大学の頃、社会学かなんかで「ホモ・ルーデンス」という言葉が出てきた。

オランダの学者(多分)であるホイジンガというおっさんが記した書物の名前だ。内容は「人間は遊びを通じて社会性を身につけてきたんだよ」みたいな感じで、確か講義のサブテキストとして購入必須だった気がする。なので俺も買って読んだし内容もある程度理解したけど、もちろん大人になった現在、日常生活には何の役にも立ってない。

ただ、ライターというのは面白い職業で、こういう「無駄知識」(失礼)をお金に変えることができるわけで。俺のコラムには若い頃に仕入れたそういう「ちょっとしたトリビア」みたいなのが頻出する。

それらは主に「ネタが無い」ときに脳みその奥から引っ張り出してきた「古い記憶だから怪しいけども、時間もねぇしどうせ知ってる人はそんなにいないだろうからいいや」みたいな緊急避難にちかいもので、こういうのを「こたつ記事」と呼んだりする。もちろん俺も職業ライターなので、同業者がそういう仕事をしてる時は「ああよっぽど書くことがねぇんだな」「わかるかわる」と我が身に置換し頭を垂れる次第なり。あんまりよくないんだけどね。

さて今回のこのコラムがまさしくそういう感じの回なんだけど(なんだと!)、皆さんは「パノプティコン」という言葉をご存知だろうか。

おそらく知ってる人は20パーセントくらいしかいないと思う。教員免許持ってる人は知ってるはず。教育学で出てくるからね。知らんって教師は忘れてるだけです。これはイギリス人が考えた「監視システム」のことで、要は「必要最低限の人数・労力で監獄を管理するにはどうすればいいか」を突き詰めた「偉い人が考えた最強の刑務所」の事を指します。んでこの考え方は「学校運営」にも共通してるし、もっとミクロな話では「教室」の管理にも応用できる。従って「教育学」と密接な関係があるのね。

例えば教師が「なぜ重要な話(主に説教)をする時は教室のいちばん後ろに立つのか」だけど、これは「どこから見られてるか分からないほうが、ひとは強いプレッシャーを感じる」という心理学を応用してて、これが正しくパノプティコンの考え方なのね。先生は「知ってて」そういう事をやってるわけです。

で、実はこれパチンコ屋さんの運営にも応用されてます。

設備の話は横に置いとくとして、なぜパチ屋の「シマ」が一直線なのか。これは作業のしやすさもさることながら、「ゴト防止」のための側面が強い。たまに「円形」に組んであるシマとかあるけども、あれはスタッフからみて曲面の向こう側に常にデッド・アングルができてしまう。もちろんそういう場所は防犯カメラや鏡なんかでカバーしてある(はず)なんだけど、そのへんはおしゃれさとトレードオフになる話で、対ゴトの堅牢性という意味では「直線のシマ」よりずっと劣る。当然巡回人数を増やす必要も出てくるし、必然的に人件費もかかる。

「最低限の人数・労力での運営」となると、曲線のシマはありえないわけです。

もうひとつ。なぜ大型店舗にはほぼ確実に「メイン通路」があって、そこから左右にシマが伸びてるのか。これもパノプティコンでいう「中央塔」の考え方に通じる。つまり通路には常にスタッフが行き来してて、それぞれのシマを見張ってる、という形になるゆえ、ゴトをやろうとする側からすると難易度が一気に高くなるわけです。監獄には必ず中央塔があって、脱獄者を常に監視してます。あれも外側から見るんじゃなくてど真ん中からランダムに見てるわけです。だから最低限の人数で最大限の監視効果がある。パチ屋の中央通路も同じで、真ん中にドンと通路があってスタッフが往来してると、それだけで監視効果がある。

小型店は中央通路がなくて、通路が手前にしかなかったり、また通路自体がない所もある。けど、それは小型だからですね。少人数で隅々まで警戒できるからそういう自由度を持たせることができるだけで、大型店で同じことをしたらゴト師が死ぬほどきちゃうと思います。明らかに防犯難しいもん。

パノプティコン的に一番いいのは中央に警備の詰め所があって、そこから多方向に直線の廊下を伸ばし、そこに独房を作ること。これだったら「一人」で全部の独房を常に見張っとくことができるゆえ、実際にそういう形で作られてる刑務所も多い。パチ屋も同じ形にすると、理論上はもっとも防犯堅牢性が高いお店になる。けど、これには「土地が無駄に必要になる」という大問題があって、今のところそういう作りのお店には出会ったことがない。ただシマをそういう風に組んでるお店というのは、もしかしたらどっかにあるのかもしれない。

今後スマートパチンコ・スマートパチスロが出てくると「シマ設備」が不要になります。これは取りも直さず「シマの形の自由度」が飛躍的にアップする事を意味しておりまして、またそもそも遊技機の管理に人手がかからんため「人員削減」も容易になることから、おそらくは最低限の人数でお店を管理すべく「パチ屋のためのパノプティコン」とも呼ぶべきものがクローズアップされてくるはず。なんとなくビジネスチャンスの匂いがするけども、今のところ同様の予想してるのは俺だけです。

もしこの数年で同じことをいうコンサルタントさんとかが出てきたら、このコラムのパクリだと思ってください。なんちゃって。