時の時代背景を知らずして三店方式の是非は語れません。そして、1960年代に固まった三店方式が80年間ずっと続いているのは、これまでそれを変えようとしなかったボク、そしてあなた、ボクらの親、祖父母世代の全ての人々の意思と行動の結果です。民主主義の結果として作られた正式なルールであって、そこに欠陥があろうとも、正す事よりも現状維持を選んできたのは、戦後の全日本人の行動の結果です。

 「パチンコ打ちは全員脱税犯だ!」という個人の思想を振りかざすのは自由です。はたまたグレーと分かっていながら甘受するのも自由です。そして、ぱちんこで得た所得を確定申告しない事が適法か否かで言えば、お得意の「ただちに違法とは言えない」でしょうか。そういう法律になっているのだから仕方ありません。

 そして、法治国家である以上、ぱちんこの換金と税問題に不満があり、現行のルールを変えたいならば正式な手続きに則って行動すれば良いだけです。ただ、その正義は80年間、民主主義の手続きの中で採択されてこなかったからの今だという事も忘れてはいけません。

 動画内でも語ったように、この先どうなるかは分かりません。多くの人がぱちんこの存在意義を不本意であっても認めていたこれまでの社会と違い、斜陽と言われて久しいこの業界の規模がもっと縮小し、大改革を断行しても社会のデメリットよりメリットが上回ると判断された時、換金と税の問題はクリアになるのかもしれません。その時にはもう、パチプロは存在していないかもしれませんが。


■万回転 プロフィール

  • 1978年生まれ ♂ 
  • 累計15年間パチプロしちゃってごめんなさい
  • CR銭形平次の捻り打ち動画をアップしてしまいネットでプチ炎上した事を機に安田プロと個人的な親交が生まれ、悠遊道へ寄稿する事に
  • 色々あって完全にパチプロを引退。
  • 現在は悠遊道動画チャンネルの何でも屋

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